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「かなちゃん、お願い事してない?お地蔵様じゃないからね?」
「し、してないよ!…ひろくんの、学校のこととか…また、テスト、一番だったよ、って。あと、僕のことも、ちょっとお話し、してる」
「そうなの?なに、どんなこと?」
「…ひろくんに勉強教えてもらって、成績上がったよって…あとは、秘密。ひろくんのお母さん、お地蔵様じゃないよ。知ってるよ」
佳奈多は少しむくれて下を向いた。さっきからかったことを、根に持ってしまったようだ。可愛い反応に、大翔の顔が綻ぶ。
「怒んないでよ。気になるから、教えて?」
「やだ。ひみつ。ないしょ」
ぷいっと佳奈多はそっぽを向いてしまった。大翔は思わず吹き出してしまう。こんな時の佳奈多は、中々機嫌を直してくれない。最近の佳奈多は素直に感情を表現してくれる。そんな姿を益々愛おしく感じる。
本当は、佳奈多は母に何を話していたのだろう。
それからまた花火大会を佳奈多と眺める。今年は床にクッションをひいて佳奈多を膝に乗せて見えた。佳奈多は背中大翔に預けてゆったりと花火に見入っている。以前は膝に乗せると体を固くしていた。佳奈多は益々、大翔に体も心も許してくれている。
夏休みがあけて試験が終わると、周りはひどく浮かれていた。修学旅行が待っている。この学園の生徒としての旅行の行事はこれが最後になる。最後ということもあり、行き先はテーマパークのホテルに3泊という、堅苦しい学園に似つかわしくない日程だった。その上系列の女学園と日程を合わせていて、パーク内が擬似お見合い会場となるのが恒例となっているそうだ。互いに家柄諸々に見合った相手を、実際会話をして見つけていく。実にくだらない、代々行われている由緒正しき行事だ。
大翔も佳奈多と旅行の準備をして、とても楽しみだった。修学旅行が終わればそれぞれ今まで以上に受験に追われる。
昔から宿泊行事が好きだった。帰宅するために別れることなく、1日中佳奈多と一緒にいられる。今はもう二人で暮らしているのに、幼い頃から染み付いてしまっている。
「ひろくん、楽しそう」
「うん。めちゃくちゃ楽しみ。泊まりの行事、すげぇ好き」
「そ、か。小学生の時も、言ってた…旅行、好きなんだ」
「旅行自体はそんなに。母さんと出かけたくらいで、旅行は学校行事以外で行かないし」
母に連れられていったので場所は定かではないが、幼稚園の長期休みには日帰りで遠出してくれていた。貧しい生活の中での母の精一杯だったのだと思う。学校以外での旅行の記憶といえばその程度しかない。
佳奈多は目を丸くしていた。
「旅行…お母さんと、だけ?」
「うん。父親は別に家族がいるんだし。向こうは海外とか行ってるんじゃないかな。あの松本家だし」
この辺りでは有名な名家だ。体裁もあるだろう。特に本妻と兄は派手好きの浪費家らしい。それは豪華な旅を楽しんでいるはずだ。
佳奈多は少し黙って何か考えているようだった。テーマパークの地図を眺めながら懸命に言葉を探している。もくもくと、佳奈多が咀嚼するように口を動かす時は、どう話したらいいか頭の中で整理している時だ。大翔はじっと佳奈多の言葉を待った。
「あ、あの…僕、何回か、ここ、行ったことある。お母さんが、好きだったから。いっぱい、遊ぼ、ひろくん。僕、案内できると思う」
「うん。いっぱい、遊ぼう。ジェットコースターとか。乗る?」
「う!それは、僕、怖いの乗れないから…ひろくん、一人で行ってきて」
「え~、一人で乗るのやだなぁ。怖くないの、一緒に乗ろ。どれが怖くない?」
「あ、えっとね、これと、これと…これね、楽しいよ。僕、好き」
佳奈多は地図を指さしながら楽しそうに笑う。きっと佳奈多が母親と共に行った時の、楽しかった思い出も上乗せされているんだろう。楽しそうな佳奈多を見ていると、大翔まで楽しくなってくる。心が温かい何かで満たされる。大翔はずっと、楽しげな佳奈多を見つめていた。
「し、してないよ!…ひろくんの、学校のこととか…また、テスト、一番だったよ、って。あと、僕のことも、ちょっとお話し、してる」
「そうなの?なに、どんなこと?」
「…ひろくんに勉強教えてもらって、成績上がったよって…あとは、秘密。ひろくんのお母さん、お地蔵様じゃないよ。知ってるよ」
佳奈多は少しむくれて下を向いた。さっきからかったことを、根に持ってしまったようだ。可愛い反応に、大翔の顔が綻ぶ。
「怒んないでよ。気になるから、教えて?」
「やだ。ひみつ。ないしょ」
ぷいっと佳奈多はそっぽを向いてしまった。大翔は思わず吹き出してしまう。こんな時の佳奈多は、中々機嫌を直してくれない。最近の佳奈多は素直に感情を表現してくれる。そんな姿を益々愛おしく感じる。
本当は、佳奈多は母に何を話していたのだろう。
それからまた花火大会を佳奈多と眺める。今年は床にクッションをひいて佳奈多を膝に乗せて見えた。佳奈多は背中大翔に預けてゆったりと花火に見入っている。以前は膝に乗せると体を固くしていた。佳奈多は益々、大翔に体も心も許してくれている。
夏休みがあけて試験が終わると、周りはひどく浮かれていた。修学旅行が待っている。この学園の生徒としての旅行の行事はこれが最後になる。最後ということもあり、行き先はテーマパークのホテルに3泊という、堅苦しい学園に似つかわしくない日程だった。その上系列の女学園と日程を合わせていて、パーク内が擬似お見合い会場となるのが恒例となっているそうだ。互いに家柄諸々に見合った相手を、実際会話をして見つけていく。実にくだらない、代々行われている由緒正しき行事だ。
大翔も佳奈多と旅行の準備をして、とても楽しみだった。修学旅行が終わればそれぞれ今まで以上に受験に追われる。
昔から宿泊行事が好きだった。帰宅するために別れることなく、1日中佳奈多と一緒にいられる。今はもう二人で暮らしているのに、幼い頃から染み付いてしまっている。
「ひろくん、楽しそう」
「うん。めちゃくちゃ楽しみ。泊まりの行事、すげぇ好き」
「そ、か。小学生の時も、言ってた…旅行、好きなんだ」
「旅行自体はそんなに。母さんと出かけたくらいで、旅行は学校行事以外で行かないし」
母に連れられていったので場所は定かではないが、幼稚園の長期休みには日帰りで遠出してくれていた。貧しい生活の中での母の精一杯だったのだと思う。学校以外での旅行の記憶といえばその程度しかない。
佳奈多は目を丸くしていた。
「旅行…お母さんと、だけ?」
「うん。父親は別に家族がいるんだし。向こうは海外とか行ってるんじゃないかな。あの松本家だし」
この辺りでは有名な名家だ。体裁もあるだろう。特に本妻と兄は派手好きの浪費家らしい。それは豪華な旅を楽しんでいるはずだ。
佳奈多は少し黙って何か考えているようだった。テーマパークの地図を眺めながら懸命に言葉を探している。もくもくと、佳奈多が咀嚼するように口を動かす時は、どう話したらいいか頭の中で整理している時だ。大翔はじっと佳奈多の言葉を待った。
「あ、あの…僕、何回か、ここ、行ったことある。お母さんが、好きだったから。いっぱい、遊ぼ、ひろくん。僕、案内できると思う」
「うん。いっぱい、遊ぼう。ジェットコースターとか。乗る?」
「う!それは、僕、怖いの乗れないから…ひろくん、一人で行ってきて」
「え~、一人で乗るのやだなぁ。怖くないの、一緒に乗ろ。どれが怖くない?」
「あ、えっとね、これと、これと…これね、楽しいよ。僕、好き」
佳奈多は地図を指さしながら楽しそうに笑う。きっと佳奈多が母親と共に行った時の、楽しかった思い出も上乗せされているんだろう。楽しそうな佳奈多を見ていると、大翔まで楽しくなってくる。心が温かい何かで満たされる。大翔はずっと、楽しげな佳奈多を見つめていた。
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