黒い春 本編完結 (BL)

Oj

文字の大きさ
上 下
61 / 152

60

しおりを挟む
甘えてくれる佳奈多に問う。
「かなちゃん…俺達、付き合ってるってことで、いいんだよね?」
「違う、の?」
佳奈多は俯いて、問うてきた。たまらなくなって抱きしめたら、佳奈多は胸に顔を頭を擦りつけてくれた。愛くるしい仕草に大翔は佳奈多の髪を梳いた。



佳奈多が好きだと言ってくれた。抱かせてくれると言っていた。今は嘘でもいい。佳奈多が心から愛してくれるよう、大翔はなんでもしよう。もう二度と、別の男を求めないよう。佳奈多にとって不足のない人間になれるように。
見知らぬ男と連絡を取っていた姿を見る前までの、あの熱い気持ちが、大翔の中で強く燃え上がった。



「お前はもう、いい。離れろ」
真横に立つ山田を振り払う。佳奈多と付き合うことになってからやってきた月曜日。最寄り駅から大翔と佳奈多を見つけて山田は駆け寄ってきた。
佳奈多との約束通り、大翔は山田を切ることにした。山田は目を見開いて大翔を見た。
「大翔、様?」
大翔は佳奈多に腕を引かれた。佳奈多が見ている手前、あまり無碍にするのも良くないだろう。大翔は思い直して立ち止まり、山田に笑顔を向ける。
「今まで、ありがとう。もう傍にいなくていい。さようなら。行こう、かなちゃん」
大翔は佳奈多を促して歩きだす。山田は慌てて大翔にすがりついた。
「待っ…大翔様!どうして、そんな…なにか、私に何か、落ち度が、ひろ」
「ないよ。今までありがとう」
「大翔様、お願いです、お話を…大翔様ぁあ!」
大翔は貼り付けた笑顔のまま、再度礼を告げる。これでもう、山田との関係は終わりだ。しかし山田は大翔の隣にはりついて、まだ騒いでいた。大翔は腕にはりつく山田を無視して歩く。隣の佳奈多は俯いて、怯えているように見えた。
「かなちゃん、大丈夫?どうしたの?」
「う、…あぅ…、」 
佳奈多は何度も口の中で声を出していたが、最後は首を横に振った。



敵を増やしてしまうかもしれないという懸念はあったが、大翔は構わなかった。もう姫の存在はいらない。大翔が矢面に立てばいい。
佳奈多のことは大翔がずっと張り付いて見守ってあげれば良い。そうすればきっと、本当に大翔を好きになってくれる。



その日は山田を無視しつづけた。山田は何度も大翔にすがりついて騒いでいた。山田抜きでの、佳奈多と二人の時間を楽しみたかったのに。
佳奈多が好きだと言ってくれてからの連休はとても幸せだった。特に予定もないので自宅で二人、勉強をしたり佳奈多の好きなゲームをしたりして過ごす。佳奈多はずっと大翔から離れず、ずっと一緒にいてくれた。佳奈多の方からぴったりとくっついてくれていて、本当に可愛かった。例え嘘でも構わない。今もずっと、くっついていたい。早く二人きりになりたい。
それなのに、行く先々に現れては騒ぐ山田に邪魔された。大翔は山田を、引き際を弁えている人間だと思っていた。まさかここまでしつこく粘着してくるとは思わなかった。無視し続ける大翔に代わり、佳奈多が不安気に山田を気にしている。それも大翔には気に入らない。
どうやって打ちのめしてやるかと考えていたら放課後の教室に、山田は取り巻きを三人引き連れて大翔と佳奈多の前にやってきた。山田は泣いていた。まだ残った生徒は興味津々といった表情で見ていたが、取り巻きが追い出した。教室の中には佳奈多と大翔と、山田と取り巻きしかいなくなった。
「大翔様、お話を…納得できません。今まで、あんなに、尽くしてきたのに…好きなんです、大翔様、無視されたら、苦しいです………まさか、お前が…」
大翔は無視していたが、言葉を切った山田が気になった。横目に見ると山田は佳奈多を睨みつけていた。佳奈多に向けられた悪意に、大翔は大股で歩み寄って山田の髪を掴む。
「っひ!」
「なんだ、その顔は。言ったよな?彼のことは、俺以上に、丁重に扱えって」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

処理中です...