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大翔を体よく使おうとする松本家を不快に思う。しかし、もしも大翔が松本家のために結婚という道を選ぶなら。松本家のためでなくても、大翔を心から愛する女性が現れたら。佳奈多の存在は邪魔になる。
(…ひろくん、格好いいなぁ)
離れる前に、全力で走る大翔が見られて、佳奈多はとても幸せだった。
ついに、最終学年に進級した。大翔のそばにいられるのもあと一年。佳奈多は大翔の目を盗んでは就職先を探していた。担任は去年に引き続き担当してくれている。担任が同じで、佳奈多は安堵した。
進級早々面談があった。担任が生徒それぞれの受験勉強の進捗についての聞きとりをする。佳奈多には必要のないものだ。しかし生徒全員に割り振られた時間なので佳奈多も行う。という前提で、佳奈多は担任と就職について話をするつもりだった。大翔には図書館で勉強をして待っていてもらっている。大翔は一緒に面談を受けたがっていたが、時間を無駄にしないでほしいと佳奈多は頼んだ。大翔は拗ねた顔をしたが、受け入れてくれた。佳奈多が進学をせず大翔と同棲を続ける提案をしてから、大翔は少し佳奈多が離れても今までのように縛り付けるようなことはなくなった。油断しているように見える。佳奈多のことを信じ切っているのだろう。胸が痛んで、胃が締め付けられた。
教室に入り、担任の前に腰掛ける。
「藤野君。松本君は今、どこに」
「図書館で、待っててもらってます」
「良かった。今日は面談室で話をしたいんだ。移動しよう。君のお父さんと、介護施設の方がいらしてるんだ」
佳奈多は担任と共に面談室に向かう。念の為、廊下に大翔がいないか確認したが、大翔の姿はなかった。
面談室に入ると、佳奈多の父ともう1人男性が腰掛けていた。担任に促されて、佳奈多も腰掛ける。
「藤野君、突然で申し訳ない。就職の件でな、施設の方が面接も兼ねて来てくださったんだ。お父様にも同席していただいて、就職について詰めていけたらと思う」
佳奈多は目を丸くした。男性は柔らかく微笑む。
「こんにちは。施設長をしています、佐藤です」
佐藤は立ち上がり、名刺を差し出してくれた。佳奈多は急いで立ち上がり、両手で名刺を受け取る。ネットで、働くことに大切と思われることを色々調べているが、本当にこの仕草が正しいのかどうか自信がない。叱られることなく佐藤が微笑んで腰掛けたので、佳奈多も再度腰を下ろした。
「早速ですが、説明を始めますね。先ほどお父様にはお伝えしたのですが…」
佐藤はパンフレットを差し出して話し始めた。佳奈多は佐藤の話を何度も復唱して聞き入った。どんな施設か、どんな仕事をするのか、どんな働き方になるか。
「…、たくさんお話してしまったね。なにか、質問はあるかな?」
「ぅ…あの、この、資格のこと、なんですけど…働いた年数が必要って、書いてあって」
「おぉ!よく調べてるね。うちで働いた年数がちゃんと適応されるよ。もちろん、入社時はなくて大丈夫。資格取得のための支援もしているからね。その時は試験を頑張ってくれると嬉しいな」
優しく微笑む佐藤に、佳奈多は頷いた。
今日、ここまで話が急進するとは思ってもいなかった。まさか父と、面接相手が同席するとは。佐藤は時計に目を向けて、佳奈多と担任、佳奈多の父を見渡す。
「本日はお時間いただきまして、ありがとうございました。藤野君、前向きに検討してくれると嬉しいな…では、失礼します」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「あ、ありがとう、ござい、ます」
佐藤は立ち上がり、頭を下げた。担任と佳奈多と佳奈多の父もも立ち上がり頭を下げる。佐藤は部屋を出ていった。佐藤を見送り、残った3人は席についた。
(…ひろくん、格好いいなぁ)
離れる前に、全力で走る大翔が見られて、佳奈多はとても幸せだった。
ついに、最終学年に進級した。大翔のそばにいられるのもあと一年。佳奈多は大翔の目を盗んでは就職先を探していた。担任は去年に引き続き担当してくれている。担任が同じで、佳奈多は安堵した。
進級早々面談があった。担任が生徒それぞれの受験勉強の進捗についての聞きとりをする。佳奈多には必要のないものだ。しかし生徒全員に割り振られた時間なので佳奈多も行う。という前提で、佳奈多は担任と就職について話をするつもりだった。大翔には図書館で勉強をして待っていてもらっている。大翔は一緒に面談を受けたがっていたが、時間を無駄にしないでほしいと佳奈多は頼んだ。大翔は拗ねた顔をしたが、受け入れてくれた。佳奈多が進学をせず大翔と同棲を続ける提案をしてから、大翔は少し佳奈多が離れても今までのように縛り付けるようなことはなくなった。油断しているように見える。佳奈多のことを信じ切っているのだろう。胸が痛んで、胃が締め付けられた。
教室に入り、担任の前に腰掛ける。
「藤野君。松本君は今、どこに」
「図書館で、待っててもらってます」
「良かった。今日は面談室で話をしたいんだ。移動しよう。君のお父さんと、介護施設の方がいらしてるんだ」
佳奈多は担任と共に面談室に向かう。念の為、廊下に大翔がいないか確認したが、大翔の姿はなかった。
面談室に入ると、佳奈多の父ともう1人男性が腰掛けていた。担任に促されて、佳奈多も腰掛ける。
「藤野君、突然で申し訳ない。就職の件でな、施設の方が面接も兼ねて来てくださったんだ。お父様にも同席していただいて、就職について詰めていけたらと思う」
佳奈多は目を丸くした。男性は柔らかく微笑む。
「こんにちは。施設長をしています、佐藤です」
佐藤は立ち上がり、名刺を差し出してくれた。佳奈多は急いで立ち上がり、両手で名刺を受け取る。ネットで、働くことに大切と思われることを色々調べているが、本当にこの仕草が正しいのかどうか自信がない。叱られることなく佐藤が微笑んで腰掛けたので、佳奈多も再度腰を下ろした。
「早速ですが、説明を始めますね。先ほどお父様にはお伝えしたのですが…」
佐藤はパンフレットを差し出して話し始めた。佳奈多は佐藤の話を何度も復唱して聞き入った。どんな施設か、どんな仕事をするのか、どんな働き方になるか。
「…、たくさんお話してしまったね。なにか、質問はあるかな?」
「ぅ…あの、この、資格のこと、なんですけど…働いた年数が必要って、書いてあって」
「おぉ!よく調べてるね。うちで働いた年数がちゃんと適応されるよ。もちろん、入社時はなくて大丈夫。資格取得のための支援もしているからね。その時は試験を頑張ってくれると嬉しいな」
優しく微笑む佐藤に、佳奈多は頷いた。
今日、ここまで話が急進するとは思ってもいなかった。まさか父と、面接相手が同席するとは。佐藤は時計に目を向けて、佳奈多と担任、佳奈多の父を見渡す。
「本日はお時間いただきまして、ありがとうございました。藤野君、前向きに検討してくれると嬉しいな…では、失礼します」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「あ、ありがとう、ござい、ます」
佐藤は立ち上がり、頭を下げた。担任と佳奈多と佳奈多の父もも立ち上がり頭を下げる。佐藤は部屋を出ていった。佐藤を見送り、残った3人は席についた。
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