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新学期になり、平穏な日々が続いた。大翔は何度か学年でトップの成績を納めた。放課後や休みの日、佳奈多は大翔と一緒に勉強をしている。大翔は佳奈多の勉強を見てくれる。塾や家庭教師に頼らず、しかも佳奈多の面倒を見ながら学年トップになる大翔は本当に優秀なのだと佳奈多は思う。
姫と呼ばれる学生達が寄ってくることはなくなった。しかし、山田が離れていったことで噂話も増えた。当然のように、佳奈多を悪く言う噂ばかりだ。
『藤野が松本君の弱みを握っているんじゃないか』
『藤野が山田をけしかけた』
『山田が可哀想』
影で言われるならまだいいが、教室で聞えるように話す者もいる。佳奈多の耳に入るということは、大翔の耳にも入っている。大翔が少しずつ苛立っていくのがわかった。大翔の気をそらしたりなだめたりしながら日々を過ごしていたが、解決にはなっていない。また小学生の時のようなことにならないか、佳奈多は不安だった。
そんな時、体育で着替えに行くときにクラスで数人の生徒の話が耳に入った。
「藤野ってさ、先生とも寝てんでしょ?」
「あー。だからお着替えの部屋、もらえてるんだ」
「俺も藤野ちゃんにハメたいなぁ~」
大翔の空気が変わった。佳奈多は大翔よりも前に出て、話をしていた生徒達に近寄った。
「あ、あの…」
生徒達は一斉にこちらを見た。ジャージを抱えて佳奈多は下を向く。すぐに追いついた大翔が真後ろに立っている。腰にまわされた大翔の腕を、佳奈多はジャージと一緒に握り込んだ。
「あ、う……あの、や、やめて、悪口…大翔、く、……う、………僕、が、いやだから」
大翔が怒るからと、言いかけて佳奈多は思い直した。それでは大翔の意思を勝手に代弁することになる。大翔が怒っているのも事実だが、その前に佳奈多は自身の気持ちを伝えた。誰と寝ているだとかハメたいだとか、そんな視線で見られるのは不快だ。
「す…すみませんでした」
震えて小さな声しか出ず、伝わったか心配だったが、彼らは謝ってくれた。背後の大翔に謝ったのかもしれない。それでも、不快であることが伝わったなら十分だ。
「ひろ、くん、お着替え、行こう」
佳奈多は大翔の腕を引いて、いつもの着替えのための教室に入った。入ってすぐ、佳奈多は大翔にしがみついた。
「かなちゃん…大丈夫だよ」
震えて足に力が入らない。大翔が佳奈多を抱き上げる。
「そんなに怖いなら、言わなくて良かったのに。俺が」
「…でも、僕、いやだった。自分、で、言いた、かっ…」
大翔が怒って彼らを諌めるのは簡単だ。ただ、そうなればまた大翔が悪者になってしまう。大翔を頼ってしまうことになる。
佳奈多は初めて他人に意見した。今も体が震えている。大翔は佳奈多の頭を撫でた。
「そっか………頑張ったね、かなちゃん。自分で、言えたね。頑張った」
佳奈多は泣きながら何度も頷いて大翔に強く抱きついた。大翔は自分から行動を起こした佳奈多に驚いているだろう。声が、戸惑っている。それでも大翔は泣き出した佳奈多に、今一番欲しい言葉をくれた。
頑張ったね。自分で言えたね。
些細なきっかけで物事は変わる。良くも、悪くも変わる。
この日、自分から他人に意見できたことは佳奈多の中で大きな一歩になった。
あまりに陰口を叩く生徒は大翔と共に教師に伝えた。復讐が怖かったが、言われるままにしていては大翔の苛立ちがますます募る。まして、それこそあの『松本大翔』のお気に入りである佳奈多に復讐しようとするものは現れなかった。
そのうちに、あからさまな陰口は叩かれなくなった。大翔が爆発する前に、周りは落ち着いた。大翔を悪者にせず場を納められたことに、佳奈多は安堵した。
進級後も新しいクラスで陰口はあったが、すぐに落ち着いた。クラスメイトも常に一緒にいる佳奈多と大翔に見慣れてくれた。
2年生ともなると、進学校であるこの学園は受験に向けて本格的に稼働し始める。親との面談があった。
姫と呼ばれる学生達が寄ってくることはなくなった。しかし、山田が離れていったことで噂話も増えた。当然のように、佳奈多を悪く言う噂ばかりだ。
『藤野が松本君の弱みを握っているんじゃないか』
『藤野が山田をけしかけた』
『山田が可哀想』
影で言われるならまだいいが、教室で聞えるように話す者もいる。佳奈多の耳に入るということは、大翔の耳にも入っている。大翔が少しずつ苛立っていくのがわかった。大翔の気をそらしたりなだめたりしながら日々を過ごしていたが、解決にはなっていない。また小学生の時のようなことにならないか、佳奈多は不安だった。
そんな時、体育で着替えに行くときにクラスで数人の生徒の話が耳に入った。
「藤野ってさ、先生とも寝てんでしょ?」
「あー。だからお着替えの部屋、もらえてるんだ」
「俺も藤野ちゃんにハメたいなぁ~」
大翔の空気が変わった。佳奈多は大翔よりも前に出て、話をしていた生徒達に近寄った。
「あ、あの…」
生徒達は一斉にこちらを見た。ジャージを抱えて佳奈多は下を向く。すぐに追いついた大翔が真後ろに立っている。腰にまわされた大翔の腕を、佳奈多はジャージと一緒に握り込んだ。
「あ、う……あの、や、やめて、悪口…大翔、く、……う、………僕、が、いやだから」
大翔が怒るからと、言いかけて佳奈多は思い直した。それでは大翔の意思を勝手に代弁することになる。大翔が怒っているのも事実だが、その前に佳奈多は自身の気持ちを伝えた。誰と寝ているだとかハメたいだとか、そんな視線で見られるのは不快だ。
「す…すみませんでした」
震えて小さな声しか出ず、伝わったか心配だったが、彼らは謝ってくれた。背後の大翔に謝ったのかもしれない。それでも、不快であることが伝わったなら十分だ。
「ひろ、くん、お着替え、行こう」
佳奈多は大翔の腕を引いて、いつもの着替えのための教室に入った。入ってすぐ、佳奈多は大翔にしがみついた。
「かなちゃん…大丈夫だよ」
震えて足に力が入らない。大翔が佳奈多を抱き上げる。
「そんなに怖いなら、言わなくて良かったのに。俺が」
「…でも、僕、いやだった。自分、で、言いた、かっ…」
大翔が怒って彼らを諌めるのは簡単だ。ただ、そうなればまた大翔が悪者になってしまう。大翔を頼ってしまうことになる。
佳奈多は初めて他人に意見した。今も体が震えている。大翔は佳奈多の頭を撫でた。
「そっか………頑張ったね、かなちゃん。自分で、言えたね。頑張った」
佳奈多は泣きながら何度も頷いて大翔に強く抱きついた。大翔は自分から行動を起こした佳奈多に驚いているだろう。声が、戸惑っている。それでも大翔は泣き出した佳奈多に、今一番欲しい言葉をくれた。
頑張ったね。自分で言えたね。
些細なきっかけで物事は変わる。良くも、悪くも変わる。
この日、自分から他人に意見できたことは佳奈多の中で大きな一歩になった。
あまりに陰口を叩く生徒は大翔と共に教師に伝えた。復讐が怖かったが、言われるままにしていては大翔の苛立ちがますます募る。まして、それこそあの『松本大翔』のお気に入りである佳奈多に復讐しようとするものは現れなかった。
そのうちに、あからさまな陰口は叩かれなくなった。大翔が爆発する前に、周りは落ち着いた。大翔を悪者にせず場を納められたことに、佳奈多は安堵した。
進級後も新しいクラスで陰口はあったが、すぐに落ち着いた。クラスメイトも常に一緒にいる佳奈多と大翔に見慣れてくれた。
2年生ともなると、進学校であるこの学園は受験に向けて本格的に稼働し始める。親との面談があった。
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