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「松本君、おはよぉ~」
学校につくやいなや、校内で姫と呼ばれる男子生徒が絡みついてきた。こんな生徒が数名いる。佳奈多とは逆側、鞄を持つ腕を掴まれて不快極まりない。
高等部に進学してからこういう輩が増えた。外部進学で今までを知らない者も、今までは遠巻きに見ていた者も。我先に大翔の元に集まってくる。名前すら知らない彼は猫なで声を上げた。
「一緒に、教室行こう?」
いつもなら振り払うその手を、その日は振り払わなかった。
「いいよ」
少し笑いかけてやると、姫は頬を染めて笑った。作り込んだ愛らしい笑顔に、大翔は吐き気を催した。
(下らない)
今までは松本頭取の息子として注目されることのほうが多かった。好意を隠しきれない視線も感じていたが、今ほどではなかった。
高等部に入ってから空気が変わった。好意を隠さない人間が増えた。外部進学の姫は周りの視線はお構い無しで、遠巻きにしていた姫達も直接接触してくるようになった。
大翔への好意が増えるほど、佳奈多への敵意も増えた。大翔のお気に入りの佳奈多が、彼らは気に入らない。直接攻撃する者はいないが、陰口はたくさん叩かれている。それは大翔の耳にも入っている。一人一人殴りつけたくなるが、佳奈多はいつも大翔を止めた。聞こえなかったふりをしたり、大翔をからかったりして、下衆共から大翔の気をそらす。
優しい佳奈多は人が傷つくよりも自分が傷つくことを選ぶ。佳奈多は優しい、とても優しい人間だ。だからこそ大翔が守ってあげなければいけなかった。
でも少し、自信がなくなった。守ってあげたくて大好きなのに、昨日の嘘が尾を引いている。
『ひろくんとする』
あんなに青くなって震えて、佳奈多は大翔に嘘をついた。
抱かれる気なんてないくせに。
別の男と連絡を取ったこと、嘘をついて誤魔化そうとしていたこと。
守ってあげたい。守ってあげなければならない。実父に傷つけられた佳奈多にあの日誓った。心から佳奈多が好きで、愛しているから。
しかし、大翔は佳奈多にとって不足しているのだと知った。大翔だけじゃ足りない。佳奈多は大翔以外の男に興味を持った。大翔のことは好きじゃない。愛していない。そんな大翔に、佳奈多を守りきれない。大翔一人だけで、佳奈多の不安を打ち消してあげることはできない。
本当はやりたくなかったけれど、姫達のうち一人を囲い込んで矢面に立たせることにした。
大翔は、佳奈多以外の誰かをそばに置くことはしたくなかった。佳奈多以外はいらない。でも、佳奈多は恋人にはならない。佳奈多は大翔を愛していない。それでも守ってあげなければならない。守ってあげたい。
でも、佳奈多の希望に沿うような男は傍に置きたくない。この愛らしく見える姫たちはちょうどいい。
教室に向かう間、姫は楽しそうに何かを喋っている。佳奈多はそっと大翔の背後に周って握っていた手を緩めて離そうとした。大翔は佳奈多の手を強く握りしめる。佳奈多の戸惑いを感じたが、大翔は離さなかった。だって大翔は佳奈多が大好きだから。手を離すことができなかった。
それから姫と過ごす時間を増やした。佳奈多と3人で過ごすことが増えた。佳奈多に対して攻撃的な態度を取る姫は即座に切った。きちんと弁えて行動できる姫を一人、そばに置いた。佳奈多を無駄に攻撃せず、きちんと察して離れるときは大翔と佳奈多から離れていく。その姫の信者から大翔自身に敵意が向いたが構わなかった。佳奈多が無事ならそれでいい。他の姫たちからの敵意は全て今の姫が引き受ける。佳奈多の身は守られる。ちょうどいい身代わりができた。
学校につくやいなや、校内で姫と呼ばれる男子生徒が絡みついてきた。こんな生徒が数名いる。佳奈多とは逆側、鞄を持つ腕を掴まれて不快極まりない。
高等部に進学してからこういう輩が増えた。外部進学で今までを知らない者も、今までは遠巻きに見ていた者も。我先に大翔の元に集まってくる。名前すら知らない彼は猫なで声を上げた。
「一緒に、教室行こう?」
いつもなら振り払うその手を、その日は振り払わなかった。
「いいよ」
少し笑いかけてやると、姫は頬を染めて笑った。作り込んだ愛らしい笑顔に、大翔は吐き気を催した。
(下らない)
今までは松本頭取の息子として注目されることのほうが多かった。好意を隠しきれない視線も感じていたが、今ほどではなかった。
高等部に入ってから空気が変わった。好意を隠さない人間が増えた。外部進学の姫は周りの視線はお構い無しで、遠巻きにしていた姫達も直接接触してくるようになった。
大翔への好意が増えるほど、佳奈多への敵意も増えた。大翔のお気に入りの佳奈多が、彼らは気に入らない。直接攻撃する者はいないが、陰口はたくさん叩かれている。それは大翔の耳にも入っている。一人一人殴りつけたくなるが、佳奈多はいつも大翔を止めた。聞こえなかったふりをしたり、大翔をからかったりして、下衆共から大翔の気をそらす。
優しい佳奈多は人が傷つくよりも自分が傷つくことを選ぶ。佳奈多は優しい、とても優しい人間だ。だからこそ大翔が守ってあげなければいけなかった。
でも少し、自信がなくなった。守ってあげたくて大好きなのに、昨日の嘘が尾を引いている。
『ひろくんとする』
あんなに青くなって震えて、佳奈多は大翔に嘘をついた。
抱かれる気なんてないくせに。
別の男と連絡を取ったこと、嘘をついて誤魔化そうとしていたこと。
守ってあげたい。守ってあげなければならない。実父に傷つけられた佳奈多にあの日誓った。心から佳奈多が好きで、愛しているから。
しかし、大翔は佳奈多にとって不足しているのだと知った。大翔だけじゃ足りない。佳奈多は大翔以外の男に興味を持った。大翔のことは好きじゃない。愛していない。そんな大翔に、佳奈多を守りきれない。大翔一人だけで、佳奈多の不安を打ち消してあげることはできない。
本当はやりたくなかったけれど、姫達のうち一人を囲い込んで矢面に立たせることにした。
大翔は、佳奈多以外の誰かをそばに置くことはしたくなかった。佳奈多以外はいらない。でも、佳奈多は恋人にはならない。佳奈多は大翔を愛していない。それでも守ってあげなければならない。守ってあげたい。
でも、佳奈多の希望に沿うような男は傍に置きたくない。この愛らしく見える姫たちはちょうどいい。
教室に向かう間、姫は楽しそうに何かを喋っている。佳奈多はそっと大翔の背後に周って握っていた手を緩めて離そうとした。大翔は佳奈多の手を強く握りしめる。佳奈多の戸惑いを感じたが、大翔は離さなかった。だって大翔は佳奈多が大好きだから。手を離すことができなかった。
それから姫と過ごす時間を増やした。佳奈多と3人で過ごすことが増えた。佳奈多に対して攻撃的な態度を取る姫は即座に切った。きちんと弁えて行動できる姫を一人、そばに置いた。佳奈多を無駄に攻撃せず、きちんと察して離れるときは大翔と佳奈多から離れていく。その姫の信者から大翔自身に敵意が向いたが構わなかった。佳奈多が無事ならそれでいい。他の姫たちからの敵意は全て今の姫が引き受ける。佳奈多の身は守られる。ちょうどいい身代わりができた。
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