黒い春 本編完結 (BL)

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「内容による」
「うぐ…俺を、学年主任に戻してくれと、君のお父さんに…」
大翔はテーブルを叩きつけた。
「お前のお願いじゃない、藤野佳奈多の情報の内容による、と言ったんだ。さっさと話せ」
学年主任は目を泳がせている。大翔は立ち上がって椅子を蹴り飛ばす。部屋を出ようとして、学年主任に止められた。
「す、すまない!話す!話すから、聞いてくれ!藤野佳奈多は、就職したはずだ。○○市の、寮のある介護施設だ」
大翔は扉のノブに手をかけて振り返る。無言で見つめていると、学年主任は立ち上がり、大翔の傍にきた。
「ほ、本当だ。どの施設かまでは知らない。これは、お父様には内緒にしてくれ。君に言わないように、釘を刺されている」
学年主任は両手をすり合わせて腰を折った。ここまで卑屈になる、なにかがあったようだ。大翔は黙って学年主任を見下ろした。
「ちらっと聞いただけだが、間違いない。○○市は馴染み深くてね。君の、お兄さんのことだ。この話をお父様の耳に入れて欲しい。お兄さんのたまり場が○○市にあるんだ。だから覚えていた。お兄さん、このたまり場でまた悪いことをしているらしいんだ。お兄さんが学生の頃は、俺があれこれ揉み…火消しをしてねぇ」
学年主任がニタリと笑う。この男は大翔の兄の問題を揉み消して、大翔の父に学年主任に昇格させてもらったんだろう。大翔が卒業した今、不要になった彼に温情はなくなったらしい。降格されるくらいだから元々その役職に合っていない人間性だったのだろう。それはこの数分でよくわかった。
「もう一度!学年主任に!何卒、頼むよ!松本君!」
大翔は学年主任から興味を失って、部屋を出た。学年主任の話が本当かはわからない。まさか、就職をしているとは思わなかった。
担任が居場所を知っているのは、在学中から就職について話をしていたからだ。卒業前には就職先がもう決まっていたのではないだろうか。
大翔はスマホで地図を呼び出す。○○市はそう大きな町ではない。寮付きとなればかなり絞り込めるはずだ。数社頼んだ探偵がたどり着けなかったことを考えると、自分自身で介護施設に出向いたほうがいい。佳奈多に関して強い情報制限がかけられている。大翔の父の秘書の仕業だろう。大翔は虱潰しに探すことにした。
探偵には大翔の兄のたまり場を探させることにした。大翔の兄は控えめに言ってクズだ。あのクズが今度は何をしでかしているのか。佳奈多の居場所がわからなかったときの切り札にしようと大翔は考えていた。兄の情報を使って佳奈多について聞き出す。大翔の父はあのクズを見放すことができない。
大翔は父を、ゴミ製造機だな、と思った。


大翔の兄のたまり場はすぐに見つかった。港の倉庫のひとつだ。数社の探偵が同じ場所を示したので間違いはないだろう。傷害や恐喝、窃盗。そんなことを繰り返してきたようだがここ最近は薬物に手を出しているようだという報告があった。断定させるのは我々ではないと前置きしながらも各社似たような報告なので、これも事実だろうと判断した。半分血の繋がった兄は予想を上回るクズだったようだ。しかしこれはいい切り札になる。まずは大翔自身で佳奈多を探すことが先決だ。
それから大翔は毎日寮のある介護施設を巡り歩いた。中々佳奈多は見つからない。いくつかの介護施設を曜日や時間を変えて見て回る。ホテルを転々として、佳奈多を探した。あと少し。もう少しで、佳奈多に会えるはずだ。


数回訪れた介護施設で、やっとその姿を見つけることができた。大きなゴミ袋を持った佳奈多が施設から出てきた。
会いたかった。ずっと、ずっと探してきた。
大翔は門をくぐり、佳奈多を抱きしめた。やっと、追い求めていた温もりが腕の中に戻ってきた。
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