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「僕、W大学は、行かないです。行きたい気持ちは、ないです。僕…どこに行けばいいか、わからないです。僕の、大学…松本君が、学校を、変えてしまうかも、しれない、です…」
担任は佳奈多の話を何度も頷きながら注意深く聞き、最後は深く頷いた。
「松本君の志望校は、藤野君。聞いてるのかな」
「僕、行けないです、ひろくんの大学…ひろ、…松、松本君は、ちゃんと松本君の、大学に、行かないと、」
佳奈多は頷きながら、担任に訴えた。大翔の志望校は聞いている。とても佳奈多の学力で行ける場所ではない。
担任は用紙を佳奈多の父と佳奈多に差し出した。
「藤野君の学力に見合った大学をいくつか見繕ってみました。あとは藤野君がどんなことを学びたいかにもよるけど…言い方が悪くて申し訳ない、松本君がもしこの中で選ぶとしたらかなりランクが落ちてしまう。先生も、藤野君は藤野君の、松本君は松本君の。大学は見合った学校へ進むべきだと思う…お父様はいかがですか。学力もありますが、学費についても考えるべきかと思います。いかがですか?」
佳奈多の隣で、父がびくんと震えた。言いかけては何度も逡巡して、やっと口を開く。
「学費、は…私立は、厳しいです」
「…W大学は私立ですが」
「私が、行けなかった大学です。W大学なら、いくら借金しても通わせます。他の学校なら…」
父は口ごもった。担任は睨みつけるようにして父を見ていた。担任は再度佳奈多に向き合う。
「藤野君。進学は、お金がかかることも事実だ。通うなら奨学金という方法もある。あとは松本君の進学についてもだが…まずは藤野君がどの分野を、どんなことを学びたいかを見つけることが最優先だ。これからどうしたいのか、一緒に考えよう」
「は、はい」
「お父様、進学についてですか、もう少し藤野君と…」
担任が父に声をかけた時、ノックと同時に扉が開いた。入ってきたのは学年主任の教師だった。
「すいませ~ん、失礼します…おい、いつまでやってるんだ。外で松本君が待ってるぞ」
「いや、しかし、」
「お手数ですがお父様。担任からまた連絡させますので、今日はお開きということで…じゃあ、藤野君、松本君を呼んでくるよ。ずっと待っててくれるなんて、優しい友達じゃないか」
学年主任は笑って部屋を出ていった。入れ違いに室内に顔を見せたのは大翔だった。大翔はすぐさま、佳奈多の腕を取った。
「かなちゃん、平気?行こう」
抱き上げようとする大翔に、佳奈多は抵抗した。恥ずかしさもあるが、大翔の手を煩わせている姿を見せたら、父が怒ると思って怖かった。背後で父が動く気配がしたが、大翔の低い声に佳奈多は一瞬、体を震わせてしまった。
「座ってて下さい」
大翔が怒りを堪えている。早く部屋を出たほうがいい。強く手を握る大翔の傍に寄ると、佳奈多は父に呼び止められた。
「げ、元気、か?…母さん、帰って、来ないんだ」
面談中、父親と直接話さなかった。たまに家に行っても話すのは大翔だった。直接言葉を投げかけられて、佳奈多はどう答えたらいいかわからなかった。母が消えて年単位で時間が経過した。
お母さんはもうきっと、帰ってこない。
父は気づいていないのだろうか。しかし内容はどうでもよくて、担任もまだ室内にいる今、何か佳奈多と話したかったんじゃないかと思う。あの家に今、父は一人でいる。担任がいれば大翔も無茶なことはしないと踏んだのだろう。寂しさが募っているのかもしれない。
大翔の怒りがもう、今にも噴出しそうになっている。佳奈多は大翔の胸に顔を埋めて、扉に向かう。
「か、かえろう、ひろくん、今日の…ご飯、何かなぁ」
大翔の怒りが爆発する前に部屋を出ることができた。部屋の外で抱きしめられて、大翔の背中を擦ると少しずつ落ち着きを取り戻してくれた。
担任は佳奈多の話を何度も頷きながら注意深く聞き、最後は深く頷いた。
「松本君の志望校は、藤野君。聞いてるのかな」
「僕、行けないです、ひろくんの大学…ひろ、…松、松本君は、ちゃんと松本君の、大学に、行かないと、」
佳奈多は頷きながら、担任に訴えた。大翔の志望校は聞いている。とても佳奈多の学力で行ける場所ではない。
担任は用紙を佳奈多の父と佳奈多に差し出した。
「藤野君の学力に見合った大学をいくつか見繕ってみました。あとは藤野君がどんなことを学びたいかにもよるけど…言い方が悪くて申し訳ない、松本君がもしこの中で選ぶとしたらかなりランクが落ちてしまう。先生も、藤野君は藤野君の、松本君は松本君の。大学は見合った学校へ進むべきだと思う…お父様はいかがですか。学力もありますが、学費についても考えるべきかと思います。いかがですか?」
佳奈多の隣で、父がびくんと震えた。言いかけては何度も逡巡して、やっと口を開く。
「学費、は…私立は、厳しいです」
「…W大学は私立ですが」
「私が、行けなかった大学です。W大学なら、いくら借金しても通わせます。他の学校なら…」
父は口ごもった。担任は睨みつけるようにして父を見ていた。担任は再度佳奈多に向き合う。
「藤野君。進学は、お金がかかることも事実だ。通うなら奨学金という方法もある。あとは松本君の進学についてもだが…まずは藤野君がどの分野を、どんなことを学びたいかを見つけることが最優先だ。これからどうしたいのか、一緒に考えよう」
「は、はい」
「お父様、進学についてですか、もう少し藤野君と…」
担任が父に声をかけた時、ノックと同時に扉が開いた。入ってきたのは学年主任の教師だった。
「すいませ~ん、失礼します…おい、いつまでやってるんだ。外で松本君が待ってるぞ」
「いや、しかし、」
「お手数ですがお父様。担任からまた連絡させますので、今日はお開きということで…じゃあ、藤野君、松本君を呼んでくるよ。ずっと待っててくれるなんて、優しい友達じゃないか」
学年主任は笑って部屋を出ていった。入れ違いに室内に顔を見せたのは大翔だった。大翔はすぐさま、佳奈多の腕を取った。
「かなちゃん、平気?行こう」
抱き上げようとする大翔に、佳奈多は抵抗した。恥ずかしさもあるが、大翔の手を煩わせている姿を見せたら、父が怒ると思って怖かった。背後で父が動く気配がしたが、大翔の低い声に佳奈多は一瞬、体を震わせてしまった。
「座ってて下さい」
大翔が怒りを堪えている。早く部屋を出たほうがいい。強く手を握る大翔の傍に寄ると、佳奈多は父に呼び止められた。
「げ、元気、か?…母さん、帰って、来ないんだ」
面談中、父親と直接話さなかった。たまに家に行っても話すのは大翔だった。直接言葉を投げかけられて、佳奈多はどう答えたらいいかわからなかった。母が消えて年単位で時間が経過した。
お母さんはもうきっと、帰ってこない。
父は気づいていないのだろうか。しかし内容はどうでもよくて、担任もまだ室内にいる今、何か佳奈多と話したかったんじゃないかと思う。あの家に今、父は一人でいる。担任がいれば大翔も無茶なことはしないと踏んだのだろう。寂しさが募っているのかもしれない。
大翔の怒りがもう、今にも噴出しそうになっている。佳奈多は大翔の胸に顔を埋めて、扉に向かう。
「か、かえろう、ひろくん、今日の…ご飯、何かなぁ」
大翔の怒りが爆発する前に部屋を出ることができた。部屋の外で抱きしめられて、大翔の背中を擦ると少しずつ落ち着きを取り戻してくれた。
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