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この先をどうしたらいいのかわからない。どう行為を進めたらいいのか、この行為の末に何があるのか。わからず、佳奈多は大翔にすがる。
「して、ひろくん…」
結局佳奈多は大翔に甘えてしまう。お願いすれば、大翔はなんでもしてくれる。自分から誘っておいて、ずるくて卑怯だ。深く口付けてくる大翔に、佳奈多は必死にしがみついた。
その夜の記憶は今も少し曖昧になっている。怖くて、それでも少しでも大翔に楽しんでもらおうと、全身に変に力が入っていた。
脳内に響く山田達の声に恐怖を感じて涙を流し、終始優しい大翔の手つきにまた涙を流して、ずっと泣いていた気がする。
翌朝目が覚めて、隣りに大翔がいなかった。痛む全身に鞭打ってリビングに行くと、大翔はぼんやりと椅子に座っていた。
「俺、朝ご飯食べるよ。かなちゃんは?食べる?」
昨夜が嘘のようだった。大翔はいつものように、しかしどこか上の空で佳奈多に笑いかけた。
体を重ねたら、以前のように自分だけを見てくれていた大翔に戻ると思っていた。実際は違っていた。もう大翔の興味は佳奈多にない。そう突きつけられているようだった。
「ぼくのこと、もう、きらい?」
口に出して、佳奈多は自分でショックを受けた。あんなに意地悪をして嫌な思いをさせたのだから、大翔に嫌われて当然だ。そう思いながら、頭の中にはこのままだと山田の取り巻きの玩具にされる、どうしたらいいのかと、自分勝手な考えも浮かぶ。あまりにも自分本位で、大翔の気持ちを無視した自分の考えに、佳奈多は吐き気がした。
しかしその時、一番佳奈多の心を支配したのは、大翔に捨てられるという恐怖だった。家を去る母の背中が見える。
ぼくのこと、もういらない?
母も大翔も、もう佳奈多は必要ないのだろうか。捨てたあとは振り返らず、見向きもされない。帰ってきてほしいのに帰ってこない。きっと生きているはずなのに、佳奈多のことはひとつも気にしてくれていない。
いらないと突きつけられることが何より怖い。
考えていたら、背骨に痛みが走った。何をされているのか理解できなかった。すぐそばで、大翔の声が聞こえた。
「嫌いなわけ、ないだろ!」
佳奈多は大翔に強く抱きしめられていた。呼吸が苦しくなるほどに。
「好きだよ、かなちゃんが。ずっと、苦しくて、しんどいよ。好きで、好きで、苦しいよ」
大翔が苦しそうに吐露した。大翔の言葉にきっと嘘はない。抱きしめる腕の強さも、力の加減を忘れるくらい大翔は佳奈多を求めている。
そんなひろくんを、利用するの?
佳奈多は頭の中で、自問自答する。佳奈多は振り払うように、嘘だと叫んだ。山田を傍に置く大翔の言葉は嘘だと。
「すき、すきに、なるから、…せっくす、するから、山田く、仲良し、やめ、て、せ、…せっくす、する、からぁ」
だからすてないで
佳奈多は大翔に訴えた。大翔が望むなら、いくらでも体を差し出す。母のように、佳奈多を捨てないで欲しかった。
「…かなちゃん、それ、本当?」
大翔の熱の籠もった声に、佳奈多の背中が粟立った。大翔は、腕を緩めて佳奈多を抱き直した。さっきほど苦しくないのに、佳奈多は身動きが取れない。まるで蛇のようにぴったりと佳奈多を締め付けている。
以前のような、大翔の声だった。なにか噛みしめるような言い方は、少し怖かった。
大翔は山田を切ると行ってくれた。服を取ってくるという大翔に、佳奈多はまだ傍にいてほしくて引きとめた。
大翔は少し溶けたような眼で佳奈多を見た。
「だめだよ、かなちゃん。そんな格好で、俺の前に来ちゃ…」
全裸だったことを、佳奈多は今更思い出した。
佳奈多は両手を太ももの間につっこんだ。裸のままで、隠すものが手元になにもない。
大翔はリビングを去っていった。
大翔の上擦ったような声が、少し怖くて安堵した。アプリで見知らぬ男との会話を見つかった時以前の、ずっと見てきた大翔の姿だった。常にぼんやりとしていた大翔の瞳に、力が戻った気がする。
「して、ひろくん…」
結局佳奈多は大翔に甘えてしまう。お願いすれば、大翔はなんでもしてくれる。自分から誘っておいて、ずるくて卑怯だ。深く口付けてくる大翔に、佳奈多は必死にしがみついた。
その夜の記憶は今も少し曖昧になっている。怖くて、それでも少しでも大翔に楽しんでもらおうと、全身に変に力が入っていた。
脳内に響く山田達の声に恐怖を感じて涙を流し、終始優しい大翔の手つきにまた涙を流して、ずっと泣いていた気がする。
翌朝目が覚めて、隣りに大翔がいなかった。痛む全身に鞭打ってリビングに行くと、大翔はぼんやりと椅子に座っていた。
「俺、朝ご飯食べるよ。かなちゃんは?食べる?」
昨夜が嘘のようだった。大翔はいつものように、しかしどこか上の空で佳奈多に笑いかけた。
体を重ねたら、以前のように自分だけを見てくれていた大翔に戻ると思っていた。実際は違っていた。もう大翔の興味は佳奈多にない。そう突きつけられているようだった。
「ぼくのこと、もう、きらい?」
口に出して、佳奈多は自分でショックを受けた。あんなに意地悪をして嫌な思いをさせたのだから、大翔に嫌われて当然だ。そう思いながら、頭の中にはこのままだと山田の取り巻きの玩具にされる、どうしたらいいのかと、自分勝手な考えも浮かぶ。あまりにも自分本位で、大翔の気持ちを無視した自分の考えに、佳奈多は吐き気がした。
しかしその時、一番佳奈多の心を支配したのは、大翔に捨てられるという恐怖だった。家を去る母の背中が見える。
ぼくのこと、もういらない?
母も大翔も、もう佳奈多は必要ないのだろうか。捨てたあとは振り返らず、見向きもされない。帰ってきてほしいのに帰ってこない。きっと生きているはずなのに、佳奈多のことはひとつも気にしてくれていない。
いらないと突きつけられることが何より怖い。
考えていたら、背骨に痛みが走った。何をされているのか理解できなかった。すぐそばで、大翔の声が聞こえた。
「嫌いなわけ、ないだろ!」
佳奈多は大翔に強く抱きしめられていた。呼吸が苦しくなるほどに。
「好きだよ、かなちゃんが。ずっと、苦しくて、しんどいよ。好きで、好きで、苦しいよ」
大翔が苦しそうに吐露した。大翔の言葉にきっと嘘はない。抱きしめる腕の強さも、力の加減を忘れるくらい大翔は佳奈多を求めている。
そんなひろくんを、利用するの?
佳奈多は頭の中で、自問自答する。佳奈多は振り払うように、嘘だと叫んだ。山田を傍に置く大翔の言葉は嘘だと。
「すき、すきに、なるから、…せっくす、するから、山田く、仲良し、やめ、て、せ、…せっくす、する、からぁ」
だからすてないで
佳奈多は大翔に訴えた。大翔が望むなら、いくらでも体を差し出す。母のように、佳奈多を捨てないで欲しかった。
「…かなちゃん、それ、本当?」
大翔の熱の籠もった声に、佳奈多の背中が粟立った。大翔は、腕を緩めて佳奈多を抱き直した。さっきほど苦しくないのに、佳奈多は身動きが取れない。まるで蛇のようにぴったりと佳奈多を締め付けている。
以前のような、大翔の声だった。なにか噛みしめるような言い方は、少し怖かった。
大翔は山田を切ると行ってくれた。服を取ってくるという大翔に、佳奈多はまだ傍にいてほしくて引きとめた。
大翔は少し溶けたような眼で佳奈多を見た。
「だめだよ、かなちゃん。そんな格好で、俺の前に来ちゃ…」
全裸だったことを、佳奈多は今更思い出した。
佳奈多は両手を太ももの間につっこんだ。裸のままで、隠すものが手元になにもない。
大翔はリビングを去っていった。
大翔の上擦ったような声が、少し怖くて安堵した。アプリで見知らぬ男との会話を見つかった時以前の、ずっと見てきた大翔の姿だった。常にぼんやりとしていた大翔の瞳に、力が戻った気がする。
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