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松本家は言えばなんでも出てきた。食べ物も、服も。
髪を切ると告げたら男の使用人が二人ついてきた。脱走防止だろう。運転手と共にガレージに向かうとずらりと車が並んでいた。中でも数台はギリギリまで車高を下げてあり、攻撃的な見た目をしている。頭の悪そうな装飾は兄の趣味なのだろう。やはり、随分と甘やかされているようだ。
大翔は使用人二人と運転手と、大人数で髪を切りに向かった。
身綺麗になった鏡の中の自分を見つめる。佳奈多と一緒に暮らしていた頃の自分に戻った気がする。でももう少し肉をつけたほうがいいかもしれない。筋肉が落ちた。まだ佳奈多の元に行くべきじゃないかもしれない。
佳奈多が伝えたかったのは、きっと外見のことじゃない。わかっていても少しでも佳奈多に良く見られたいと思う。早く会いたい。それなのに、理由をつけて佳奈多との再開を引き延ばそうとしている。松本家の与えられた部屋で一人佳奈多のことだけを考えている。
佳奈多と会えたあの日から、もう数日が経った。
また拒絶されたらと思うと怖かった。次に拒絶されたら、大翔は自身がどうなってしまうのかわからない。
佳奈多のいなくなったこの数か月、地獄を見た。どこにいるのか、生きているのかさえわからない佳奈多を求めて真っ暗な場所を彷徨い続けた。あの地獄は二度と味わいたくない。大切な人はいつ目の前からいなくなるかわからない。会えるならいい。二度と会えなくなることもある。
大翔は覚悟を決めた。
まず、タクシーを呼んだ。引き止める使用人達を無視して、大翔は松本家を後にした。
佳奈多の働く施設の前に、赤色灯をつけたパトカーが止まっていた。何があったのか。タクシーに待っているよう声をかけて、外に出る。施設の門に警察官が立っていた。大翔は警察官に声を掛ける。
「すみません、利用者の親族です。面会に来たのですが、何かあったんですか」
「面会の方ですか。すみません、今は面会できま」
「松本、ひろと…?」
警察官の話の途中、大翔は声をかけられた。施設の中から出てきた女性だ。見覚えがあると思って大翔は気づいた。先日、佳奈多を施設内に連れ去った女性だ。女性はスマホをかざして大翔の目の前に突きつけた。
「ね、この車、知らない?〇〇ナンバーで、数字が✕✕✕✕のやつ」
スマホの画面には車が表示されていた。形は少し違うが見覚えがある。ナンバーも薄っすら記憶に残っている。どこで見ただろうか、記憶を辿る。
そしてスマホを突きつけてくるこの人は、近くで良く見たら男性だった。彼の顔は青ざめて、目に涙が溜まっている。嫌な予感がした。
「ふじ君、連れてかれた、なんか、やばいやつらに。松本、ふじ君の、友達なんだよね?なんか、知らない?」
「…兄の、車だ。たぶん港の倉庫にいる。あなたも聞いてください、倉庫の住所は〇〇市〇〇、パトカーを向かわせてください、すぐに!」
「え、あなた、見舞客じゃ」
「わかった!〇〇市の〇〇、倉庫!パトカー!!」
住所を警察官にも伝えて、大翔は待たせていたタクシーに飛び乗る。佳奈多の先輩は周囲にいた警察官に叫んでくれていた。運転手に倉庫の住所を伝える。大翔の兄が根城にしているという場所だ。
佳奈多に先輩と呼ばれていた男性が見せてきた車種は松本の家で見た車だった。ナンバーも合っているので間違いない。佳奈多をさらったのは大翔の兄だ。
松本の家で、兄と父は次期頭取がどうの言っていた。大翔が次期頭取になると勘違いした兄が、佳奈多を使って大翔をどうにかしようと考えたのではないか。どうやって佳奈多の存在に気づいたのかは知らないが、自分の車で犯行に及んでいるあたり、よほどの馬鹿かなりふりかまっていないのか。どちらにしても、最悪の想像しか浮かんでこない。
髪を切ると告げたら男の使用人が二人ついてきた。脱走防止だろう。運転手と共にガレージに向かうとずらりと車が並んでいた。中でも数台はギリギリまで車高を下げてあり、攻撃的な見た目をしている。頭の悪そうな装飾は兄の趣味なのだろう。やはり、随分と甘やかされているようだ。
大翔は使用人二人と運転手と、大人数で髪を切りに向かった。
身綺麗になった鏡の中の自分を見つめる。佳奈多と一緒に暮らしていた頃の自分に戻った気がする。でももう少し肉をつけたほうがいいかもしれない。筋肉が落ちた。まだ佳奈多の元に行くべきじゃないかもしれない。
佳奈多が伝えたかったのは、きっと外見のことじゃない。わかっていても少しでも佳奈多に良く見られたいと思う。早く会いたい。それなのに、理由をつけて佳奈多との再開を引き延ばそうとしている。松本家の与えられた部屋で一人佳奈多のことだけを考えている。
佳奈多と会えたあの日から、もう数日が経った。
また拒絶されたらと思うと怖かった。次に拒絶されたら、大翔は自身がどうなってしまうのかわからない。
佳奈多のいなくなったこの数か月、地獄を見た。どこにいるのか、生きているのかさえわからない佳奈多を求めて真っ暗な場所を彷徨い続けた。あの地獄は二度と味わいたくない。大切な人はいつ目の前からいなくなるかわからない。会えるならいい。二度と会えなくなることもある。
大翔は覚悟を決めた。
まず、タクシーを呼んだ。引き止める使用人達を無視して、大翔は松本家を後にした。
佳奈多の働く施設の前に、赤色灯をつけたパトカーが止まっていた。何があったのか。タクシーに待っているよう声をかけて、外に出る。施設の門に警察官が立っていた。大翔は警察官に声を掛ける。
「すみません、利用者の親族です。面会に来たのですが、何かあったんですか」
「面会の方ですか。すみません、今は面会できま」
「松本、ひろと…?」
警察官の話の途中、大翔は声をかけられた。施設の中から出てきた女性だ。見覚えがあると思って大翔は気づいた。先日、佳奈多を施設内に連れ去った女性だ。女性はスマホをかざして大翔の目の前に突きつけた。
「ね、この車、知らない?〇〇ナンバーで、数字が✕✕✕✕のやつ」
スマホの画面には車が表示されていた。形は少し違うが見覚えがある。ナンバーも薄っすら記憶に残っている。どこで見ただろうか、記憶を辿る。
そしてスマホを突きつけてくるこの人は、近くで良く見たら男性だった。彼の顔は青ざめて、目に涙が溜まっている。嫌な予感がした。
「ふじ君、連れてかれた、なんか、やばいやつらに。松本、ふじ君の、友達なんだよね?なんか、知らない?」
「…兄の、車だ。たぶん港の倉庫にいる。あなたも聞いてください、倉庫の住所は〇〇市〇〇、パトカーを向かわせてください、すぐに!」
「え、あなた、見舞客じゃ」
「わかった!〇〇市の〇〇、倉庫!パトカー!!」
住所を警察官にも伝えて、大翔は待たせていたタクシーに飛び乗る。佳奈多の先輩は周囲にいた警察官に叫んでくれていた。運転手に倉庫の住所を伝える。大翔の兄が根城にしているという場所だ。
佳奈多に先輩と呼ばれていた男性が見せてきた車種は松本の家で見た車だった。ナンバーも合っているので間違いない。佳奈多をさらったのは大翔の兄だ。
松本の家で、兄と父は次期頭取がどうの言っていた。大翔が次期頭取になると勘違いした兄が、佳奈多を使って大翔をどうにかしようと考えたのではないか。どうやって佳奈多の存在に気づいたのかは知らないが、自分の車で犯行に及んでいるあたり、よほどの馬鹿かなりふりかまっていないのか。どちらにしても、最悪の想像しか浮かんでこない。
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