黒い春 本編完結 (BL)

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「嫌いなわけ、ないだろ!」
大翔がどれだけ佳奈多が好きか。いっそ、嫌いになれたらどれだけ楽か。
「好きだよ、かなちゃんが。ずっと、苦しくて、しんどいよ。好きで、好きで、苦しいよ」
大翔は本音を吐露した。佳奈多がずっと好きで、今も好きで、苦しい。ここまで心をかき乱されて、それでも腕の中の体温に安堵している。
体を許してくれても、心が手に入らなければ意味がない。どうして大翔と寝たのか、わからない。佳奈多が大翔を好きだということが、信じられない。
佳奈多は大翔の胸を叩いて叫んだ。
「っう、うそ、ひろくん、うそつ、き、うそ、つき!やまだ、く、なかよく、してる、うそ、つき、ひ、ぉ、くっ…」
叫びながら、何度も大翔の胸を叩いた。山田、と言われて、大翔はなんのことかわからなかった。記憶を辿って思い出した。学校で今一緒にいる、姫扱いを受けていた男子生徒の名前だ。
「すき、すきに、なるから、…せっくす、するから、山田く、仲良し、やめ、て、せ、…せっくす、する、からぁ」
佳奈多は泣きながら訴えている。大翔は言葉が出なかった。佳奈多が、あの男子生徒、山田に嫉妬したようだ。その結果が昨夜の行為につながったらしい。
佳奈多が好きになってくれるらしい。しかも、抱かせてくれるらしい。どこまでが本当なのか。
もうどっちでも良い気がした。
佳奈多が嫉妬してくれていた。昨日、大翔が取り出した避妊具を見て佳奈多は目をそらして震えていた。コンビニでのあの出来事が、佳奈多の中で今もトラウマになっている。それでも本当に懸命に、体を開こうをしてくれた。それは紛れもない事実だ。
佳奈多を改めて優しく抱きしめる。
「…かなちゃん、それ、本当?」
佳奈多は何度も首を縦に振った。きっと今、ひどい顔をしている。とても佳奈多には見せられない。大翔は佳奈多に見えないように笑った。
「わかった。もう、あいつ…山田は切るよ。服、持ってくるから。裸で、うろうろしちゃだめだよ」
佳奈多の頭をゆっくり撫でる。佳奈多は泣きながら頷いた。
大翔が服を取りに行こうと立ち上がると、佳奈多が大翔の服を掴む。佳奈多の怯えた顔が大翔を見上げていた。
「い、…行かな、で、」
「大丈夫だよ、服を、取りに行くだけだから。だめだよ、かなちゃん。そんな格好で、俺の前に来ちゃ…」
佳奈多は両手を太ももに突っ込んで隠した。中途半端に隠れたほうがより扇情的に見える。大翔は直視できず、佳奈多の服を取りに部屋を出た。


服を着た佳奈多と朝食を取る。土日なので学校がない。自宅で、佳奈多はずっと傍にいてくれた。ぴったりとくっついて寄り添ってくれる。
そんな中、佳奈多はスマホを差し出してくれた。
「あの、アプリ、消した、から…」
目の前でスマホを操作して、ひとつひとつ画面を見せてくれる。確かにあのアプリはもうないようだ。他のアプリも、不審なものはないように見える。
「い、いつでも、見て。ほんとに、ひろくんと、……う、ぅ……方法、を、調べてた、だけ」
伺うように見上げてくる佳奈多をじっと見つめる。怯える瞳に嘘はないように思う。本当は佳奈多のスマホを全て、余す所なく中を見たい。佳奈多の全てを知りたい。自分以外の、佳奈多の関心を引く人物がいないか。調べ尽くしたいし、いるなら存在を消去したい。
でもそんなことをしたら、佳奈多に嫌われてしまうかもしれない。そこまでがっついている姿を見せたら怯えさせてしまうかもしれない。もしも大翔から離れたい一心で、また別の男に縋られたら。大翔はもう正気を保っていられない。
「かなちゃんのこと、信じる。できればもう…ああいうアプリは、入れないで欲しい」
佳奈多は目に涙を溜めて、何度も頷いた。
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