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大翔は教師と、父親の代行で父の秘書が話をすることで終わったようだ。有名な大学への進学を希望しているが、成績も申し分ない為すぐに話は纏まったらしい。
佳奈多はまだ大学が決められていなかった。大学は佳奈多と大翔、別々になるだろう。大翔の今希望している大学は、佳奈多の学力ではとても行けない。しかし、大翔を佳奈多の学力に付き合わせられない。
『父を静かにさせる為にあの大学で希望を出してるけど、本当はどこでもいいんだ。かなちゃんがいるなら、どこでも』
大翔が話していたことがある。大学は就職や将来に深く関わってくる。佳奈多が行くからという理由で大学を選ぶべきではない。佳奈多は迂闊に進学について話せずにいた。
佳奈多自身は学力が見合えばどこでも良く、極論いかなくても良いと思っている。佳奈多が進学し大翔と別の大学に行くにしても、高校を卒業した後に佳奈多の住居はどうするのか。父と別に暮らす費用は出してもらえるか。そもそも学費も出してもらえるのかどうか。懸念は尽きない。
面談の日、面談室まで大翔は一緒に来てくれた。さすがに室内には入れないので佳奈多だけが入室する。室内には担任と父が向かい合って座っていた。佳奈多は父の隣に腰掛ける。
(先生がいるから、大丈夫)
佳奈多は固く両手を握りしめた。
「今回は進学についての面談ですが…申し訳ありません。佳奈多君の現在の状況について少し、お伺いしてよろしいでしょうか」
担任は佳奈多が大翔の家で暮らしていること、その理由を父に訪ねた。担任へはおそらく大翔の父の秘書から、一緒に暮らしていると話があったようだ。
「松本君と暮らしていることは把握していますが、なぜそのような状況なのでしょうか」
「あ…妻が今、実家におりまして…松本さんの息子さんから、一緒に暮らすとご提案いただきまして…私は仕事で、あまり面倒を見れませんので」
「面倒…もう佳奈多君も高校生です。お父様の帰りを待てない年齢ではないと思うのですが。奥さま…佳奈多君のお母様は、現在同居なされていないということでしょうか」
「…はい」
「率直に申し上げます。高校生の息子さんが他人の家にお世話になっている状況が私には理解しかねます。なにか、理由があるのではないでしょうか。藤野君。なにか、困っていることはないか?何か…松本君に、強要されているんじゃないか?」
急に話を振られて、佳奈多は体を跳ねさせてしまった。進学についての面談だったはずだが、話が大きく反れているように感じる。
「困る、こと…ない、です。僕、ひろ、…松本君と暮らして、困ること、ないです」
佳奈多が否定すると、担任はため息をついた。答えを間違えたのだろうか。そわそわしていると、担任が口を開いた。
「こんな場で、すまない。もっと早く聞くべきだったんだが…なにかあるなら、今じゃなくてもいい。先生に教えてほしい」
担任は佳奈多を真っすぐ見つめている。教師からそんなことを言われたのは始めてだった。いつも大翔と一緒にいて、教師からは仲が良くて素晴らしいと褒められるか見て見ぬふりをされるかのどちらかだった。
固まっていた佳奈多はやっと頷いた。担任は一息つくと父親に向き合った。
「進学についてですが…なにか、お話されていますか」
「…いえ…何も…W大学は、佳奈多の成績ではどうでしょうか」
「現状でいうと難しいと思います。藤野君は、W大学に行きたいのか?…遠慮しなくていい。先生は藤野君の、本当の気持ちを聞いておきたいんだ」
佳奈多は横目で父を見た。どう答えたら良いのか迷っていると、担任が佳奈多に言った。本当の気持ち。佳奈多は口の中で言葉を紡ぐ。佳奈多は何か伝える時には、先に口の中で一人で喋る。言葉をまとめるこの行為を、父はみっともないからやめろとよく怒っていた。父に見えないようにもぐもぐと口を動かして、ごくりと唾を飲み込んでから担任に向き合った。
佳奈多はまだ大学が決められていなかった。大学は佳奈多と大翔、別々になるだろう。大翔の今希望している大学は、佳奈多の学力ではとても行けない。しかし、大翔を佳奈多の学力に付き合わせられない。
『父を静かにさせる為にあの大学で希望を出してるけど、本当はどこでもいいんだ。かなちゃんがいるなら、どこでも』
大翔が話していたことがある。大学は就職や将来に深く関わってくる。佳奈多が行くからという理由で大学を選ぶべきではない。佳奈多は迂闊に進学について話せずにいた。
佳奈多自身は学力が見合えばどこでも良く、極論いかなくても良いと思っている。佳奈多が進学し大翔と別の大学に行くにしても、高校を卒業した後に佳奈多の住居はどうするのか。父と別に暮らす費用は出してもらえるか。そもそも学費も出してもらえるのかどうか。懸念は尽きない。
面談の日、面談室まで大翔は一緒に来てくれた。さすがに室内には入れないので佳奈多だけが入室する。室内には担任と父が向かい合って座っていた。佳奈多は父の隣に腰掛ける。
(先生がいるから、大丈夫)
佳奈多は固く両手を握りしめた。
「今回は進学についての面談ですが…申し訳ありません。佳奈多君の現在の状況について少し、お伺いしてよろしいでしょうか」
担任は佳奈多が大翔の家で暮らしていること、その理由を父に訪ねた。担任へはおそらく大翔の父の秘書から、一緒に暮らしていると話があったようだ。
「松本君と暮らしていることは把握していますが、なぜそのような状況なのでしょうか」
「あ…妻が今、実家におりまして…松本さんの息子さんから、一緒に暮らすとご提案いただきまして…私は仕事で、あまり面倒を見れませんので」
「面倒…もう佳奈多君も高校生です。お父様の帰りを待てない年齢ではないと思うのですが。奥さま…佳奈多君のお母様は、現在同居なされていないということでしょうか」
「…はい」
「率直に申し上げます。高校生の息子さんが他人の家にお世話になっている状況が私には理解しかねます。なにか、理由があるのではないでしょうか。藤野君。なにか、困っていることはないか?何か…松本君に、強要されているんじゃないか?」
急に話を振られて、佳奈多は体を跳ねさせてしまった。進学についての面談だったはずだが、話が大きく反れているように感じる。
「困る、こと…ない、です。僕、ひろ、…松本君と暮らして、困ること、ないです」
佳奈多が否定すると、担任はため息をついた。答えを間違えたのだろうか。そわそわしていると、担任が口を開いた。
「こんな場で、すまない。もっと早く聞くべきだったんだが…なにかあるなら、今じゃなくてもいい。先生に教えてほしい」
担任は佳奈多を真っすぐ見つめている。教師からそんなことを言われたのは始めてだった。いつも大翔と一緒にいて、教師からは仲が良くて素晴らしいと褒められるか見て見ぬふりをされるかのどちらかだった。
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「現状でいうと難しいと思います。藤野君は、W大学に行きたいのか?…遠慮しなくていい。先生は藤野君の、本当の気持ちを聞いておきたいんだ」
佳奈多は横目で父を見た。どう答えたら良いのか迷っていると、担任が佳奈多に言った。本当の気持ち。佳奈多は口の中で言葉を紡ぐ。佳奈多は何か伝える時には、先に口の中で一人で喋る。言葉をまとめるこの行為を、父はみっともないからやめろとよく怒っていた。父に見えないようにもぐもぐと口を動かして、ごくりと唾を飲み込んでから担任に向き合った。
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