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本当はあの男と話してほしくなんかない。あの男と会話をする佳奈多を想像もしたくない。しかしコイビトでもない大翔に、他の男と話すなと強制する権利はない。佳奈多は大翔が好きじゃない。愛さない。
佳奈多は動かない。ぎゅっと体を固くしている。大翔は立ち上がった。
「外、行ってくる」
夜風に当たって頭を冷やそう。
もう今にも、大翔は怒りが爆発しそうだった。手当たり次第物を投げつけて殴りつけて破壊したい。しかし佳奈多に、そんな姿は見せられない。リビングの扉に向けて大翔は歩いた。
「ひ、ひろ、くん」
「だから。誰かと喋ってなよ。さっきのやつじゃなくても、探せばいいでしょ」
「ま、待って、待って、行かないで、ひろく、行かないで、違うから、違…」
大翔が振り返ると、佳奈多はソファの肘掛けを乗り越えようとしていた。片手を伸ばし、佳奈多はそのままソファの肘掛けから落ちた。ゴッと鈍い音がした。佳奈多が頭を床に打ち付けた音だった。大翔は思わず佳奈多にかけよる。
「かなちゃ…」
「ち、違う、ひろくん、違うから、違う」
佳奈多が大翔にしがみついた。なにが違うのかわからないが、佳奈多は泣きながら震えていた。大翔の胸に顔を埋めて、佳奈多は小さな声で言う。
「ひ、…し、調べてた、ひ、ひろくんと、す、…するの、ひろくんと、する、から、い、行かな、で」
佳奈多が何を言ったのか、一瞬理解できなかった。男同士の行為を、大翔とするために調べていたということだろうか。大翔は佳奈多を抱きしめた。
「そんな嘘、つかなくていいよ」
きっと一人が怖くて淋しくて、佳奈多はそんなことを言い出したのだろう。大翔の想いを知っているはずなのに、あまりに酷い嘘だ。怖がりで臆病な佳奈多は嘘をついてまで大翔を引き留めようとしている。
大翔は佳奈多の頭をなでた。
「寝室、行こう。一緒に」
佳奈多は震えて答えない。大翔は返事を待たずに佳奈多の体を抱き上げて寝室に向かった。佳奈多は大人しくされるがまま。寝室に入って佳奈多をベッドに下ろす。佳奈多は体を丸めて小さくなった。大翔は佳奈多の上に布団をかける。
「おやすみ、かなちゃん」
大翔も体を横たえて背中を向けた。
高等部に進学してから、佳奈多はわざと挑発するようなことを言うようになった。大翔は佳奈多なら、何をされても構わない。佳奈多なら許せる。むしろ心配の方が勝った。なぜそんな行動を取るのか。
『試し行動』なのだろうと思っていた。以前、本で読んだことがある。相手が離れていかないか、愛情を持って接してくれるか試している。いくらでも確かめたらいいと思っていた。佳奈多にならなにをされても構わない。ただ、試し行動に至ってしまう精神状態が心配だった。きっと、母親が消えたことと父親からの暴力に佳奈多の心が不安定になっているのだろう。どうにかしてあげたい。佳奈多か少しでも楽になれるなら、何をされてもいい。いくらでも大翔を使ってほしい。
ただ今回のことは、駄目だった。大翔の中で深い傷となった。
佳奈多が、別の男と。
考えただけで感情が爆発しそうになる。しかし、必死に嘘をつく佳奈多にすっと頭が冷えた。どんなにからかわれても気持ちが悪いと思われてもいい。でも、あんな嘘は、あんまりだ。
『ひろくんと、するから』
真っ青な顔で必死に訴える佳奈多を思い出して、大翔はふっと息を抜いて自嘲した。
あんなことを言わせた。大翔に何か足りない部分があった。佳奈多にあんな嘘をつかせた。
(だから、別の、男に)
佳奈多は動かない。ぎゅっと体を固くしている。大翔は立ち上がった。
「外、行ってくる」
夜風に当たって頭を冷やそう。
もう今にも、大翔は怒りが爆発しそうだった。手当たり次第物を投げつけて殴りつけて破壊したい。しかし佳奈多に、そんな姿は見せられない。リビングの扉に向けて大翔は歩いた。
「ひ、ひろ、くん」
「だから。誰かと喋ってなよ。さっきのやつじゃなくても、探せばいいでしょ」
「ま、待って、待って、行かないで、ひろく、行かないで、違うから、違…」
大翔が振り返ると、佳奈多はソファの肘掛けを乗り越えようとしていた。片手を伸ばし、佳奈多はそのままソファの肘掛けから落ちた。ゴッと鈍い音がした。佳奈多が頭を床に打ち付けた音だった。大翔は思わず佳奈多にかけよる。
「かなちゃ…」
「ち、違う、ひろくん、違うから、違う」
佳奈多が大翔にしがみついた。なにが違うのかわからないが、佳奈多は泣きながら震えていた。大翔の胸に顔を埋めて、佳奈多は小さな声で言う。
「ひ、…し、調べてた、ひ、ひろくんと、す、…するの、ひろくんと、する、から、い、行かな、で」
佳奈多が何を言ったのか、一瞬理解できなかった。男同士の行為を、大翔とするために調べていたということだろうか。大翔は佳奈多を抱きしめた。
「そんな嘘、つかなくていいよ」
きっと一人が怖くて淋しくて、佳奈多はそんなことを言い出したのだろう。大翔の想いを知っているはずなのに、あまりに酷い嘘だ。怖がりで臆病な佳奈多は嘘をついてまで大翔を引き留めようとしている。
大翔は佳奈多の頭をなでた。
「寝室、行こう。一緒に」
佳奈多は震えて答えない。大翔は返事を待たずに佳奈多の体を抱き上げて寝室に向かった。佳奈多は大人しくされるがまま。寝室に入って佳奈多をベッドに下ろす。佳奈多は体を丸めて小さくなった。大翔は佳奈多の上に布団をかける。
「おやすみ、かなちゃん」
大翔も体を横たえて背中を向けた。
高等部に進学してから、佳奈多はわざと挑発するようなことを言うようになった。大翔は佳奈多なら、何をされても構わない。佳奈多なら許せる。むしろ心配の方が勝った。なぜそんな行動を取るのか。
『試し行動』なのだろうと思っていた。以前、本で読んだことがある。相手が離れていかないか、愛情を持って接してくれるか試している。いくらでも確かめたらいいと思っていた。佳奈多にならなにをされても構わない。ただ、試し行動に至ってしまう精神状態が心配だった。きっと、母親が消えたことと父親からの暴力に佳奈多の心が不安定になっているのだろう。どうにかしてあげたい。佳奈多か少しでも楽になれるなら、何をされてもいい。いくらでも大翔を使ってほしい。
ただ今回のことは、駄目だった。大翔の中で深い傷となった。
佳奈多が、別の男と。
考えただけで感情が爆発しそうになる。しかし、必死に嘘をつく佳奈多にすっと頭が冷えた。どんなにからかわれても気持ちが悪いと思われてもいい。でも、あんな嘘は、あんまりだ。
『ひろくんと、するから』
真っ青な顔で必死に訴える佳奈多を思い出して、大翔はふっと息を抜いて自嘲した。
あんなことを言わせた。大翔に何か足りない部分があった。佳奈多にあんな嘘をつかせた。
(だから、別の、男に)
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