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「ふじ君、元気になったら、仕事に戻って来てね。待ってるから」
佳奈多は頷いた。ペアで行う仕事が多い中で、人の入れ替わりがとても激しい。しょっちゅう相方が変わると鬼嶋が零していたことがある。佳奈多は鬼嶋の仕事上のパートナーとして受け入れられたようだ。
鬼嶋と佐藤と入れ替わりに見舞客がまた訪れた。刑事かと思ったが、ノックの後に姿を見せたのは大翔だった。
入院した日に、警察官と立ち去る姿を見たきりだった。
佳奈多のベッドの傍に立ちすくむ大翔としばらく無言で見つめ合う。佳奈多は気を取り戻し、さっきまで鬼嶋が座っていた椅子をすすめた。
「あっ、ぅ…ひろくん、椅子…」
大翔の傍に椅子を寄せても大翔は立ったまま、佳奈多を見つめていた。表情が乏しい大翔だが、何かに耐えるように見えた。
「ひろくん、どうしたの?どこか、痛い?」
「…か、な、ちゃん…」
やっと声を絞り出した大翔はぐっと拳を握りしめている。大翔の言葉を、佳奈多は根気強く待った。
「ごめん、かなちゃん…怪我、…俺の、せいだ」
「どうして?」
「俺が、松本の家に行かなければ…アイツに、かなちゃんの存在を知られなければ」
佳奈多は首を横に振った。きっと大翔の父とその秘書、どちらかから遅かれ早かれ情報は漏れたはずだ。あの二人爪の甘さを考えると、今まで佳奈多の存在が知られていなかったことのほうが驚きだ。次期頭取候補が大翔であると言われたのか、自分から知ったのか。いすれにしても発端は、大翔の兄自身が次期頭取候補ではないと知ったことのようなので、仕方がなかったのだと佳奈多は思っている。
「かなちゃん、生きてて、良かった。また、いなくなっちゃったら………俺、もう、生きていけない」
「だめだよ、ひろくん。そんなの、だめだよ。僕がいなくても、ひろくんは、生きるんだよ。ちゃんと、生きて」
涙を流す大翔の両手を取って、佳奈多は強く握った。
「黙って、いなくなって、ごめんね、ひろくん。僕、ちゃんと、1人で生きていけるって、ひろくんも、僕も、そうならなくちゃ、一緒に、いられないって、思ったから」
学生時代、大翔も佳奈多もお互いがいないと生きていけなかった。精神的にも、金銭的にも。
生き方も大翔との離れ方も、きっと、もっと他に方法があった。それでもあの時はそうするしかできなかった。お互いずっとふたりで一つ、べったりとくっつきあっていた。そのせいで離れる時も黙って姿を消すことしか選択できなかった。そうしないと離れられないと思っていたから。
「ひろくん、僕、死なないなんて、約束できない…なにがあるっ、か、わっ、わかんない、でも…ぼ、ぼっ、ぼく、ひっ、ひろくんと、一緒、いっ、いたいよ、ちゃんと、二人、でっ、生きっ、生きてっ…」
佳奈多は大翔の手を握りしめて訴えた。しゃくりあげてしまってうまく言葉が出てこない。
「ひ、ひろくん、大切に、して、ひろくっ、の、こと…ぼくの、ためっ、だけじゃ、なっ、…ひろくんの、たっ、ために、生きて。そうじゃ、なきゃっ、…僕たち、僕、いっ、一緒に、いられない」
大翔に伝わっているだろうか。佳奈多は言葉も昂ぶりも抑えることができない。うまく伝わらなくても、少しでも、大翔にはきちんと話しておきたかった。
「二人、で、生きるの…生きるの、今っ、の、今の、ままじゃ、で、できっ、ない、から…」
「できるよ!二人で、いようよ!」
佳奈多は首を横に振る。
「だ、だめだよ、だめ…ひろくん、は、お、お父さんと、…松本家から、離れ、離れたほうが、いいと、思…今、すぐじゃ、なくて、いいから…ひろくん、だめに、なる」
佳奈多はまっすぐ、大翔を見据えた。
「大丈夫、ひろくんなら、だ、大丈夫だから、……もし、ひろくんが、待ってて、くれるなら…僕、迎えにいくから。ひろくんを、あの人達から、守るから」
佳奈多は頷いた。ペアで行う仕事が多い中で、人の入れ替わりがとても激しい。しょっちゅう相方が変わると鬼嶋が零していたことがある。佳奈多は鬼嶋の仕事上のパートナーとして受け入れられたようだ。
鬼嶋と佐藤と入れ替わりに見舞客がまた訪れた。刑事かと思ったが、ノックの後に姿を見せたのは大翔だった。
入院した日に、警察官と立ち去る姿を見たきりだった。
佳奈多のベッドの傍に立ちすくむ大翔としばらく無言で見つめ合う。佳奈多は気を取り戻し、さっきまで鬼嶋が座っていた椅子をすすめた。
「あっ、ぅ…ひろくん、椅子…」
大翔の傍に椅子を寄せても大翔は立ったまま、佳奈多を見つめていた。表情が乏しい大翔だが、何かに耐えるように見えた。
「ひろくん、どうしたの?どこか、痛い?」
「…か、な、ちゃん…」
やっと声を絞り出した大翔はぐっと拳を握りしめている。大翔の言葉を、佳奈多は根気強く待った。
「ごめん、かなちゃん…怪我、…俺の、せいだ」
「どうして?」
「俺が、松本の家に行かなければ…アイツに、かなちゃんの存在を知られなければ」
佳奈多は首を横に振った。きっと大翔の父とその秘書、どちらかから遅かれ早かれ情報は漏れたはずだ。あの二人爪の甘さを考えると、今まで佳奈多の存在が知られていなかったことのほうが驚きだ。次期頭取候補が大翔であると言われたのか、自分から知ったのか。いすれにしても発端は、大翔の兄自身が次期頭取候補ではないと知ったことのようなので、仕方がなかったのだと佳奈多は思っている。
「かなちゃん、生きてて、良かった。また、いなくなっちゃったら………俺、もう、生きていけない」
「だめだよ、ひろくん。そんなの、だめだよ。僕がいなくても、ひろくんは、生きるんだよ。ちゃんと、生きて」
涙を流す大翔の両手を取って、佳奈多は強く握った。
「黙って、いなくなって、ごめんね、ひろくん。僕、ちゃんと、1人で生きていけるって、ひろくんも、僕も、そうならなくちゃ、一緒に、いられないって、思ったから」
学生時代、大翔も佳奈多もお互いがいないと生きていけなかった。精神的にも、金銭的にも。
生き方も大翔との離れ方も、きっと、もっと他に方法があった。それでもあの時はそうするしかできなかった。お互いずっとふたりで一つ、べったりとくっつきあっていた。そのせいで離れる時も黙って姿を消すことしか選択できなかった。そうしないと離れられないと思っていたから。
「ひろくん、僕、死なないなんて、約束できない…なにがあるっ、か、わっ、わかんない、でも…ぼ、ぼっ、ぼく、ひっ、ひろくんと、一緒、いっ、いたいよ、ちゃんと、二人、でっ、生きっ、生きてっ…」
佳奈多は大翔の手を握りしめて訴えた。しゃくりあげてしまってうまく言葉が出てこない。
「ひ、ひろくん、大切に、して、ひろくっ、の、こと…ぼくの、ためっ、だけじゃ、なっ、…ひろくんの、たっ、ために、生きて。そうじゃ、なきゃっ、…僕たち、僕、いっ、一緒に、いられない」
大翔に伝わっているだろうか。佳奈多は言葉も昂ぶりも抑えることができない。うまく伝わらなくても、少しでも、大翔にはきちんと話しておきたかった。
「二人、で、生きるの…生きるの、今っ、の、今の、ままじゃ、で、できっ、ない、から…」
「できるよ!二人で、いようよ!」
佳奈多は首を横に振る。
「だ、だめだよ、だめ…ひろくん、は、お、お父さんと、…松本家から、離れ、離れたほうが、いいと、思…今、すぐじゃ、なくて、いいから…ひろくん、だめに、なる」
佳奈多はまっすぐ、大翔を見据えた。
「大丈夫、ひろくんなら、だ、大丈夫だから、……もし、ひろくんが、待ってて、くれるなら…僕、迎えにいくから。ひろくんを、あの人達から、守るから」
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