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「知っている。わかっているから、今回の提案をしている」
担任の言葉を、大翔の父が遮る。
「あの子は、君と暮らすようになってから大幅に成績が伸びている。問題行動も少なくなった。君の存在で大翔の精神が安定しているのは本当なんだろう。しかし、それでは駄目だ。あれは、これからの松本を担う人間だ。駄目なんだよ。君という存在に、依存しているようでは」
確かに大翔は佳奈多に依存している所がある。それは佳奈多自身も気付いていた。このままでは大翔にとっても佳奈多にとっても良くないと、佳奈多も思っている。しかし、秘密のまま行方をくらますようにいなくなっては大翔の心が心配だった。最悪のことも、考えられる。
それに、大翔には兄がいたはずだ。あまり素行が良くないと母から聞いたことはあるが、家を継ぐのは彼ではないのだろうか。
「ひろくんの、お兄さん、は…」
「………」
「あなたに関係のないことです」
佳奈多の問いに、大翔の父は答えなかった。代わりに秘書が答える。口ごもる大翔の父と目をそらした秘書に、言えない何かがあったのではないかと佳奈多は察した。大翔の兄は跡継ぎにできない。だから大翔に継がせようとしているのではないか。
「大翔の次の世代も必要になる。松本を継いでいく、人間が。そのためにも大翔に、君のことは、高校卒業を期に断ち切ってもらいたい」
「あなたは子供を産めません。大翔様はいずれ結婚し、子を成していただかなければなりません。そのためにも、あなたは大翔様の傍に存在するべきではありません」
佳奈多は羞恥で顔が熱くなった。彼らは大翔と佳奈多の関係を知っている。大翔はこの人達に、佳奈多とどんな関係にあるか話たのだろうか。きっと話していないと思う。大翔の様子を見て、大翔と佳奈多が恋仲にあると判断したのだろう。
そして秘書の考えは、その通りだと佳奈多は思う。佳奈多は女性ではない。子供は産めない。もしも大翔に家族になりたい女性ができたら、その時は身を引こうと佳奈多は前々から考えていた。
それよりも、次期頭取になることを大翔は承諾しているのだろうか。大翔の意思を、彼らは確認したのだろうか。
大翔の父と秘書と、二人の言葉に佳奈多は顔を上げて訪ねた。考えるよりも先に口が動いて声が出ていた。
「……ひ、大翔君、の、お、お父さん、は、…どうして、あの、家に、こ、来なかった、ですか?」
大翔の父は眉間に皺を寄せる。
「君も、知っているだろう。あの子は…妻や、息子のために、私は大翔の元へ行くわけには」
「そっ、それ、それはっ、お父さんの、じ、事情、です。ひろくんに、かっ、関係、ないです。どうして、旅行に、ひ、大翔くん、いっ、い、いかないん、ですか?どうして、お、お父っさ、運動会も、じゅっ、授業参観も、こっ、来ないんですか?」
「そ、れは…」
大翔の父は口ごもり、佳奈多から目をそらした。
大翔はあの家でずっと一人だった。松本家から、実の父から切り離された生活を送ってきた。寂しい生活に、幼稚園児の頃から仲の良かった佳奈多が心の支えになってしまったのだろう。勉強ができる大翔だが、以前、幼い頃は勉強ばかりしていたと話していた。誰もいない家で、勉強以外することがなかったからだと。成績が良いのは必然だと笑っていた大翔が悲しかった。
そんな大翔を、今更松本家の後継ぎとして彼らは大翔を引き入れようとしている。大翔の現状や心を無視して。
「ひろくん、あっ、あの、あの、お家で、ひ、一人ぼっち、でした。ちっ、小さい時、淋しくて、でも、こ、こっ、怖い気持ちも、な、なくなっ、ちゃった、って、」
あまりにも勝手な二人に、佳奈多は泣きながら訴えた。大翔が今までどれだけ淋しい思いをしてきたのか。
大翔の父は佳奈多から顔を背け続けている。秘書は険しい顔で佳奈多を睨みつけた。
担任の言葉を、大翔の父が遮る。
「あの子は、君と暮らすようになってから大幅に成績が伸びている。問題行動も少なくなった。君の存在で大翔の精神が安定しているのは本当なんだろう。しかし、それでは駄目だ。あれは、これからの松本を担う人間だ。駄目なんだよ。君という存在に、依存しているようでは」
確かに大翔は佳奈多に依存している所がある。それは佳奈多自身も気付いていた。このままでは大翔にとっても佳奈多にとっても良くないと、佳奈多も思っている。しかし、秘密のまま行方をくらますようにいなくなっては大翔の心が心配だった。最悪のことも、考えられる。
それに、大翔には兄がいたはずだ。あまり素行が良くないと母から聞いたことはあるが、家を継ぐのは彼ではないのだろうか。
「ひろくんの、お兄さん、は…」
「………」
「あなたに関係のないことです」
佳奈多の問いに、大翔の父は答えなかった。代わりに秘書が答える。口ごもる大翔の父と目をそらした秘書に、言えない何かがあったのではないかと佳奈多は察した。大翔の兄は跡継ぎにできない。だから大翔に継がせようとしているのではないか。
「大翔の次の世代も必要になる。松本を継いでいく、人間が。そのためにも大翔に、君のことは、高校卒業を期に断ち切ってもらいたい」
「あなたは子供を産めません。大翔様はいずれ結婚し、子を成していただかなければなりません。そのためにも、あなたは大翔様の傍に存在するべきではありません」
佳奈多は羞恥で顔が熱くなった。彼らは大翔と佳奈多の関係を知っている。大翔はこの人達に、佳奈多とどんな関係にあるか話たのだろうか。きっと話していないと思う。大翔の様子を見て、大翔と佳奈多が恋仲にあると判断したのだろう。
そして秘書の考えは、その通りだと佳奈多は思う。佳奈多は女性ではない。子供は産めない。もしも大翔に家族になりたい女性ができたら、その時は身を引こうと佳奈多は前々から考えていた。
それよりも、次期頭取になることを大翔は承諾しているのだろうか。大翔の意思を、彼らは確認したのだろうか。
大翔の父と秘書と、二人の言葉に佳奈多は顔を上げて訪ねた。考えるよりも先に口が動いて声が出ていた。
「……ひ、大翔君、の、お、お父さん、は、…どうして、あの、家に、こ、来なかった、ですか?」
大翔の父は眉間に皺を寄せる。
「君も、知っているだろう。あの子は…妻や、息子のために、私は大翔の元へ行くわけには」
「そっ、それ、それはっ、お父さんの、じ、事情、です。ひろくんに、かっ、関係、ないです。どうして、旅行に、ひ、大翔くん、いっ、い、いかないん、ですか?どうして、お、お父っさ、運動会も、じゅっ、授業参観も、こっ、来ないんですか?」
「そ、れは…」
大翔の父は口ごもり、佳奈多から目をそらした。
大翔はあの家でずっと一人だった。松本家から、実の父から切り離された生活を送ってきた。寂しい生活に、幼稚園児の頃から仲の良かった佳奈多が心の支えになってしまったのだろう。勉強ができる大翔だが、以前、幼い頃は勉強ばかりしていたと話していた。誰もいない家で、勉強以外することがなかったからだと。成績が良いのは必然だと笑っていた大翔が悲しかった。
そんな大翔を、今更松本家の後継ぎとして彼らは大翔を引き入れようとしている。大翔の現状や心を無視して。
「ひろくん、あっ、あの、あの、お家で、ひ、一人ぼっち、でした。ちっ、小さい時、淋しくて、でも、こ、こっ、怖い気持ちも、な、なくなっ、ちゃった、って、」
あまりにも勝手な二人に、佳奈多は泣きながら訴えた。大翔が今までどれだけ淋しい思いをしてきたのか。
大翔の父は佳奈多から顔を背け続けている。秘書は険しい顔で佳奈多を睨みつけた。
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