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「かなちゃん。誰?」
佳奈多は俯いたまま動かず、声も出さない。震える佳奈多は怯えている。大翔は佳奈多のスマホの電源を入れた。起動するまでの間も、佳奈多は沈黙を貫いた。
「話してくれないなら、スマホ見るよ。いい?」
大翔はスマホを佳奈多に差し出す。佳奈多は長い時間動かなかった。
こんな、脅すような真似をしては駄目だ。佳奈多が怖がってる。そう思うのに、大翔は佳奈多の腕を離せない。頭に血が昇って、昇りすぎておかしくなりそうだ。
同じように動かず無言の大翔に、佳奈多は震える手でスマホのロックを解除した。スマホにはチャットの画面が表示されている。
『初めまして。今いくつ?』
『高校生です』
『どうしてこんなところで、話し相手を探しているの?』
『男の人同士がどうやってするのか、知りたいです』
『直接お話してあげるよ』
【ビデオ通話 0:27】
途中まで入力された文字で『今無理で』と送信されずに残っている。アプリは話し相手を探すものだった。いつこんなアプリを入れたのだろう。いつからこんな相手を探していたのだろうか。
大翔はスマホを投げつけたくなった。その衝動を抑え込むのに必死だった。佳奈多はどんなつもりでこんな相手を探していたのか。寂しさを埋めるためなのか。大翔以外の相手を探すためだろうか。大翔のことは気持ち悪いと言ったのに。大翔じゃなければいいのだろうか。
大翔を変態だ、気持ち悪いという佳奈多のために風呂に一緒に入るのはやめて脱衣所で待つようになった。ベッドで自慰をするのも、食事の時に膝に乗せるのもやめた。佳奈多のために我慢した。佳奈多が自分を愛してくれるまで待とうと思った。きっといつか、愛してくれると思った。こんなに、尽くしているのだから。
しかし、佳奈多に触れるようになったのも触れることをやめたのも大翔の身勝手だ。佳奈多は悪くない。全ては大翔が勝手にやったことだ。好きになってしまったことも。
大翔は無理矢理息を吐き出して佳奈多のそばにスマホを置いた。
「…見て、ごめん」
大翔はダイニングテーブルに移動して佳奈多に背を向けられる位置にある椅子に腰掛けた。佳奈多の顔が見られない。
あんなアプリを入れるくらいだから、佳奈多は男性が好きなのだろう。でも、佳奈多が好きな相手は自分じゃない。同性なのに。佳奈多は大翔以外の男を探している。佳奈多は大翔が好きじゃない、愛さないと突きつけられた気がする。
それでも大翔は佳奈多を手放したくなかった。好きじゃなくてもいい。愛してくれなくてもいい。佳奈多が傍にいないと、生きていけない。
佳奈多を守ると誓った。佳奈多の父親からも、佳奈多を傷つける何もかもから。たとえ佳奈多が愛してくれなくても、大翔の生きる意味は佳奈多を守り愛することだけ。そう、自分の中で誓った。つい先日のことだ。それなのに、裏切られたという身勝手な考えが、脳内を渦巻いている。
また長い沈黙の時間が流れた。明日も学校がある。佳奈多は動かずソファにいる。
「かなちゃん。もう、寝室に…寝たほうがいいよ」
「……ぅ、……ひ、ひろくん、は?」
佳奈多の小さな、消え入るような声。怖がりな佳奈多は一人で大翔の寝室で眠れない。寝室にも一人で行けない。
「ソファで寝る。怖くないよ、一人でも。さっきの人がいるでしょ?お話してなよ」
大翔は吐き捨てた。早く佳奈多に、この部屋から出て欲しい。これ以上同じ空間にいられると、もっとひどい言葉を投げつけてしまうかもしれない。
佳奈多は俯いたまま動かず、声も出さない。震える佳奈多は怯えている。大翔は佳奈多のスマホの電源を入れた。起動するまでの間も、佳奈多は沈黙を貫いた。
「話してくれないなら、スマホ見るよ。いい?」
大翔はスマホを佳奈多に差し出す。佳奈多は長い時間動かなかった。
こんな、脅すような真似をしては駄目だ。佳奈多が怖がってる。そう思うのに、大翔は佳奈多の腕を離せない。頭に血が昇って、昇りすぎておかしくなりそうだ。
同じように動かず無言の大翔に、佳奈多は震える手でスマホのロックを解除した。スマホにはチャットの画面が表示されている。
『初めまして。今いくつ?』
『高校生です』
『どうしてこんなところで、話し相手を探しているの?』
『男の人同士がどうやってするのか、知りたいです』
『直接お話してあげるよ』
【ビデオ通話 0:27】
途中まで入力された文字で『今無理で』と送信されずに残っている。アプリは話し相手を探すものだった。いつこんなアプリを入れたのだろう。いつからこんな相手を探していたのだろうか。
大翔はスマホを投げつけたくなった。その衝動を抑え込むのに必死だった。佳奈多はどんなつもりでこんな相手を探していたのか。寂しさを埋めるためなのか。大翔以外の相手を探すためだろうか。大翔のことは気持ち悪いと言ったのに。大翔じゃなければいいのだろうか。
大翔を変態だ、気持ち悪いという佳奈多のために風呂に一緒に入るのはやめて脱衣所で待つようになった。ベッドで自慰をするのも、食事の時に膝に乗せるのもやめた。佳奈多のために我慢した。佳奈多が自分を愛してくれるまで待とうと思った。きっといつか、愛してくれると思った。こんなに、尽くしているのだから。
しかし、佳奈多に触れるようになったのも触れることをやめたのも大翔の身勝手だ。佳奈多は悪くない。全ては大翔が勝手にやったことだ。好きになってしまったことも。
大翔は無理矢理息を吐き出して佳奈多のそばにスマホを置いた。
「…見て、ごめん」
大翔はダイニングテーブルに移動して佳奈多に背を向けられる位置にある椅子に腰掛けた。佳奈多の顔が見られない。
あんなアプリを入れるくらいだから、佳奈多は男性が好きなのだろう。でも、佳奈多が好きな相手は自分じゃない。同性なのに。佳奈多は大翔以外の男を探している。佳奈多は大翔が好きじゃない、愛さないと突きつけられた気がする。
それでも大翔は佳奈多を手放したくなかった。好きじゃなくてもいい。愛してくれなくてもいい。佳奈多が傍にいないと、生きていけない。
佳奈多を守ると誓った。佳奈多の父親からも、佳奈多を傷つける何もかもから。たとえ佳奈多が愛してくれなくても、大翔の生きる意味は佳奈多を守り愛することだけ。そう、自分の中で誓った。つい先日のことだ。それなのに、裏切られたという身勝手な考えが、脳内を渦巻いている。
また長い沈黙の時間が流れた。明日も学校がある。佳奈多は動かずソファにいる。
「かなちゃん。もう、寝室に…寝たほうがいいよ」
「……ぅ、……ひ、ひろくん、は?」
佳奈多の小さな、消え入るような声。怖がりな佳奈多は一人で大翔の寝室で眠れない。寝室にも一人で行けない。
「ソファで寝る。怖くないよ、一人でも。さっきの人がいるでしょ?お話してなよ」
大翔は吐き捨てた。早く佳奈多に、この部屋から出て欲しい。これ以上同じ空間にいられると、もっとひどい言葉を投げつけてしまうかもしれない。
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