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佳奈多は大翔にスマホを差し出した。ロックを解除して中身を全て大翔に見せる。もうあのアプリは消去した。佳奈多はじっと見つめて動かない大翔を伺う。
スマホの中身を、自分の秘密を晒して服従を示す。
なにもやましいことはない。
「かなちゃんのこと、信じる。できればもう…ああいうアプリは、入れないで欲しい」
佳奈多は何度も頷いた。いうことを聞くので、捨てないで欲しい。見捨てられないようにしなければならない。
母を殴る父と、殴られた傷を晒す母を思い出す。大翔と自分は両親と同じ関係になる。支配する側とされる側。支配する側にいようと必死だった佳奈多は結局、支配される側になった。自業自得だ。
もう対等な友達には戻れない。関係を崩したのは自分だと、佳奈多は改めて絶望した。
その後、佳奈多はずっと大翔の傍にいた。土日で休みだったこともあり、家の中で、ぴったりと大翔に張り付いていた。どうしたら大翔が喜ぶかわからない佳奈多は、少しでも傍にいた。腕にしがみついたり、膝に乗ったり。最初は驚いていた大翔も、好きなようにさせてくれた。
「かなちゃん…俺達、付き合ってるってことで、いいんだよね?」
「違う、の?」
大翔の問いに、佳奈多は質問で返す。ずるい言い方だと思う。はっきりと、佳奈多から付き合っていると答えるのが怖かった。なんて自分は汚いんだと、佳奈多は思った。大翔が強く抱きしめてくれる。胸に縋ると、髪をなでてくれた。優しい掌に涙があふれた。
山田と取り巻きが怖くて、学校で一人ぼっちになるのが怖くて、また大翔を佳奈多の都合の良いように使おうとしている。大翔の好意を利用しようとしている。
佳奈多は自分がとてもずるくて汚いものだと思えて仕方がなかった。
恋愛とは支配で、大翔に縋った佳奈多は支配される側になる。佳奈多の母と同じように。山田の取り巻きに蹂躙されることと大翔に支配されることを天秤にかけて、佳奈多は後者を選んだ。
佳奈多と大翔は、晴れて恋人同士となった。
「お前はもう、いい。離れろ」
休みが明けた月曜日。大翔は山田を振り払った。山田は目を剥いていた。佳奈多も驚いた。他の男子生徒に比べたら長く傍に置いていた。大翔は山田を気に入ってたはずだ。こんなに無碍に切り捨てるとは思っていなかった。
怖くなって、佳奈多の大翔の手を握る手に力が籠もる。山田は大翔に食らいついていた。山田を遠ざけてほしいと思っていた。しかし大翔に拒絶される山田を見て、その山田の縋りつく様を見て、佳奈多は選択を誤ったんじゃないかと思った。大翔に腰を抱かれて先を促される佳奈多を、山田は恐ろしい形相で見つめていた。
『松本大翔』に歯向かえる者はこの学園にいない。大翔の傍にいて、山田を遠ざけてもらえばまた安寧の日々が訪れると佳奈多は思っていた。しかし山田の顔に、その考えは甘かったのではないかと思う。山田にはあの取り巻き3人がいる。
「かなちゃん、大丈夫?どうしたの?」
取り巻きのことを話すべきか。しかしそうなると体育祭での出来事も話さなけれいけなくなる。きっと大翔はあの3人に復讐するだろう。向こうは3人もいて、体格も良かった。大翔が怪我をするかもしれない。無用な争いの種は知らせるべきじゃない。
口の中であれこれ呟いてみたが、大翔に伝えるべき言葉は出てこなかった。
その日、山田は何度も大翔に縋った。最初は笑っていたクラスメイト達が見て見ぬふりをするほど、山田はなりふり構わず大翔に何度もしがみついてた。段々と大翔に苛立ちが募っているのがわかる。大翔の纏う空気に棘が含まれていく。
何度か佳奈多は大翔の腕を引いて山田から興味を反らした。大翔は佳奈多の方を向いて、苛立ちと棘が鳴りを潜める。そんな大翔の姿を見て、ますます山田は険しい顔になっていく。佳奈多はもう大翔に触れず、じっと静かにしていた。
スマホの中身を、自分の秘密を晒して服従を示す。
なにもやましいことはない。
「かなちゃんのこと、信じる。できればもう…ああいうアプリは、入れないで欲しい」
佳奈多は何度も頷いた。いうことを聞くので、捨てないで欲しい。見捨てられないようにしなければならない。
母を殴る父と、殴られた傷を晒す母を思い出す。大翔と自分は両親と同じ関係になる。支配する側とされる側。支配する側にいようと必死だった佳奈多は結局、支配される側になった。自業自得だ。
もう対等な友達には戻れない。関係を崩したのは自分だと、佳奈多は改めて絶望した。
その後、佳奈多はずっと大翔の傍にいた。土日で休みだったこともあり、家の中で、ぴったりと大翔に張り付いていた。どうしたら大翔が喜ぶかわからない佳奈多は、少しでも傍にいた。腕にしがみついたり、膝に乗ったり。最初は驚いていた大翔も、好きなようにさせてくれた。
「かなちゃん…俺達、付き合ってるってことで、いいんだよね?」
「違う、の?」
大翔の問いに、佳奈多は質問で返す。ずるい言い方だと思う。はっきりと、佳奈多から付き合っていると答えるのが怖かった。なんて自分は汚いんだと、佳奈多は思った。大翔が強く抱きしめてくれる。胸に縋ると、髪をなでてくれた。優しい掌に涙があふれた。
山田と取り巻きが怖くて、学校で一人ぼっちになるのが怖くて、また大翔を佳奈多の都合の良いように使おうとしている。大翔の好意を利用しようとしている。
佳奈多は自分がとてもずるくて汚いものだと思えて仕方がなかった。
恋愛とは支配で、大翔に縋った佳奈多は支配される側になる。佳奈多の母と同じように。山田の取り巻きに蹂躙されることと大翔に支配されることを天秤にかけて、佳奈多は後者を選んだ。
佳奈多と大翔は、晴れて恋人同士となった。
「お前はもう、いい。離れろ」
休みが明けた月曜日。大翔は山田を振り払った。山田は目を剥いていた。佳奈多も驚いた。他の男子生徒に比べたら長く傍に置いていた。大翔は山田を気に入ってたはずだ。こんなに無碍に切り捨てるとは思っていなかった。
怖くなって、佳奈多の大翔の手を握る手に力が籠もる。山田は大翔に食らいついていた。山田を遠ざけてほしいと思っていた。しかし大翔に拒絶される山田を見て、その山田の縋りつく様を見て、佳奈多は選択を誤ったんじゃないかと思った。大翔に腰を抱かれて先を促される佳奈多を、山田は恐ろしい形相で見つめていた。
『松本大翔』に歯向かえる者はこの学園にいない。大翔の傍にいて、山田を遠ざけてもらえばまた安寧の日々が訪れると佳奈多は思っていた。しかし山田の顔に、その考えは甘かったのではないかと思う。山田にはあの取り巻き3人がいる。
「かなちゃん、大丈夫?どうしたの?」
取り巻きのことを話すべきか。しかしそうなると体育祭での出来事も話さなけれいけなくなる。きっと大翔はあの3人に復讐するだろう。向こうは3人もいて、体格も良かった。大翔が怪我をするかもしれない。無用な争いの種は知らせるべきじゃない。
口の中であれこれ呟いてみたが、大翔に伝えるべき言葉は出てこなかった。
その日、山田は何度も大翔に縋った。最初は笑っていたクラスメイト達が見て見ぬふりをするほど、山田はなりふり構わず大翔に何度もしがみついてた。段々と大翔に苛立ちが募っているのがわかる。大翔の纏う空気に棘が含まれていく。
何度か佳奈多は大翔の腕を引いて山田から興味を反らした。大翔は佳奈多の方を向いて、苛立ちと棘が鳴りを潜める。そんな大翔の姿を見て、ますます山田は険しい顔になっていく。佳奈多はもう大翔に触れず、じっと静かにしていた。
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