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「恋人になってくれたことは?」
大翔の問いに、佳奈多は迷わず頷いた。
「うん。お話し、した。…ごめんなさい、した。僕、女の子じゃないから」
大翔を利用してしまったことも、謝罪した。許してもらえるとは思えない。許してもらえないほうが良い。
大翔は佳奈多を求めてくれている。恋人同士となった今、とても大切にしてくれている。大翔は心から、佳奈多を愛してくれている。それが伝わってくる。そんな大翔を利用するような真似をしている自分は最低だと思う。本当は佳奈多がいなくても、大翔は大翔らしく生きていくべきだ。大翔の隣にいるべきなのは、薄汚い考えを持つ自分じゃない。
それでも今、大翔から離れることはできない。一人になるのが怖い。大翔に捨てられたらどうなってしまうのか、想像するのも怖い。
「もっと、はやく、来れば良かった。ひろくんの、お母さんのところ」
大翔のお母さんのために、大翔は大翔自身をもっと大切にしないといけない。今恋人でいるなら佳奈多も、大翔を大切にしないといけない。
改めて佳奈多は大翔の母に声を掛ける。
(ごめんなさい。でも、今だけ)
まだ大翔の傍を離れるのは怖い。佳奈多は大翔のそばで、強くなろうと思った。大翔の母の代わりといってはおこがましいが、せめて今恋人同士でいる間だけ、大翔を傍で守りたい。大翔を守れるくらい強くなって、大翔を開放してあげなければならない。
大翔が佳奈多を必要としなくなるまで、佳奈多はきちんと恋人として大翔の傍にいようと心に決めた。
それから間もなく花火大会が開催された。佳奈多が一年のうちでひどく憂鬱になる日だ。佳奈多は大きい音が得意じゃない。小学生の頃は両親に連れられて花火を見に行っていたが、大きな音に怯えてまったく楽しめなかった。花火自体は綺麗で好きだが、毎回父親に耳を塞ぐな怯えるなと叱られて、余計に地元の花火大会が苦手になってしまった。
大翔が貸してくれたヘッドフォンは完全に外部の音を遮断してくれる優れ物だった。しかし、遮断しすぎて大翔の声が聞こえなくなってしまった。
「………外しとこ、かなちゃ…まだ、始まんない、から」
肩を叩かれて驚く佳奈多を、大翔は声を上げて笑っていた。心臓が止まってしまうかと思うくらい驚いたのに、そんなに笑うなんてちょっと酷い。佳奈多はこっそり口を尖らせた。
怖かった花火大会が始まり、佳奈多は瞬きも忘れて目の前の光景に見入った。嫌な思い出しかない花火大会。こんなに美しいものだったかと、興奮してしまった。
大翔は笑って、佳奈多のヘッドフォンを少し外す。
「ちょっと、花火の音聞いてみて」
怖かったがヘッドフォンを外すと、思った以上に花火の音は小さかった。
佳奈多の家にいた時は、家の中にいても花火の音がよく聞こえた。両親が家に帰らないようになっていた頃は、布団に潜り込んで耳を塞いでやり過ごしていた。
立派なタワーマンションの一室である大翔の自宅は防音がとてもしっかりしている。眼の前に花火が広がるのに、音はほとんど聞こえない。
佳奈多は目の前の光に夢中になった。あんなに怖かった花火が、ただ美しい。
「綺麗だね」
「うん…あれ、すごい、金色の、糸、たくさん…お星さま、みた、い…」
「もう、怖くない?」
佳奈多は頷く。
「すごく、きれい」
リビングの椅子を並べて、隣りに座る大翔と話しながら花火を見る。やり方を探せば、怖かったものを見つめる方法はいくらでもある。些細なきっかけで簡単に変わる。
大翔は佳奈多が花火を見られるように、方法を示してくれた。佳奈多が一番怖がらずに見られる方法を考えてくれた。大翔はいつも佳奈多に優しい。佳奈多は大翔に、何をしてあげられているだろうか。
佳奈多はさっきまで憂鬱で怖くて仕方がなかった花火から目が離せなかった。
大翔の問いに、佳奈多は迷わず頷いた。
「うん。お話し、した。…ごめんなさい、した。僕、女の子じゃないから」
大翔を利用してしまったことも、謝罪した。許してもらえるとは思えない。許してもらえないほうが良い。
大翔は佳奈多を求めてくれている。恋人同士となった今、とても大切にしてくれている。大翔は心から、佳奈多を愛してくれている。それが伝わってくる。そんな大翔を利用するような真似をしている自分は最低だと思う。本当は佳奈多がいなくても、大翔は大翔らしく生きていくべきだ。大翔の隣にいるべきなのは、薄汚い考えを持つ自分じゃない。
それでも今、大翔から離れることはできない。一人になるのが怖い。大翔に捨てられたらどうなってしまうのか、想像するのも怖い。
「もっと、はやく、来れば良かった。ひろくんの、お母さんのところ」
大翔のお母さんのために、大翔は大翔自身をもっと大切にしないといけない。今恋人でいるなら佳奈多も、大翔を大切にしないといけない。
改めて佳奈多は大翔の母に声を掛ける。
(ごめんなさい。でも、今だけ)
まだ大翔の傍を離れるのは怖い。佳奈多は大翔のそばで、強くなろうと思った。大翔の母の代わりといってはおこがましいが、せめて今恋人同士でいる間だけ、大翔を傍で守りたい。大翔を守れるくらい強くなって、大翔を開放してあげなければならない。
大翔が佳奈多を必要としなくなるまで、佳奈多はきちんと恋人として大翔の傍にいようと心に決めた。
それから間もなく花火大会が開催された。佳奈多が一年のうちでひどく憂鬱になる日だ。佳奈多は大きい音が得意じゃない。小学生の頃は両親に連れられて花火を見に行っていたが、大きな音に怯えてまったく楽しめなかった。花火自体は綺麗で好きだが、毎回父親に耳を塞ぐな怯えるなと叱られて、余計に地元の花火大会が苦手になってしまった。
大翔が貸してくれたヘッドフォンは完全に外部の音を遮断してくれる優れ物だった。しかし、遮断しすぎて大翔の声が聞こえなくなってしまった。
「………外しとこ、かなちゃ…まだ、始まんない、から」
肩を叩かれて驚く佳奈多を、大翔は声を上げて笑っていた。心臓が止まってしまうかと思うくらい驚いたのに、そんなに笑うなんてちょっと酷い。佳奈多はこっそり口を尖らせた。
怖かった花火大会が始まり、佳奈多は瞬きも忘れて目の前の光景に見入った。嫌な思い出しかない花火大会。こんなに美しいものだったかと、興奮してしまった。
大翔は笑って、佳奈多のヘッドフォンを少し外す。
「ちょっと、花火の音聞いてみて」
怖かったがヘッドフォンを外すと、思った以上に花火の音は小さかった。
佳奈多の家にいた時は、家の中にいても花火の音がよく聞こえた。両親が家に帰らないようになっていた頃は、布団に潜り込んで耳を塞いでやり過ごしていた。
立派なタワーマンションの一室である大翔の自宅は防音がとてもしっかりしている。眼の前に花火が広がるのに、音はほとんど聞こえない。
佳奈多は目の前の光に夢中になった。あんなに怖かった花火が、ただ美しい。
「綺麗だね」
「うん…あれ、すごい、金色の、糸、たくさん…お星さま、みた、い…」
「もう、怖くない?」
佳奈多は頷く。
「すごく、きれい」
リビングの椅子を並べて、隣りに座る大翔と話しながら花火を見る。やり方を探せば、怖かったものを見つめる方法はいくらでもある。些細なきっかけで簡単に変わる。
大翔は佳奈多が花火を見られるように、方法を示してくれた。佳奈多が一番怖がらずに見られる方法を考えてくれた。大翔はいつも佳奈多に優しい。佳奈多は大翔に、何をしてあげられているだろうか。
佳奈多はさっきまで憂鬱で怖くて仕方がなかった花火から目が離せなかった。
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