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「すみません。佳奈多のことは、なにもお話できません。私もどこにいるのか知りません。申し訳ありません」
そこそこ立派なマンションに佳奈多の父は住んでいた。あの家を売った程度で、こんな場所に住めるだろうか。恐らく大翔の父か秘書が絡んでいる。何度も大翔を訪ねてくるわりには知らぬ存ぜぬを通す父と秘書に腸が煮えくり返った。
なんでもいいから教えて欲しい、父と秘書には黙っておくと伝えたが、佳奈多の居場所は割らなかった。しかし遂に、佳奈多の父はもごもごと口を動かしてから、声を発した。
「あの…高校の、担任の、方が……とても良くしてくれました。何度か、面談をして、その……それ以上は、私は、話せません」
何度も逡巡して佳奈多の父は語り、再び頭を下げた。高校の担任が誰だったが、大翔はあまり記憶にない。明日にでも訪ねようと思った。
佳奈多の父に礼と別れを告げて大翔はすぐさまその場を後にした。その場にいたら泣いてしまいそうだったからだ。佳奈多の父の仕草が、佳奈多を思い出させた。大切だけど言いにくいことを話すとき、懸命に口の中で呟いてから口に出す。なんであんな男が佳奈多の父なのかと頭に血が昇る。佳奈多の父の仕草で佳奈多を思い出してしまったことを、佳奈多に申し訳なく思う。
(かなちゃん、会いたい、会いたいよ)
佳奈多の父で佳奈多を連想してしまうほど、大翔は佳奈多が恋しかった。
大翔は久しぶりに学園に足を踏み入れた。数か月前までこの学校の制服を着て佳奈多と通っていたことが嘘のようだ。すぐに元担任と会うことができた。
担任はひどく驚いていたが、佳奈多の父と同じように佳奈多の居場所は口にしなかった。しかし、担任が喋らないのは佳奈多の父とは違った理由のように思えた。
「藤野君の居場所は知らない。知っていても教えられない。それは彼の意思であり願いだからだ」
担任はきっぱりと言い切り、それ以上佳奈多について話さなかった。それよりも君は大丈夫なのかと大翔の心配ばかりしていた。時計を見て、担任は話を区切る。
「すまない、そろそろ授業だ。藤野君はきっと…君に、会いに行くと思う。待っていてあげてほしい」
担任は深々と頭を下げた。こんなに、佳奈多に親身になっていたとは知らなかった。佳奈多のことを、知ったふうな口をきく担任が少し腹立たしい。しかし、担任の真っ直ぐな瞳に嘘はないように見えた。佳奈多のことも大翔のことも、同じように心配してくれている。在学中には気づかなかった。
担任と別れた大翔は、その場に立ち尽くしていた。佳奈多を探るような真似はせず、担任の言う通り佳奈多を待ってあげたほうが良いのだろうか。本当に大翔の前に現れるだろうか。佳奈多の父と担任の口ぶりから、二人は居場所を知っている。そして存命であることも確かだろうと思う。
「松本君…だよな?久しぶりだなぁ、元気か?」
これからどうするべきか思案していると、声をかけられた。顔を上げるとそこには見たことのある男がいた。この男は何だったか。見つめていると男は笑った。
「まさか、覚えて、ない?学年主任だよ。今は、違うけど…ちょっと、お話できないか?藤野佳奈多のことで」
学年主任と言われて、そういえばそうだったような気がした。あまり教師と関わらなかったので顔も名前も覚えていない。笑顔が薄ら寒い男だが、佳奈多の名前に大翔は頷く。担任と話をしていた応接室に入った。
「実はな、藤野佳奈多の居場所、ちょっと知ってるんだ。知りたいかな?」
「さっさと言え」
大翔は学年主任を睨んだ。ニタニタと軽薄な笑みを浮かべているこの男が不愉快極まりない。佳奈多の名前をこんな男に口にされたくなかった。学年主任はぐっと息を呑む。
「あー…あの、俺の、お願いも聞いてほしいんだ。約束してもらえる、かな」
そこそこ立派なマンションに佳奈多の父は住んでいた。あの家を売った程度で、こんな場所に住めるだろうか。恐らく大翔の父か秘書が絡んでいる。何度も大翔を訪ねてくるわりには知らぬ存ぜぬを通す父と秘書に腸が煮えくり返った。
なんでもいいから教えて欲しい、父と秘書には黙っておくと伝えたが、佳奈多の居場所は割らなかった。しかし遂に、佳奈多の父はもごもごと口を動かしてから、声を発した。
「あの…高校の、担任の、方が……とても良くしてくれました。何度か、面談をして、その……それ以上は、私は、話せません」
何度も逡巡して佳奈多の父は語り、再び頭を下げた。高校の担任が誰だったが、大翔はあまり記憶にない。明日にでも訪ねようと思った。
佳奈多の父に礼と別れを告げて大翔はすぐさまその場を後にした。その場にいたら泣いてしまいそうだったからだ。佳奈多の父の仕草が、佳奈多を思い出させた。大切だけど言いにくいことを話すとき、懸命に口の中で呟いてから口に出す。なんであんな男が佳奈多の父なのかと頭に血が昇る。佳奈多の父の仕草で佳奈多を思い出してしまったことを、佳奈多に申し訳なく思う。
(かなちゃん、会いたい、会いたいよ)
佳奈多の父で佳奈多を連想してしまうほど、大翔は佳奈多が恋しかった。
大翔は久しぶりに学園に足を踏み入れた。数か月前までこの学校の制服を着て佳奈多と通っていたことが嘘のようだ。すぐに元担任と会うことができた。
担任はひどく驚いていたが、佳奈多の父と同じように佳奈多の居場所は口にしなかった。しかし、担任が喋らないのは佳奈多の父とは違った理由のように思えた。
「藤野君の居場所は知らない。知っていても教えられない。それは彼の意思であり願いだからだ」
担任はきっぱりと言い切り、それ以上佳奈多について話さなかった。それよりも君は大丈夫なのかと大翔の心配ばかりしていた。時計を見て、担任は話を区切る。
「すまない、そろそろ授業だ。藤野君はきっと…君に、会いに行くと思う。待っていてあげてほしい」
担任は深々と頭を下げた。こんなに、佳奈多に親身になっていたとは知らなかった。佳奈多のことを、知ったふうな口をきく担任が少し腹立たしい。しかし、担任の真っ直ぐな瞳に嘘はないように見えた。佳奈多のことも大翔のことも、同じように心配してくれている。在学中には気づかなかった。
担任と別れた大翔は、その場に立ち尽くしていた。佳奈多を探るような真似はせず、担任の言う通り佳奈多を待ってあげたほうが良いのだろうか。本当に大翔の前に現れるだろうか。佳奈多の父と担任の口ぶりから、二人は居場所を知っている。そして存命であることも確かだろうと思う。
「松本君…だよな?久しぶりだなぁ、元気か?」
これからどうするべきか思案していると、声をかけられた。顔を上げるとそこには見たことのある男がいた。この男は何だったか。見つめていると男は笑った。
「まさか、覚えて、ない?学年主任だよ。今は、違うけど…ちょっと、お話できないか?藤野佳奈多のことで」
学年主任と言われて、そういえばそうだったような気がした。あまり教師と関わらなかったので顔も名前も覚えていない。笑顔が薄ら寒い男だが、佳奈多の名前に大翔は頷く。担任と話をしていた応接室に入った。
「実はな、藤野佳奈多の居場所、ちょっと知ってるんだ。知りたいかな?」
「さっさと言え」
大翔は学年主任を睨んだ。ニタニタと軽薄な笑みを浮かべているこの男が不愉快極まりない。佳奈多の名前をこんな男に口にされたくなかった。学年主任はぐっと息を呑む。
「あー…あの、俺の、お願いも聞いてほしいんだ。約束してもらえる、かな」
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