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修学旅行はとても充実した4日間だった。テーマパークを遊びつくすと意気込む佳奈多のスケジュールのお陰で多くの乗り物に乗り、イベントも楽しめた。可愛らしい飾りを頭につけて周るのも最初は恥ずかしかったが、こういうものだからと佳奈多に押し切られて次第に慣れてしまった。
「次、どれだっけ?」
「あ、あっち。あっちで、ポップコーン買お。味がね、たくさんあるよ。今はね、限定の味があって…」
興奮気味に語る佳奈多に連れられて行った先で買ったポップコーンは確かに美味しかった。普段見かけないフレーバーのポップコーンは、ここに来なければ絶対に食べることはなかっただろうと思う。美味しそうに頬張るリスのような佳奈多が愛くるしい。
「かなちゃん。そんなに焦って食べたらむせちゃうよ」
口の周りのポップコーンを拭って取り去ってやると、佳奈多は恥ずかしかったのかうつむいた。
道中、系列の女学園の学生に声をかけられることもあったが、ずっと佳奈多と一緒にいることができた。
子供向けだろうアトラクションに乗って目を輝かせる佳奈多も、懸命にミニゲームに勤しむ佳奈多もとても可愛らしかった。一つ悔やまれるのは、修学旅行中に体を重ねることができなかったことだ。全力で2つのパークを巡るため、夜はすぐに寝ると釘を差されてしまっていた。そのための道具も、出発直前に見つかり没収されてしまった。
それでも愛くるしい佳奈多に大翔の心は満たされていた。本当に楽しくて、幸せだった。
修学旅行の終わった学園内は空気が変わった。教師も生徒も受験に向けて、本格的に動き出す。大翔の志望校に対する試験の判定は全てAだった。いくつかある志望校のうちどれかは合格するだろう。どこも父と秘書が希望する以上の大学だった。
しかし、大翔が希望する一番の進学先は佳奈多と同じ場所だ。佳奈多の志望校はまだ決まっていない。あまり急かす真似もしたくない大翔は、佳奈多に対して中々切り出せずにいた。
進学先はどうするのか。この学園では少ないが、大学に限らず、専門学校という場合もある。
佳奈多は進学のことで担任に呼び出された。親は来ないというので同席を申し出たが、初めて大翔の意見が却下された。学年主任も参加するそうで、進学や将来に関わることにはさすがに同席させられないと頭を下げられた。
「大丈夫だよ、ひろくん。も、もう、決めなくちゃ、だめだよね」
佳奈多一人では心配だが、図書館で待っていて欲しいという佳奈多に大翔は承諾した。もしかしたらここで志望校が決まるかもしれない。学校までは決まらなくとも、道筋は見えてくるかもしれない。もしも別の大学に入学することになっても、入学後に編入する手もある。しかしできれば同じ学校に入学から佳奈多と共にいたい。どんな人間がいるともわからない場所に、佳奈多一人を行かせることはできない。きちんと手元で、目に見えるところで守ってあげなければならない。
面談が終わるのを、大翔は今か今かと待った。これで道筋すら立てられていなかったら、学年主任と担任をどうしてくれようか。そんなことを考えていたら図書館に佳奈多が顔を出した。
「ごめんね、お、お待たせ。帰ろう、ひろくん」
佳奈多はそっと大翔の手を握った。大翔は強く握り返して動かなかった。
「あ、あの、かえったら、面談のこと…」
佳奈多が周りに目を配る。周りには数人生徒がいる。確かに、不特定多数に聞かれたくはない話だ。
「…わかった。帰ろう」
大翔は佳奈多と共に家路を急いだ。
自宅についてすぐ、着替えもせずに大翔は佳奈多を抱えてソファに腰掛けた。佳奈多は驚いたものの逃げるようなことはなく、すぐに話を始めてくれた。
「あのね、僕、進学、しないことにした。どこも、行かない」
「就職…するってこと?」
「次、どれだっけ?」
「あ、あっち。あっちで、ポップコーン買お。味がね、たくさんあるよ。今はね、限定の味があって…」
興奮気味に語る佳奈多に連れられて行った先で買ったポップコーンは確かに美味しかった。普段見かけないフレーバーのポップコーンは、ここに来なければ絶対に食べることはなかっただろうと思う。美味しそうに頬張るリスのような佳奈多が愛くるしい。
「かなちゃん。そんなに焦って食べたらむせちゃうよ」
口の周りのポップコーンを拭って取り去ってやると、佳奈多は恥ずかしかったのかうつむいた。
道中、系列の女学園の学生に声をかけられることもあったが、ずっと佳奈多と一緒にいることができた。
子供向けだろうアトラクションに乗って目を輝かせる佳奈多も、懸命にミニゲームに勤しむ佳奈多もとても可愛らしかった。一つ悔やまれるのは、修学旅行中に体を重ねることができなかったことだ。全力で2つのパークを巡るため、夜はすぐに寝ると釘を差されてしまっていた。そのための道具も、出発直前に見つかり没収されてしまった。
それでも愛くるしい佳奈多に大翔の心は満たされていた。本当に楽しくて、幸せだった。
修学旅行の終わった学園内は空気が変わった。教師も生徒も受験に向けて、本格的に動き出す。大翔の志望校に対する試験の判定は全てAだった。いくつかある志望校のうちどれかは合格するだろう。どこも父と秘書が希望する以上の大学だった。
しかし、大翔が希望する一番の進学先は佳奈多と同じ場所だ。佳奈多の志望校はまだ決まっていない。あまり急かす真似もしたくない大翔は、佳奈多に対して中々切り出せずにいた。
進学先はどうするのか。この学園では少ないが、大学に限らず、専門学校という場合もある。
佳奈多は進学のことで担任に呼び出された。親は来ないというので同席を申し出たが、初めて大翔の意見が却下された。学年主任も参加するそうで、進学や将来に関わることにはさすがに同席させられないと頭を下げられた。
「大丈夫だよ、ひろくん。も、もう、決めなくちゃ、だめだよね」
佳奈多一人では心配だが、図書館で待っていて欲しいという佳奈多に大翔は承諾した。もしかしたらここで志望校が決まるかもしれない。学校までは決まらなくとも、道筋は見えてくるかもしれない。もしも別の大学に入学することになっても、入学後に編入する手もある。しかしできれば同じ学校に入学から佳奈多と共にいたい。どんな人間がいるともわからない場所に、佳奈多一人を行かせることはできない。きちんと手元で、目に見えるところで守ってあげなければならない。
面談が終わるのを、大翔は今か今かと待った。これで道筋すら立てられていなかったら、学年主任と担任をどうしてくれようか。そんなことを考えていたら図書館に佳奈多が顔を出した。
「ごめんね、お、お待たせ。帰ろう、ひろくん」
佳奈多はそっと大翔の手を握った。大翔は強く握り返して動かなかった。
「あ、あの、かえったら、面談のこと…」
佳奈多が周りに目を配る。周りには数人生徒がいる。確かに、不特定多数に聞かれたくはない話だ。
「…わかった。帰ろう」
大翔は佳奈多と共に家路を急いだ。
自宅についてすぐ、着替えもせずに大翔は佳奈多を抱えてソファに腰掛けた。佳奈多は驚いたものの逃げるようなことはなく、すぐに話を始めてくれた。
「あのね、僕、進学、しないことにした。どこも、行かない」
「就職…するってこと?」
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