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「だ、だめだよ、ここ、入ってきちゃ…だめだよ、ひろくん…ひろくん、そう、なっちゃうから、」
佳奈多は顔を歪めて、泣きそうな顔で吐き出した。そうなっちゃう、とは、どういうことだろうか。
早く帰らないといけない。こんな小さな体であんなに重たそうなゴミを持たされて、佳奈多はそんなことをしなくて良い。大翔が大切に、守ってあげなければならない。
(だから、帰ろう)
「…ひろくん、だめだよ、……お父さんと、帰って…」
大翔は広げた両手をおろした。
佳奈多は先輩と呼んだ女性と、施設の中に行ってしまった。大翔は追えなかった。動けなかった。
佳奈多に拒絶された。やっぱり、捨てられていた。
大翔は父親と秘書に引きずられるように車に乗せられた。大翔の後を追ってきたのだろう。
やっと会えた佳奈多に拒絶された。動いている佳奈多が見られた。佳奈多は生きていた。佳奈多に捨てられて、佳奈多と話ができた。
大翔の頭の中は佳奈多のことでいっぱいだった。
気づけば大翔は見知らぬ部屋で、ベッドに横たわっていた。女性の金切り声が頭に響く。
「どうしてあの子を連れてきたの!?この家に、入れないでって言ったじゃないの!」
「まぁまぁ、母さん…可愛い弟だよぉ、仲良く、仲、仲直り、しようよぉ」
扉を開けた先の廊下で、大翔の父は女性に怒鳴られていた。傍には男が立っている。大翔の父の正妻と、大翔の兄のようだ。大翔は二人を、初めて見た。
「大翔、まだ休んでいなさい」
「薄汚い!こんな子がこの家にいるなんて、寒気がするわ!」
「母さ、そんな、ぶふっ、ひどいよ!薄汚っ…へははははっ!まじ、きったねぇ!父さん、こんなの頭取になれないよ!」
「うるさい!次期頭取は、大翔だ…お前達は黙っていろ!ヘラヘラと、お前はいつまでそうなんだ?もう庇いきれないんだぞ!」
大翔の父は叫んだ。家族揃って何をしているのだろうか。よくわからないが、ここにいたいと思わない。外に出ようと横をすり抜けて歩く。玄関はどこだろうか。
「待ちなさい大翔!」
父が叫ぶと、秘書が駆けつけてきた。秘書は大翔の前に両手を広げて立ちはだかる。
「お待ち下さい、大翔様。あなたは次期頭取として」
大翔は秘書の顔面を殴りつけた。背後から、女の汚い悲鳴が響く。殴った勢いで大翔は体をふらつかせた。壁に手をついて体を支え、頬を抑える秘書をもう一度殴る。馬乗りになって何発か入れた。馬乗りになる大翔の腹に、大翔の父が飛びつく。
「大翔!やめなさ」
大翔は秘書と離された。大翔はしがみつく父親の頭を殴った。
ぐらりと視界が揺れる。拳が痛くて体が言うことを聞かなくなった。大翔の弱った体は殴る力も、殴り続ける体力も落ちたらしい。大翔は床に倒れ伏した。殺すつもりで殴った秘書は立ち上がった。思った以上に筋力が落ちている。
「大翔、今日は、休みなさい、この家で。頼むから、お前は…お前だけは、大人しくしていてくれ」
バタバタと足音が聞こえた。使用人達が集まってきたようだ。
痛む拳を見つめていたら、佳奈多の声が聞こえた。
『だめだよひろくん、そうなっちゃうから…』
悲しげな顔が浮かぶ。今佳奈多から見た大翔は、どうなっているのだろうか。
「車、出して…あなたも逃げなさい、怪我、させられちゃう!」
「なにこいつ、突然殴るって…頭、おかしいんじゃね?」
大翔の兄とその母が視界に入った。先程薄汚いと言われた。佳奈多がいなくなってから、佳奈多を探すことに必死で自分に頓着していなかった。大翔は周りに声を掛ける。
「風呂」
「は、…はい?」
「風呂。どこだ?」
返事をした使用人達は青ざめて固まっている。大翔の父が割って入った
「こっちだ、来なさい。…準備を頼む」
真っ黒に汚れた爪に、今更だが、こんな姿で佳奈多に会いに行ったのかと恥ずかしくなった。髭を剃ってみると痩けた頬が際立った。これでは佳奈多が心配してしまうだろう。大翔は食事を取った。付け焼き刃だが、今までを取り戻すように貪り食った。その後は用意された寝室でゆっくり睡眠を取った。
佳奈多は顔を歪めて、泣きそうな顔で吐き出した。そうなっちゃう、とは、どういうことだろうか。
早く帰らないといけない。こんな小さな体であんなに重たそうなゴミを持たされて、佳奈多はそんなことをしなくて良い。大翔が大切に、守ってあげなければならない。
(だから、帰ろう)
「…ひろくん、だめだよ、……お父さんと、帰って…」
大翔は広げた両手をおろした。
佳奈多は先輩と呼んだ女性と、施設の中に行ってしまった。大翔は追えなかった。動けなかった。
佳奈多に拒絶された。やっぱり、捨てられていた。
大翔は父親と秘書に引きずられるように車に乗せられた。大翔の後を追ってきたのだろう。
やっと会えた佳奈多に拒絶された。動いている佳奈多が見られた。佳奈多は生きていた。佳奈多に捨てられて、佳奈多と話ができた。
大翔の頭の中は佳奈多のことでいっぱいだった。
気づけば大翔は見知らぬ部屋で、ベッドに横たわっていた。女性の金切り声が頭に響く。
「どうしてあの子を連れてきたの!?この家に、入れないでって言ったじゃないの!」
「まぁまぁ、母さん…可愛い弟だよぉ、仲良く、仲、仲直り、しようよぉ」
扉を開けた先の廊下で、大翔の父は女性に怒鳴られていた。傍には男が立っている。大翔の父の正妻と、大翔の兄のようだ。大翔は二人を、初めて見た。
「大翔、まだ休んでいなさい」
「薄汚い!こんな子がこの家にいるなんて、寒気がするわ!」
「母さ、そんな、ぶふっ、ひどいよ!薄汚っ…へははははっ!まじ、きったねぇ!父さん、こんなの頭取になれないよ!」
「うるさい!次期頭取は、大翔だ…お前達は黙っていろ!ヘラヘラと、お前はいつまでそうなんだ?もう庇いきれないんだぞ!」
大翔の父は叫んだ。家族揃って何をしているのだろうか。よくわからないが、ここにいたいと思わない。外に出ようと横をすり抜けて歩く。玄関はどこだろうか。
「待ちなさい大翔!」
父が叫ぶと、秘書が駆けつけてきた。秘書は大翔の前に両手を広げて立ちはだかる。
「お待ち下さい、大翔様。あなたは次期頭取として」
大翔は秘書の顔面を殴りつけた。背後から、女の汚い悲鳴が響く。殴った勢いで大翔は体をふらつかせた。壁に手をついて体を支え、頬を抑える秘書をもう一度殴る。馬乗りになって何発か入れた。馬乗りになる大翔の腹に、大翔の父が飛びつく。
「大翔!やめなさ」
大翔は秘書と離された。大翔はしがみつく父親の頭を殴った。
ぐらりと視界が揺れる。拳が痛くて体が言うことを聞かなくなった。大翔の弱った体は殴る力も、殴り続ける体力も落ちたらしい。大翔は床に倒れ伏した。殺すつもりで殴った秘書は立ち上がった。思った以上に筋力が落ちている。
「大翔、今日は、休みなさい、この家で。頼むから、お前は…お前だけは、大人しくしていてくれ」
バタバタと足音が聞こえた。使用人達が集まってきたようだ。
痛む拳を見つめていたら、佳奈多の声が聞こえた。
『だめだよひろくん、そうなっちゃうから…』
悲しげな顔が浮かぶ。今佳奈多から見た大翔は、どうなっているのだろうか。
「車、出して…あなたも逃げなさい、怪我、させられちゃう!」
「なにこいつ、突然殴るって…頭、おかしいんじゃね?」
大翔の兄とその母が視界に入った。先程薄汚いと言われた。佳奈多がいなくなってから、佳奈多を探すことに必死で自分に頓着していなかった。大翔は周りに声を掛ける。
「風呂」
「は、…はい?」
「風呂。どこだ?」
返事をした使用人達は青ざめて固まっている。大翔の父が割って入った
「こっちだ、来なさい。…準備を頼む」
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