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70 side佳奈多
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恋愛とは支配だ。だって両親がそうだったから。どちらかがどちらかを支配する。主導権を握らなければ、いいように支配される。
僕が、主導権を握らなければ。
大翔は従順に佳奈多に従ってくれた。時々戸惑っていることは表情で読み取れた。
「いじわるしないで、かなちゃん」
何をしても、大翔は佳奈多から離れていかなかった。離れていかない大翔に安堵しながら、本当はとても怖かった。
高等部に進学して周りの空気が変わった。大翔は今までとはまた違った風に注目されるようになった。同級生も上級生も、大翔に対して憧れの視線を送るものがいる。それは欲と色を孕んだ視線だった。
『かっこいい』『素敵』『付き合いたい』
中等部の頃とは違う、色恋を含んだ空気と視線。あまり知識のない佳奈多も気づいた。きっと大翔本人も感じているだろう。他の生徒に愛されて可愛いと言われてる男子生徒が何人か、大翔に接触する機会が増えた。佳奈多から見ても冷たい対応をする大翔にめげず、愛くるしい表情を浮かべて大翔に話しかけている。
『松本君、もっと僕と、お話して?』
大翔は腕に絡みつくその男子生徒を払いのける。その生徒の取り巻きは大翔を睨みつけている。男子生徒は笑う。
『松本君、冷た~い。でも、そういうところも、かっこいい』
愛らしく笑う彼は最後、佳奈多を一瞥して去っていく。佳奈多はそっと大翔の背後に隠れた。
いつも大翔のそばにいる佳奈多に対する周りの視線はより強くきついものになった。小学生の頃からは比べ物にならない。
『なんであんなのが松本君のお気に入りなの?』
聞こえるように、言われたことがある。佳奈多は聞こえないふりをするが、きちんと耳に入っている。
(だって、ひろくんは僕のことが好きな、変態だから)
そう思う佳奈多の中に、モヤが広がる。
本当に?
大翔は佳奈多を、これからも好きでいるだろうか。母のように、佳奈多を捨てないだろうか。佳奈多は確証が欲しかった。
何度もからかって無視して大翔を試した。どこまで大翔は怒らないでいてくれるか。どのくらいまで耐えて、佳奈多を追い出さずにいてくれるか。
(お父さんみたいに、ぶたない?お母さんみたいに、いなくならない?)
どこがボーダーラインなのか試した。少し罪悪感もあった。
(でもひろくん、僕に嫌なことたくさんした。体を触った。だから僕だって、ひろくんに、意地悪していいはずだ)
佳奈多はそう思っていた。
(ちゃんと、僕の言うこときかせなくちゃ)
恋愛とは支配で、支配していなければあらゆる暴力を相手から受けることになる。
そのはずだった。
最近大翔をわざと無視していたはずが、気づけば長い時間が過ぎ去っていることがある。頭もぼんやりしてうまく考えがまとまらない。戸惑う大翔の顔を見て、申し訳なくなるときもあれば、どうしてそんな顔をしているのかわからなくなるときもある。
佳奈多はそんな自分自身に戸惑った。自分はどうしてしまったんだろう。
大翔への無理な意地悪に、自分自身が追い詰められていたのだろうと思う。母がいなくなり父に殴られて、精神が消耗して疲れ切っていたのだろう。大翔への意地悪は八つ当たりだったのかもしれない。何をどう言い繕っても、今はあの時の大翔に対して、後悔しかない。
大翔と仲良くなりたがる可愛らしい顔立ちの男子生徒は一人や二人じゃない。綺麗な顔でスタイルのいい者もいる。
はたして佳奈多はいつまで大翔の一番でいられるのか。
他の人間に大翔を取られたら、佳奈多は学校で居場所がなくなる。きっと大翔の家にもいられなくなる。佳奈多の、父親のいる家に帰らなければならなくなる。
佳奈多は焦った。焦って、どうしたらいいか考えた。他の子達が簡単にはできない、大翔を繋ぎ止める方法。すぐに考えは浮かんだ。ずっと前から頭の隅にあったことだった。
僕が、主導権を握らなければ。
大翔は従順に佳奈多に従ってくれた。時々戸惑っていることは表情で読み取れた。
「いじわるしないで、かなちゃん」
何をしても、大翔は佳奈多から離れていかなかった。離れていかない大翔に安堵しながら、本当はとても怖かった。
高等部に進学して周りの空気が変わった。大翔は今までとはまた違った風に注目されるようになった。同級生も上級生も、大翔に対して憧れの視線を送るものがいる。それは欲と色を孕んだ視線だった。
『かっこいい』『素敵』『付き合いたい』
中等部の頃とは違う、色恋を含んだ空気と視線。あまり知識のない佳奈多も気づいた。きっと大翔本人も感じているだろう。他の生徒に愛されて可愛いと言われてる男子生徒が何人か、大翔に接触する機会が増えた。佳奈多から見ても冷たい対応をする大翔にめげず、愛くるしい表情を浮かべて大翔に話しかけている。
『松本君、もっと僕と、お話して?』
大翔は腕に絡みつくその男子生徒を払いのける。その生徒の取り巻きは大翔を睨みつけている。男子生徒は笑う。
『松本君、冷た~い。でも、そういうところも、かっこいい』
愛らしく笑う彼は最後、佳奈多を一瞥して去っていく。佳奈多はそっと大翔の背後に隠れた。
いつも大翔のそばにいる佳奈多に対する周りの視線はより強くきついものになった。小学生の頃からは比べ物にならない。
『なんであんなのが松本君のお気に入りなの?』
聞こえるように、言われたことがある。佳奈多は聞こえないふりをするが、きちんと耳に入っている。
(だって、ひろくんは僕のことが好きな、変態だから)
そう思う佳奈多の中に、モヤが広がる。
本当に?
大翔は佳奈多を、これからも好きでいるだろうか。母のように、佳奈多を捨てないだろうか。佳奈多は確証が欲しかった。
何度もからかって無視して大翔を試した。どこまで大翔は怒らないでいてくれるか。どのくらいまで耐えて、佳奈多を追い出さずにいてくれるか。
(お父さんみたいに、ぶたない?お母さんみたいに、いなくならない?)
どこがボーダーラインなのか試した。少し罪悪感もあった。
(でもひろくん、僕に嫌なことたくさんした。体を触った。だから僕だって、ひろくんに、意地悪していいはずだ)
佳奈多はそう思っていた。
(ちゃんと、僕の言うこときかせなくちゃ)
恋愛とは支配で、支配していなければあらゆる暴力を相手から受けることになる。
そのはずだった。
最近大翔をわざと無視していたはずが、気づけば長い時間が過ぎ去っていることがある。頭もぼんやりしてうまく考えがまとまらない。戸惑う大翔の顔を見て、申し訳なくなるときもあれば、どうしてそんな顔をしているのかわからなくなるときもある。
佳奈多はそんな自分自身に戸惑った。自分はどうしてしまったんだろう。
大翔への無理な意地悪に、自分自身が追い詰められていたのだろうと思う。母がいなくなり父に殴られて、精神が消耗して疲れ切っていたのだろう。大翔への意地悪は八つ当たりだったのかもしれない。何をどう言い繕っても、今はあの時の大翔に対して、後悔しかない。
大翔と仲良くなりたがる可愛らしい顔立ちの男子生徒は一人や二人じゃない。綺麗な顔でスタイルのいい者もいる。
はたして佳奈多はいつまで大翔の一番でいられるのか。
他の人間に大翔を取られたら、佳奈多は学校で居場所がなくなる。きっと大翔の家にもいられなくなる。佳奈多の、父親のいる家に帰らなければならなくなる。
佳奈多は焦った。焦って、どうしたらいいか考えた。他の子達が簡単にはできない、大翔を繋ぎ止める方法。すぐに考えは浮かんだ。ずっと前から頭の隅にあったことだった。
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