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ここまで佳奈多を想ってきたのは、大翔が勝手にしたことだ。佳奈多を手放したくない気持ちはまだ強く残っている。大翔は佳奈多から離れたくなかった。離れられない。守ると誓った。盾になろうと思っていた。でも、大翔じゃ足りなかった。佳奈多を守る盾として、不十分だった。
背後で鼻をすする音がする。たぶん佳奈多が泣いている。いつもなら、佳奈多を抱きしめて背中をさすって『大丈夫だよ』と声を掛けていた。その日大翔は背中を向けたまま、振り返ることができなかった。
結局大翔はあまり眠れなかった。佳奈多も同じだったようで、あまり顔色が良くない。起き上がった大翔を、佳奈多が青い顔で見上げてきた。
「…かなちゃん、洗面台、先に使うね」
「ひ、ひろく」
佳奈多が大翔を呼ぶ。大翔は聞こえなかったふりをして洗面台に向かった。顔を洗って身支度を整えてキッチンに行く。佳奈多はまだ寝室にいるようだ。大翔は朝食を準備して一人、食事を済ませた。まだ時間に余裕はあるものの、佳奈多が寝室から出てくる気配がない。大翔は寝室の扉を開ける。佳奈多はベッドに座り込んでいた。
「かなちゃん。そろそろ、時間」
佳奈多は頷いてベッドを降りた。佳奈多が洗面台に向かうのを見送って、大翔は制服に着替えてリビングに戻る。いつもなら一緒に身支度をして一緒に朝食を食べて、短い時間でも佳奈多のそばから離れない。この日はなぜか体が動かなかった。ソファに腰掛けて、ぼんやりと時間が過ぎるのを待つ。
しばらくして、扉が開いた。佳奈多がリビングに入ってきた気配がした。キッチンとダイニングに背を向ける形で配置されたソファに座っている大翔から佳奈多の姿は見えない。いつもは朝食も大翔が準備するが、今日は佳奈多の分は用意していない。
佳奈多の足音が止まっている。どうしたらいいのかわからないんだろう。声をかけてあげなきゃいけないのに、大翔は動けない。頭がぼんやりとして、ソファに座ったまま。佳奈多を振り返ることはなかった。時間を置いて、佳奈多が動き出す気配がした。カサカサとなにか取り出す音のあと、リビングの椅子を引く音。たぶん食パンを出して食べているのだろう。姿は見られないのに、音と気配で何をしているのか察している自分に大翔は笑った。こんなに気にしているのに、佳奈多の一番になれなかった。大翔に足りない部分があった。逆に、過剰すぎたのかもしれない。こんな人間が、佳奈多をちゃんと守れるのか。
(駄目だ。俺じゃ、駄目なんだ)
佳奈多を守って傍にいたい。でも佳奈多が求めているのは自分じゃない。
佳奈多は食事を終えたのか、リビングから出ていった。大翔は再び、ぼんやりと時計を眺める。まだ登校には間に合う時間だ。佳奈多がリビングに戻ってきた。ソファまでやってきた佳奈多は制服を着ている。
「行こうか。玄関で待ってて。鞄、持ってくる」
大翔は佳奈多の顔を見ず、鞄を取りに行った。鞄を持って玄関に行くと佳奈多は靴を履いて待っていた。大翔も靴を履き、玄関を出る。鍵をかけて歩き出すと、左腕を引かれた。佳奈多が大翔の制服の袖を掴んでいた。大翔はいつも佳奈多と手を繋いで行動している。大翔は佳奈多の手を外して握り直した。佳奈多の体温が左手から伝わってくる。慣れた温度に胸がジンとした。佳奈多は別の男を求めているのだと知ってとても苦しいのに、佳奈多の体温に安堵している自分がいる。
(かなちゃんが、好きだ)
大翔は佳奈多のことが好きで好きで仕様がない。大翔は佳奈多の手を強く握った。
背後で鼻をすする音がする。たぶん佳奈多が泣いている。いつもなら、佳奈多を抱きしめて背中をさすって『大丈夫だよ』と声を掛けていた。その日大翔は背中を向けたまま、振り返ることができなかった。
結局大翔はあまり眠れなかった。佳奈多も同じだったようで、あまり顔色が良くない。起き上がった大翔を、佳奈多が青い顔で見上げてきた。
「…かなちゃん、洗面台、先に使うね」
「ひ、ひろく」
佳奈多が大翔を呼ぶ。大翔は聞こえなかったふりをして洗面台に向かった。顔を洗って身支度を整えてキッチンに行く。佳奈多はまだ寝室にいるようだ。大翔は朝食を準備して一人、食事を済ませた。まだ時間に余裕はあるものの、佳奈多が寝室から出てくる気配がない。大翔は寝室の扉を開ける。佳奈多はベッドに座り込んでいた。
「かなちゃん。そろそろ、時間」
佳奈多は頷いてベッドを降りた。佳奈多が洗面台に向かうのを見送って、大翔は制服に着替えてリビングに戻る。いつもなら一緒に身支度をして一緒に朝食を食べて、短い時間でも佳奈多のそばから離れない。この日はなぜか体が動かなかった。ソファに腰掛けて、ぼんやりと時間が過ぎるのを待つ。
しばらくして、扉が開いた。佳奈多がリビングに入ってきた気配がした。キッチンとダイニングに背を向ける形で配置されたソファに座っている大翔から佳奈多の姿は見えない。いつもは朝食も大翔が準備するが、今日は佳奈多の分は用意していない。
佳奈多の足音が止まっている。どうしたらいいのかわからないんだろう。声をかけてあげなきゃいけないのに、大翔は動けない。頭がぼんやりとして、ソファに座ったまま。佳奈多を振り返ることはなかった。時間を置いて、佳奈多が動き出す気配がした。カサカサとなにか取り出す音のあと、リビングの椅子を引く音。たぶん食パンを出して食べているのだろう。姿は見られないのに、音と気配で何をしているのか察している自分に大翔は笑った。こんなに気にしているのに、佳奈多の一番になれなかった。大翔に足りない部分があった。逆に、過剰すぎたのかもしれない。こんな人間が、佳奈多をちゃんと守れるのか。
(駄目だ。俺じゃ、駄目なんだ)
佳奈多を守って傍にいたい。でも佳奈多が求めているのは自分じゃない。
佳奈多は食事を終えたのか、リビングから出ていった。大翔は再び、ぼんやりと時計を眺める。まだ登校には間に合う時間だ。佳奈多がリビングに戻ってきた。ソファまでやってきた佳奈多は制服を着ている。
「行こうか。玄関で待ってて。鞄、持ってくる」
大翔は佳奈多の顔を見ず、鞄を取りに行った。鞄を持って玄関に行くと佳奈多は靴を履いて待っていた。大翔も靴を履き、玄関を出る。鍵をかけて歩き出すと、左腕を引かれた。佳奈多が大翔の制服の袖を掴んでいた。大翔はいつも佳奈多と手を繋いで行動している。大翔は佳奈多の手を外して握り直した。佳奈多の体温が左手から伝わってくる。慣れた温度に胸がジンとした。佳奈多は別の男を求めているのだと知ってとても苦しいのに、佳奈多の体温に安堵している自分がいる。
(かなちゃんが、好きだ)
大翔は佳奈多のことが好きで好きで仕様がない。大翔は佳奈多の手を強く握った。
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