黒い春 本編完結 (BL)

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大翔が髪を掴んだ頭を振って念を押して尋ねる。山田は痛いのか怖いのか、目を剥いた青い顔のまま大翔を見て答えない。山田の取り巻きが大翔に駆け寄ってきた。
「手を、離せ!」
「ヤマちゃんに…調子に乗るなよ、松本!」
口々に文句を言う男子生徒に、佳奈多が怯えて大翔の背中にしがみついた。佳奈多が怖がっている。
大翔は山田を投げ捨てた。
「返すよ。もういらない。それとな、山田。俺を下の名前で呼ぶな。気持ち悪い」
大翔は山田を説得した。いい加減、納得して欲しい。取り巻きは山田を抱え起こし、我先にと姫の心配を並べたててご機嫌取りをしている。当の山田は青い顔のまま固まっていた。取り巻きのうちの一人が立ち上がったので、大翔は佳奈多を背中に隠す。
「ふざけるなよ、松本!調子に乗」
人払いをしてくれたお陰で、教室には誰もいない。好都合だった。
机の間を縫って、取り巻きのうちの一人が真っ直ぐ殴りかかってきた。脇腹に一発拳を入れる。男は濁った声を上げて倒れた。
「て、てめぇ、ふざけっ」
もう一人が立ち上がって向かってきたのでみぞおちに蹴りを入れた。そいつも唸り声を上げて倒れ込む。残りは山田と取り巻きが一人だ。
近寄ろうとして、腹に何かが巻き付いて止められた。佳奈多がしがみついていた。
「ひろ、ひろく、…」
佳奈多の顔を見て、大翔は体から力を抜いた。佳奈多が怯えている。佳奈多は暴力行為にひどく怯えてしまう。良くないものを見せてしまった。
「ごめん、かなちゃん。怖かったね」
「いやーっ!」
佳奈多の頭を撫でると、金切り声が上がった。山田の声だった。
「そいつ、そいつばっかり!どうして、私のことっ…あぁぁああ!」
山田の傍にいる取り巻きは青い顔で震えている。戦意喪失している男に油断した。まさか山田自身がが飛びかかってくるとは思わなかった。山田は大翔を越えて佳奈多を押し倒した。
「お前、お前がいるから!大翔様っ私を、見てくれなっ…俺の、俺のものだ!大翔様は、俺のぉおおっ!」
おぞましい言葉を吐く山田は佳奈多に覆いかぶさって叫んでいる。大翔は山田の襟を掴んで引き上げた。大翔は山田を床に叩きつけようとしたが、佳奈多が山田に抱きついてそれを阻んだ。
佳奈多は山田ともつれるように机の隙間に倒れ込む。
「かなちゃん!」
大翔は慌てて佳奈多を引き上げた。佳奈多に怪我はないか。焦る大翔に佳奈多は抱きついてきた。
「だ、大丈夫、ひろくん、僕、大丈夫、だから」
佳奈多は言いながら大翔を押した。自然と山田達と距離が開く。山田はゆっくりと体を起こした。
「か、かえろ?ひろくん、ぼく、お家…かえって、せっくす、しよ?…ひろくん、僕の、ぼくのだから、もう、ち、近づかないで」
佳奈多は山田に向き合い、必死に訴えている。立ち上がろうとしていた山田は呆然と佳奈多を見た。
「はやく、かえろ、ひろくん、はやく…はやく、せっくす、したい、から」
佳奈多は大翔に甘えるようにしがみついた。山田はぺたりと床に座り込んでしまった。もう、向かってくることはないだろう。甘えて可愛いことを言う佳奈多に、大翔も戦意をすっかり喪失していた。
「うん。帰ろうね、かなちゃん」
佳奈多を抱き上げて、佳奈多の頭に顔を擦り付ける。佳奈多の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、大翔は家路を急いだ。



それから間もなく試験があり、夏休みに入った。空手の道場に行くくらいしか予定のない大翔は常に佳奈多と一緒だった。佳奈多はいつも傍にいてくれた。一緒に勉強をしたり、何をするでもなくただ、くっついていたり。無視をしたり挑発をしたりする行為はすっかりなくなった。
用もなく一緒に出かけたり、一緒に風呂に入ったり、二人で映画を見たり。
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