黒い春 本編完結 (BL)

Oj

文字の大きさ
上 下
73 / 152

72

しおりを挟む
翌日、いつもは振り払う愛くるしい男子生徒を大翔は受け入れた。いつも通り手を繋いで歩いてくれる大翔に、許されたのかと佳奈多は思った。しかし、愛くるしい男子生徒を受け入れるということは、きっともう佳奈多はいらないんだろう。これからどうしたらいいのか。佳奈多は怖くなった。
佳奈多とは大翔を挟んで反対隣を歩く男子生徒は佳奈多を見て笑った。勝ち誇った彼の顔に、ここにいるべきではないのだと佳奈多は悟った。二人から離れようと大翔と繋いだ手を緩める。しかし強く握り返されて、その場から離れることができなかった。
大翔がどうしたいのか意図がわからず、佳奈多は手を引かれるまま二人のあとをついて教室へ向かった。


それから何人かの姫と呼ばれる男子生徒が大翔の隣にいた。佳奈多と大翔と、3人で過ごすことが増えた。大翔は姫を、優しくするでもなく傍においた。大翔がなにをしたいのか、佳奈多にはわからない。それは姫達も同じだったようだ。少し怖い姫達はすぐに傍からいなくなった。佳奈多に親しくしてくれる姫も、時間が経つと離れていってしまう。大翔が追い払ったり別の姫を置いたりしていた。とても居心地が悪かった。佳奈多も大翔から離れようとしたが、それも大翔は許さなかった。
「かなちゃん。一人でどこ行くの?」
トイレに行くのも移動教室も常に大翔と姫と一緒だった。学校で見放されないだけ、家を追い出されないだけましなんだと佳奈多は自分に言い聞かせた。学校では姫と過ごす大翔の邪魔にならないように、家では佳奈多をないものとして扱う大翔に付かず離れず、気配を殺して過ごしていた。


それからすぐに、大翔は決まった姫を傍に置いた。山田という名の彼は美しく、いつも静かに大翔の隣りにいた。佳奈多に意地悪をするわけではなく、かといって優しくしてくれるわけでもない。基本的に、佳奈多と山田はお互い触れ合うことはなかった。しかし時々佳奈多に見せる暗い瞳が怖かった。
打って変わって、大翔のことはとても熱の籠もった瞳で見つめる。今までの姫達の中でも特に大翔に心酔しているように見えた。山田はいつも大翔の傍にいた。しかし熱心に大翔を見ているからか、大翔が離れてほしいときを見極めてそっと傍から離れていく。甲斐甲斐しく大翔の世話をするものの、引く時はきちんと引く。大翔は彼に信頼を寄せているように思えた。他の姫達といる時と、表情と雰囲気が違う。
今までと変わらず、佳奈多は息を殺して過ごした。そんな生活が大きく変わったのは、あの体育祭からだった。


その年の体育祭で、大翔はリレーの選手に選ばれていた。普段なら参加しないが、今年は学長交代があるため参加してほしいと依頼があったらしい。
「かなちゃん。アイツがいるから、大丈夫だよね」
アイツ、とは、山田のことだろう。大翔がいない間、二人きりにさせられる。大翔は佳奈多の顔を見ずに言う。佳奈多に話をすることもなく決めてしまった。まして、大翔以外の人間と佳奈多を二人きりにしておくなんて、今までなら絶対になかった。佳奈多は黙って頷いた。
今までずっと大翔と一緒だった。大翔から離れたら、学校でどう過ごしたら良いのかわからない。全て自分の撒いた種で、自業自得だ。
山田は佳奈多を好いていない。当然だろう。佳奈多は大翔の傍にいる、異物でしかない。大翔が不在の時間、山田と二人でいなければならない。
佳奈多は唇を噛み締めて、恐怖に耐えることにした。


体育祭で、大翔が競技に出ている時。運動場からは少し離れた校舎への入口の階段に佳奈多達は座っていた。競技は見えないが日陰になっていて居心地が良い。とはいえ山田とともにいる空間は非常に居心地が悪い。何をされたわけでもないのに、佳奈多は山田が怖かった。時折見せるじっとりとした暗い瞳が恐ろしかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...