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106 side大翔
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佳奈多がいなくなってから、大翔は大学へは行かず、思いつく場所を探し回った。佳奈多の連絡先は何度連絡しても繋がらなかった。
警察に届けを出したが成人を迎えた青年の家出はまともに取り合われない。荷物が佳奈多の物だけ綺麗に持ち出されていたからだ。事件性はないと判断されてしまった。
父親は知らないの一点張りで、秘書の方は笑っていた。
「逃げましたか。恩を仇で返されましたね」
電話越しにも笑顔が浮かんですぐさま行って叩きのめしたくなったが、そんな時間も惜しかった。それに、佳奈多の声が聞こえた気がした。
『だめだよ、ひろくん。殴っちゃ、だめ』
佳奈多の生家へ行ったが、売りに出されていて無人だった。家を売りに出すなど聞いていなかった。佳奈多は知っていたのだろうか。近所に聞いて回ったが、佳奈多の父親の行方はわからなかった。大翔は佳奈多と過ごしたマンションや母の墓にも行った。朝から晩まで待ち続けたが、佳奈多の姿はなかった。
こうして探してみると、大翔と佳奈多を結ぶものはあまりにも少ない。
きっと今も、1人で不安がっている。怖がりな佳奈多の傍にいてあげたい。いてあげなければならない。
もしかしたら戻ってくるかもしれないと、自宅に戻ってひたすら帰りを待った。外に出ずじっと室内で佳奈多の帰りを待つ。何度も父親と秘書が訪ねてきて食事を取って大学へ行くようにと話していたが、大翔は聞く耳を持たず佳奈多を待った。
ずっと頭にあった考えが何度も脳内を支配する。
大翔は捨てられたのかもしれない。佳奈多は黙って、自分の荷物を全て持ち出して消えた。生家が売りに出されることも、大翔には言わなかった。佳奈多は大翔を捨てて、消えてしまった。もしかしたら佳奈多は、もうこの世には。
ついに意識を失って、気づけば大翔は病院にいた。栄養失調で倒れたと聞かされた。どのくらい入院していたのかわからない。点滴をもぎ取って大翔は帰宅した。病院にいるその間も、佳奈多が戻ってくるかもしれないと、気が気ではなかった。
家に帰って自分がいなければ佳奈多はきっと不安になる。少しは食事を取って、生きなければと大翔は思った。命が尽きたら佳奈多に会えない。傍にいてあげられなくなる。
(捨てられたなんて、嘘だ。そんなこと、あるはずない)
佳奈多は大翔を捨てて出ていった。脳内に響く声を、頭を振って打ち消す。
自宅に戻った大翔は少しでも佳奈多の痕跡がないか家の中を探し回った。今までも何度も探したが、ふらつく体にゼリー飲料を流し込んで、再度家中をひっくり返した。
クローゼットの中からテーマパークのキャラクターの飾りが出てきた。頭に被せる可愛らしいそれは最後の修学旅行で買ったものだ。これは大翔が被っていた。佳奈多と対になるキャラクターで、佳奈多の分はなかった。佳奈多が持っていたのだろう。とても気に入っていたこのキャラクターを、捨てることはきっとしない。
思い出の品を、わざわざ持っていくだろうか。
(かなちゃん、帰ってくるよね?今、どこにいるの?)
佳奈多は大翔を捨てていない。佳奈多は大翔にそんなことはしない。佳奈多一人で、大翔を置いて一人この世を去るなんてこともありえない。絶対に。
少しずつ食事を取り、大翔はまた佳奈多を探し歩いた。ネットで探した探偵に数社頼んでみたが、肝心の佳奈多に中々行き着かない。佳奈多の父親の行方は知れたので会いに行った。新幹線を使って向かった先にいた佳奈多の父は、大翔を見てひどく驚いていた。大翔は生きるために最低限の食事を取ることくらいしかしていない。風呂にも入らず、髪も髭も伸びっぱなしだった。名乗って大翔だと気づいた佳奈多の父はその場で土下座をし始めた。
警察に届けを出したが成人を迎えた青年の家出はまともに取り合われない。荷物が佳奈多の物だけ綺麗に持ち出されていたからだ。事件性はないと判断されてしまった。
父親は知らないの一点張りで、秘書の方は笑っていた。
「逃げましたか。恩を仇で返されましたね」
電話越しにも笑顔が浮かんですぐさま行って叩きのめしたくなったが、そんな時間も惜しかった。それに、佳奈多の声が聞こえた気がした。
『だめだよ、ひろくん。殴っちゃ、だめ』
佳奈多の生家へ行ったが、売りに出されていて無人だった。家を売りに出すなど聞いていなかった。佳奈多は知っていたのだろうか。近所に聞いて回ったが、佳奈多の父親の行方はわからなかった。大翔は佳奈多と過ごしたマンションや母の墓にも行った。朝から晩まで待ち続けたが、佳奈多の姿はなかった。
こうして探してみると、大翔と佳奈多を結ぶものはあまりにも少ない。
きっと今も、1人で不安がっている。怖がりな佳奈多の傍にいてあげたい。いてあげなければならない。
もしかしたら戻ってくるかもしれないと、自宅に戻ってひたすら帰りを待った。外に出ずじっと室内で佳奈多の帰りを待つ。何度も父親と秘書が訪ねてきて食事を取って大学へ行くようにと話していたが、大翔は聞く耳を持たず佳奈多を待った。
ずっと頭にあった考えが何度も脳内を支配する。
大翔は捨てられたのかもしれない。佳奈多は黙って、自分の荷物を全て持ち出して消えた。生家が売りに出されることも、大翔には言わなかった。佳奈多は大翔を捨てて、消えてしまった。もしかしたら佳奈多は、もうこの世には。
ついに意識を失って、気づけば大翔は病院にいた。栄養失調で倒れたと聞かされた。どのくらい入院していたのかわからない。点滴をもぎ取って大翔は帰宅した。病院にいるその間も、佳奈多が戻ってくるかもしれないと、気が気ではなかった。
家に帰って自分がいなければ佳奈多はきっと不安になる。少しは食事を取って、生きなければと大翔は思った。命が尽きたら佳奈多に会えない。傍にいてあげられなくなる。
(捨てられたなんて、嘘だ。そんなこと、あるはずない)
佳奈多は大翔を捨てて出ていった。脳内に響く声を、頭を振って打ち消す。
自宅に戻った大翔は少しでも佳奈多の痕跡がないか家の中を探し回った。今までも何度も探したが、ふらつく体にゼリー飲料を流し込んで、再度家中をひっくり返した。
クローゼットの中からテーマパークのキャラクターの飾りが出てきた。頭に被せる可愛らしいそれは最後の修学旅行で買ったものだ。これは大翔が被っていた。佳奈多と対になるキャラクターで、佳奈多の分はなかった。佳奈多が持っていたのだろう。とても気に入っていたこのキャラクターを、捨てることはきっとしない。
思い出の品を、わざわざ持っていくだろうか。
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少しずつ食事を取り、大翔はまた佳奈多を探し歩いた。ネットで探した探偵に数社頼んでみたが、肝心の佳奈多に中々行き着かない。佳奈多の父親の行方は知れたので会いに行った。新幹線を使って向かった先にいた佳奈多の父は、大翔を見てひどく驚いていた。大翔は生きるために最低限の食事を取ることくらいしかしていない。風呂にも入らず、髪も髭も伸びっぱなしだった。名乗って大翔だと気づいた佳奈多の父はその場で土下座をし始めた。
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