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「いかがでしたか、お父様。藤野君も…急な面接になってしまって、申し訳なかった」
頭を下げる担任に、佳奈多は首を横に振った。驚いたが、話が聞けてとても参考になった。それに、急になってしまうのは仕方がないと佳奈多は思っている。大翔と常に一緒にいる佳奈多に時間をつくるとなると、こうでもしないと進まなくなってしまう。
「…佳奈多は、本当に、いいのか?進学じゃなくて、就職で」
父からの問いに佳奈多は頷く。大翔の父との約束もあり、今は就職以外に考えていない。父はため息をついてうなだれてしまった。
「……せっかく、この学園に、通わせたのに…知ってますよね、先生。この学園の学費…タダじゃないんだよ、佳奈多。安くもないんだ、この学校は。より上の大学に行かせるために通わせたんだ。それなのに、どうして、こんなことにっ」
「お父様、それ以上は」
佳奈多の父はテーブルを叩いた。佳奈多の体が震えてしまう。一年前の面談では大人しかった父だが、担任を前に感情をあらわにした。担任に止められて父はハッとしていた。就職が気に入らなかったのか、それとも別に何かあったのか。ほとんど顔の合わせることのなくなった佳奈多には判断がつかない。
佳奈多の父は項垂れて答えた。
「…佳奈多が良いのなら、私は何も言うことはありません。この子の、意思に任せます。申し訳ありませんが、私は、これで…」
佳奈多の父は項垂れたまま、のっそりと担任に頭を下げて部屋を出ていった。
佳奈多は震える体を落ち着けるため、何度も自分の太ももをさすった。少しでも温まれば、震えは止まる気がした。
「藤野君…お父様に就職先を伝えるのは迷ったんだが、身元保証人が必要になるから説明も兼ねて来ていただいたんだ。それから、この施設なんだが…」
佳奈多は何度か担任に頷く。担任は少し言い淀んでから話した。
「…松本君の、お父様からの紹介なんだ。松本君のお家が多額の寄付をしている施設だそうで…君を、悪いようにはしないとおっしゃってくれている。実際、かなり雇用条件が良い」
松本家の監視下に置かれるということなのだろう。ここで働いたら、松本家との関係を断てなくなる。しかし希望以上の待遇で、寮があり住む場所も確保できる。きっと松本家の人間は大翔に佳奈多の居場所を教えることはないだろう。
「ここなら、お父様からも守ってくれると思う。藤野君が就職を希望している理由を、ぼやかしはしたが、松本君のお父様も施設の方も知っている。ただ…監視する目的が、あるんだと先生は思う。松本家に君は、縛られることに…」
「はい。僕は、いいです。ここ、働き、たいです」
事情を知ってくれているならますます、ここで働きたいと佳奈多は思った。佳奈多が就職を希望するのは父からの自立のためもある。大翔はもちろん、父からも逃げられる場所が良い。
「では他の面接も受けつつ、保留させてもら」
「あ、ぅ、僕、いいです、ここで…ここが、いいです」
佳奈多は担任に訴えた。本当に良いのか念を押されて、佳奈多は頷いた。他の場所の面接を受けるにも、大翔をどうごまかすかという問題が出てくる。受け入れてくれるのであれば、就職先はこの施設が良いと思った。担任の話からも、佳奈多が拒否しない限りは雇用してもらえるのだろう。事情を知ってくれていて、待遇も良い。松本家の監視下にいることで、大翔の父と秘書を安心させることもできるだろう。あの二人には、大翔に専念してほしい。大翔が間違いをおかさないように。
「では…先方に連絡しておこう」
「よろしく、お願いします」
頭を下げる担任に、佳奈多は首を横に振った。驚いたが、話が聞けてとても参考になった。それに、急になってしまうのは仕方がないと佳奈多は思っている。大翔と常に一緒にいる佳奈多に時間をつくるとなると、こうでもしないと進まなくなってしまう。
「…佳奈多は、本当に、いいのか?進学じゃなくて、就職で」
父からの問いに佳奈多は頷く。大翔の父との約束もあり、今は就職以外に考えていない。父はため息をついてうなだれてしまった。
「……せっかく、この学園に、通わせたのに…知ってますよね、先生。この学園の学費…タダじゃないんだよ、佳奈多。安くもないんだ、この学校は。より上の大学に行かせるために通わせたんだ。それなのに、どうして、こんなことにっ」
「お父様、それ以上は」
佳奈多の父はテーブルを叩いた。佳奈多の体が震えてしまう。一年前の面談では大人しかった父だが、担任を前に感情をあらわにした。担任に止められて父はハッとしていた。就職が気に入らなかったのか、それとも別に何かあったのか。ほとんど顔の合わせることのなくなった佳奈多には判断がつかない。
佳奈多の父は項垂れて答えた。
「…佳奈多が良いのなら、私は何も言うことはありません。この子の、意思に任せます。申し訳ありませんが、私は、これで…」
佳奈多の父は項垂れたまま、のっそりと担任に頭を下げて部屋を出ていった。
佳奈多は震える体を落ち着けるため、何度も自分の太ももをさすった。少しでも温まれば、震えは止まる気がした。
「藤野君…お父様に就職先を伝えるのは迷ったんだが、身元保証人が必要になるから説明も兼ねて来ていただいたんだ。それから、この施設なんだが…」
佳奈多は何度か担任に頷く。担任は少し言い淀んでから話した。
「…松本君の、お父様からの紹介なんだ。松本君のお家が多額の寄付をしている施設だそうで…君を、悪いようにはしないとおっしゃってくれている。実際、かなり雇用条件が良い」
松本家の監視下に置かれるということなのだろう。ここで働いたら、松本家との関係を断てなくなる。しかし希望以上の待遇で、寮があり住む場所も確保できる。きっと松本家の人間は大翔に佳奈多の居場所を教えることはないだろう。
「ここなら、お父様からも守ってくれると思う。藤野君が就職を希望している理由を、ぼやかしはしたが、松本君のお父様も施設の方も知っている。ただ…監視する目的が、あるんだと先生は思う。松本家に君は、縛られることに…」
「はい。僕は、いいです。ここ、働き、たいです」
事情を知ってくれているならますます、ここで働きたいと佳奈多は思った。佳奈多が就職を希望するのは父からの自立のためもある。大翔はもちろん、父からも逃げられる場所が良い。
「では他の面接も受けつつ、保留させてもら」
「あ、ぅ、僕、いいです、ここで…ここが、いいです」
佳奈多は担任に訴えた。本当に良いのか念を押されて、佳奈多は頷いた。他の場所の面接を受けるにも、大翔をどうごまかすかという問題が出てくる。受け入れてくれるのであれば、就職先はこの施設が良いと思った。担任の話からも、佳奈多が拒否しない限りは雇用してもらえるのだろう。事情を知ってくれていて、待遇も良い。松本家の監視下にいることで、大翔の父と秘書を安心させることもできるだろう。あの二人には、大翔に専念してほしい。大翔が間違いをおかさないように。
「では…先方に連絡しておこう」
「よろしく、お願いします」
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