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佳奈多は何度も好きだと言ってくれた。嘘はない、気がする。約束通り、あれからあのアプリは入れていないようだ。他の男の存在がなければもう、それで良かった。
長い時間をかけて、佳奈多と一つになることもできた。何度も挑戦して佳奈多の体を気遣いながら、やっと一つになれた。それからは何度も何度も体を重ねた。幸せで、穏やかな日々が続いた。
ずっと、続いていくと思っていた。
夏休みも中盤に入り、お盆が近づいてきた。
「かなちゃん、お願いがあるんだけど…」
暑いさなか、屋外に佳奈多を連れ出したくはないが、どうしても行きたい場所が大翔にはあった。母の墓参りだ。
以前は一人、月命日に訪れていたが、高校に入ってからはしばらく行けていない。
「ぼく、行っていいの…?」
他人なのに、と不安気な佳奈多に、どうしても佳奈多に来てほしいと頼み込んだ。今の佳奈多は今まで以上に大切な存在で、大翔にとって、決して他人ではない。
頷いてくれた佳奈多に、早速日にちを決めた。同じ市内だが数駅離れた場所に母の墓はある。気温を考慮して朝早くに出発することにした。
佳奈多と手を繋いで、母の墓までの道を歩く。
「ありがとう、かなちゃん。母さん、喜ぶと思う」
幼い頃、母は佳奈多をとても可愛がっていた。自分と比べて儚げで大人しい佳奈多を「見習え」とよく言っていた。
佳奈多が今、大翔の恋人となり自分以上に大切な人になった。きっと母は喜ぶだろう。自分にそんな相手ができたことも、その相手が佳奈多であることも。
墓を掃除して線香に火を灯し、手を合わせる。立派な墓は手入れが行き届いている。
「す、すごいね、大きな、お墓」
「…父親が、建てたから」
母は両親とは疎遠で、だから自分も行き場に迷いかけていた。この墓は大翔の父が建てたものだ。墓自体も規模も立地もかなり立派な作りになっている。せめてもの償いの意味もあるのかもしれない。
佳奈多は再び手を合わせる。目を閉じて、長く沈黙を貫く佳奈多に大翔は声をかけた。
「そんなに長く、何話してるの?」
「ひろくんがね、が、学校で、すごく勉強できますって、お話してた。国語も、英語も、数学も、科学も物理も、できます。あと、運動もできて、体育祭で、リレーで1位だったことと、あと、みんなにモテモテで」
「山田の話?やめてよ、母さんに何話してるの」
「うっ!?ち、ちがうよ、みんな、みんなひろくんのこと、好きだよ」
慌てる佳奈多に大翔は声を上げて笑った。いつも一人で墓参りに来ていた大翔のこんな表情を、母は見たことがないだろう。佳奈多に来てもらって良かったと大翔は思う。佳奈多の耳元に口を寄せる。
「恋人になってくれたことは?」
佳奈多は、母に言ってくれただろうか。佳奈多は少し目を伏せて、すぐに答えてくれた。
「うん。お話し、した。…ごめんなさい、した。僕、女の子じゃないから」
同性同士であることを、佳奈多は気にしていたようだ。逆に言えば、佳奈多の気にかかる部分はそれだけで、母に対してはきちんと恋人であると報告してくれていたらしい。
今すぐ抱きしめたい気持ちに駆られる。しかし、周りには何人かの参拝客がいる。大翔の顔が熱くなったのは、夏の太陽のせいじゃない。顔が綻んでしまうのを我慢するのに必死だった。
「気に、しなくて、いいよ。男同士とかそんなこと、気にする人じゃないよ」
「…うん」
「良かった。かなちゃんが来てくれて…たぶん、母さんも安心してると思う」
「もっと、はやく、来れば良かった。ひろくんの、お母さんのところ」
大翔は佳奈多の手を握った。佳奈多も強く、大翔の手を握り返した。
夏休みの終盤。毎年恒例の花火大会が開催された。数日前から佳奈多はソワソワと落ち着かなかった。そんなに楽しみかと思ったら違っていた。
「花火、嫌い…怖いから」
長い時間をかけて、佳奈多と一つになることもできた。何度も挑戦して佳奈多の体を気遣いながら、やっと一つになれた。それからは何度も何度も体を重ねた。幸せで、穏やかな日々が続いた。
ずっと、続いていくと思っていた。
夏休みも中盤に入り、お盆が近づいてきた。
「かなちゃん、お願いがあるんだけど…」
暑いさなか、屋外に佳奈多を連れ出したくはないが、どうしても行きたい場所が大翔にはあった。母の墓参りだ。
以前は一人、月命日に訪れていたが、高校に入ってからはしばらく行けていない。
「ぼく、行っていいの…?」
他人なのに、と不安気な佳奈多に、どうしても佳奈多に来てほしいと頼み込んだ。今の佳奈多は今まで以上に大切な存在で、大翔にとって、決して他人ではない。
頷いてくれた佳奈多に、早速日にちを決めた。同じ市内だが数駅離れた場所に母の墓はある。気温を考慮して朝早くに出発することにした。
佳奈多と手を繋いで、母の墓までの道を歩く。
「ありがとう、かなちゃん。母さん、喜ぶと思う」
幼い頃、母は佳奈多をとても可愛がっていた。自分と比べて儚げで大人しい佳奈多を「見習え」とよく言っていた。
佳奈多が今、大翔の恋人となり自分以上に大切な人になった。きっと母は喜ぶだろう。自分にそんな相手ができたことも、その相手が佳奈多であることも。
墓を掃除して線香に火を灯し、手を合わせる。立派な墓は手入れが行き届いている。
「す、すごいね、大きな、お墓」
「…父親が、建てたから」
母は両親とは疎遠で、だから自分も行き場に迷いかけていた。この墓は大翔の父が建てたものだ。墓自体も規模も立地もかなり立派な作りになっている。せめてもの償いの意味もあるのかもしれない。
佳奈多は再び手を合わせる。目を閉じて、長く沈黙を貫く佳奈多に大翔は声をかけた。
「そんなに長く、何話してるの?」
「ひろくんがね、が、学校で、すごく勉強できますって、お話してた。国語も、英語も、数学も、科学も物理も、できます。あと、運動もできて、体育祭で、リレーで1位だったことと、あと、みんなにモテモテで」
「山田の話?やめてよ、母さんに何話してるの」
「うっ!?ち、ちがうよ、みんな、みんなひろくんのこと、好きだよ」
慌てる佳奈多に大翔は声を上げて笑った。いつも一人で墓参りに来ていた大翔のこんな表情を、母は見たことがないだろう。佳奈多に来てもらって良かったと大翔は思う。佳奈多の耳元に口を寄せる。
「恋人になってくれたことは?」
佳奈多は、母に言ってくれただろうか。佳奈多は少し目を伏せて、すぐに答えてくれた。
「うん。お話し、した。…ごめんなさい、した。僕、女の子じゃないから」
同性同士であることを、佳奈多は気にしていたようだ。逆に言えば、佳奈多の気にかかる部分はそれだけで、母に対してはきちんと恋人であると報告してくれていたらしい。
今すぐ抱きしめたい気持ちに駆られる。しかし、周りには何人かの参拝客がいる。大翔の顔が熱くなったのは、夏の太陽のせいじゃない。顔が綻んでしまうのを我慢するのに必死だった。
「気に、しなくて、いいよ。男同士とかそんなこと、気にする人じゃないよ」
「…うん」
「良かった。かなちゃんが来てくれて…たぶん、母さんも安心してると思う」
「もっと、はやく、来れば良かった。ひろくんの、お母さんのところ」
大翔は佳奈多の手を握った。佳奈多も強く、大翔の手を握り返した。
夏休みの終盤。毎年恒例の花火大会が開催された。数日前から佳奈多はソワソワと落ち着かなかった。そんなに楽しみかと思ったら違っていた。
「花火、嫌い…怖いから」
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