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佳奈多は大翔の兄の目の前のパイプ椅子に座らされた。
「はじめましてぇ、佳奈多君。今日ね、お願いがあって来てもらったのよ。その前にさ、腹減ってる?どう?」
何をされるのか怖かったが、大翔の兄は笑顔で佳奈多に語りかける。どう答えたらいいかわからず俯いて震えていると、大翔の兄は舌打ちをした。
「おい。なんか買ってこい。腹減った」
「デリバリーなんか呼べないっすよ」
「んなことわかってんだよ、てめぇが行ってこいよ!当たり前だろぉが!」
「え、車使っていいんすか?」
「いいから行けよ!」
大翔の兄は手元にあったペットボトルを投げつけた。待機していた男のうち二人が外に出ていく。佳奈多は震えながら声を殺してじっとしていた。大翔の兄は激昂しやすいのだろうか。先程から些細なきっかけでひどい怒り方をしている。答え方を間違えたら何をされるかわからない。佳奈多はぐっと体に力を入れた。
「…そんでさ、佳奈多君。お願いっつーのがさ、大翔君にさ、松本家の財産は放棄しますっつって、約束させてほしいのよ。君、親友なんだろ?」
佳奈多は顔を上げて頭を巡らせる。突然こんな所に連れてきて、何を言い出すのか。しかし誘拐なんて手法を使っている時点でまともな話は通用しないだろう。
佳奈多は慎重に口を開いた。
「あの…松本家は、お兄さんのものだって、聞きました」
「まじで?大翔君から!?…やっぱ、あのクソ秘書のせいだな…佳奈多君は、どう思ってる?」
「う…僕も、そう、思ってます」
「だよねぇ!?俺、父さんと母さんの、実の子供だよ!?」
大翔の兄は立ち上がった。何度も頷いて俺が正しい、俺が松本家の後継者だと呟いて、ウロウロ歩き回った。
彼が正式な後継者なのかどうか佳奈多は知らない。大翔がどう思っているか、今現在どうなっているかも知らない。
大翔の扱いを見る限り松本の家を継ぐなら、何不自由なく両親と暮らしたこの兄だったはずだ。佳奈多は、大翔の兄もそう思っていたのだろう。しかし、彼等の父と秘書は考えを改めた。後継者を兄から大翔に変えた。
それがどう兄に伝わっていたのかは知らないが、大翔の兄の口ぶりから、あまり良くない形で知ったのだろうと佳奈多は思う。
「大翔君さ、いい大学入ったじゃん?どんな手使ったのか知んねぇけど、俺の親の金でさ。そんでさ、優秀な大翔君を次期頭取候補として育てるとか言ってんの。あのクソ親父!俺が!いんだろうが!!」
大翔の兄は足を踏み鳴らした。
大翔が大学に入ったのは大翔の実力だ。きっと大翔の成績なら父に頼らずとも学費免除を受けられるだろう。言い返したかったが言葉を飲み込む。松本の人間はみな自分勝手だ。しかし先程から感情が不安定な大翔の兄に、下手に口を出さないほうがいいと佳奈多は判断した。元々の性格なのか大翔の次期頭取の話が出たせいなのかわからないが、この不安定さは気になった。
「そんでさ、この前親父があのクソガキ、大翔君連れて帰ってきたから使用人脅して聞いてみたらよ、お前に会いに行ったらしいじゃん?大翔君さぁ、大学行かねぇしきったねぇカッコしてるしいきなり秘書殴るし。いつもあんなやべぇの?」
佳奈多は首を横に振った。佳奈多の職場を訪れたあの日、大翔は松本の家に行ったようだ。今どこでどうしているのか。連絡の手段を絶った佳奈多にはわからない。
「じゃあなんであんななってんの?お前、友達なんだろ?あいつ友達いないらしいじゃん、お前以外。そんでさ、一緒に住んでたんだろ?」
「わ、わからない、です。今、別々に、暮らしてて、」
「つかさ、お前、あいつの弱みとかなんか、知らない?もうさ、あいつ、松本の家にいられなくしてぇのよ。あいつ、なんでうちにいんの?愛人の子供のくせによぉ、なぁ!?」
佳奈多は懸命に考えを巡らせた。
大翔の弱みは恐らく佳奈多だ。先日の様子を見る限り、未だに大翔の中で佳奈多の存在は大きい。下手なことを言えば大翔に害が及ぶだろう。大翔の兄の気分を損ねないようにしつつ、どうにか逃げる方法を探さなければならない。
「はじめましてぇ、佳奈多君。今日ね、お願いがあって来てもらったのよ。その前にさ、腹減ってる?どう?」
何をされるのか怖かったが、大翔の兄は笑顔で佳奈多に語りかける。どう答えたらいいかわからず俯いて震えていると、大翔の兄は舌打ちをした。
「おい。なんか買ってこい。腹減った」
「デリバリーなんか呼べないっすよ」
「んなことわかってんだよ、てめぇが行ってこいよ!当たり前だろぉが!」
「え、車使っていいんすか?」
「いいから行けよ!」
大翔の兄は手元にあったペットボトルを投げつけた。待機していた男のうち二人が外に出ていく。佳奈多は震えながら声を殺してじっとしていた。大翔の兄は激昂しやすいのだろうか。先程から些細なきっかけでひどい怒り方をしている。答え方を間違えたら何をされるかわからない。佳奈多はぐっと体に力を入れた。
「…そんでさ、佳奈多君。お願いっつーのがさ、大翔君にさ、松本家の財産は放棄しますっつって、約束させてほしいのよ。君、親友なんだろ?」
佳奈多は顔を上げて頭を巡らせる。突然こんな所に連れてきて、何を言い出すのか。しかし誘拐なんて手法を使っている時点でまともな話は通用しないだろう。
佳奈多は慎重に口を開いた。
「あの…松本家は、お兄さんのものだって、聞きました」
「まじで?大翔君から!?…やっぱ、あのクソ秘書のせいだな…佳奈多君は、どう思ってる?」
「う…僕も、そう、思ってます」
「だよねぇ!?俺、父さんと母さんの、実の子供だよ!?」
大翔の兄は立ち上がった。何度も頷いて俺が正しい、俺が松本家の後継者だと呟いて、ウロウロ歩き回った。
彼が正式な後継者なのかどうか佳奈多は知らない。大翔がどう思っているか、今現在どうなっているかも知らない。
大翔の扱いを見る限り松本の家を継ぐなら、何不自由なく両親と暮らしたこの兄だったはずだ。佳奈多は、大翔の兄もそう思っていたのだろう。しかし、彼等の父と秘書は考えを改めた。後継者を兄から大翔に変えた。
それがどう兄に伝わっていたのかは知らないが、大翔の兄の口ぶりから、あまり良くない形で知ったのだろうと佳奈多は思う。
「大翔君さ、いい大学入ったじゃん?どんな手使ったのか知んねぇけど、俺の親の金でさ。そんでさ、優秀な大翔君を次期頭取候補として育てるとか言ってんの。あのクソ親父!俺が!いんだろうが!!」
大翔の兄は足を踏み鳴らした。
大翔が大学に入ったのは大翔の実力だ。きっと大翔の成績なら父に頼らずとも学費免除を受けられるだろう。言い返したかったが言葉を飲み込む。松本の人間はみな自分勝手だ。しかし先程から感情が不安定な大翔の兄に、下手に口を出さないほうがいいと佳奈多は判断した。元々の性格なのか大翔の次期頭取の話が出たせいなのかわからないが、この不安定さは気になった。
「そんでさ、この前親父があのクソガキ、大翔君連れて帰ってきたから使用人脅して聞いてみたらよ、お前に会いに行ったらしいじゃん?大翔君さぁ、大学行かねぇしきったねぇカッコしてるしいきなり秘書殴るし。いつもあんなやべぇの?」
佳奈多は首を横に振った。佳奈多の職場を訪れたあの日、大翔は松本の家に行ったようだ。今どこでどうしているのか。連絡の手段を絶った佳奈多にはわからない。
「じゃあなんであんななってんの?お前、友達なんだろ?あいつ友達いないらしいじゃん、お前以外。そんでさ、一緒に住んでたんだろ?」
「わ、わからない、です。今、別々に、暮らしてて、」
「つかさ、お前、あいつの弱みとかなんか、知らない?もうさ、あいつ、松本の家にいられなくしてぇのよ。あいつ、なんでうちにいんの?愛人の子供のくせによぉ、なぁ!?」
佳奈多は懸命に考えを巡らせた。
大翔の弱みは恐らく佳奈多だ。先日の様子を見る限り、未だに大翔の中で佳奈多の存在は大きい。下手なことを言えば大翔に害が及ぶだろう。大翔の兄の気分を損ねないようにしつつ、どうにか逃げる方法を探さなければならない。
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