黒い春 本編完結 (BL)

Oj

文字の大きさ
上 下
52 / 148

51

しおりを挟む
大翔の自宅で共に寝起きして共に通学する。幸せなのに、大翔の胸は常々ざわついていた。佳奈多はよくぼんやりと遠くを見ている。ふらりといなくなってしまうのではないかと思って怖かった。
「ひろくん。お着替え、いこ」
ジャージを抱えた佳奈多がそばにいた。最近は大翔が声をかけなくても、佳奈多がそばに来てくれる。高等部でも用意させた空き教室で、佳奈多と着替えをする。背後で服が擦れる音がする。
「ひろくん。見てない?」
「見てないよ。約束したでしょ?」
こうして着替える時に佳奈多を見たことは一度もない。着替えを見ないでほしいという佳奈多との約束を守り通していた。
「本当かなぁ…ふふ…ひろくん、変態だから、信じられない。ふふふっ」
楽しそうに佳奈多が笑う。こんな時、大翔はどう答えたらいいか迷ってしまう。
「かなちゃん。着替え、終わった?」
「さぁ。見て、確かめたら?」
「…いじわるしないで」
「終わったよ」
大翔は振り返る。佳奈多は下着一枚ですぐそばにいた。佳奈多は笑みを深める。
「興奮、する?変態だもん、ひろくん。勃起、した?」
歪んだ笑顔で佳奈多は言う。大翔は佳奈多のジャージを掴んで頭から被せた。
「だめだよ。ちゃんと着て」
ズボンも押し付けて大翔は背中を向けた。佳奈多の笑い声と、服が擦れる音がする。
白い肌も胸に見える桃色の突起も下着のなだらかな膨らみも。全て、大翔を欲情させるには十分すぎる。熱が集中してしまわないようにしながら、大翔は思う。
佳奈多は大翔に不思議な行動をするようになった。大翔との生活が始まってから少し経った頃だ。わざと肌をさらしてみたり、大翔を無視してみたり。佳奈多が大翔にどうしてほしいのかわからず、大翔は毎回反応に戸惑った。
佳奈多が挑発するかのような態度で嫌がったので、膝に乗せての食事も一緒に入る風呂もやめた。風呂は脱衣所で声をかけて、佳奈多の体が温まるよう気を配った。
佳奈多が楽しそうに笑っているからこれでいいのだろうか。大翔が背後を伺うと、佳奈多は着替えを終えていた。笑い終えた佳奈多はぼんやりしている。そんな佳奈多を見ていると、本当はもっと違う対応をしたほうが良いんじゃないかと悩む。
「行こう、かなちゃん」
「…うん」
大翔は佳奈多に片手を差し出す。佳奈多は素直に頷いて、大翔の手を取った。


自宅にいる時も、大翔は佳奈多から離れない。高校進学前までは居心地悪そうにしていた佳奈多だが、最近は何をされても笑って挑発をするか、無反応でそこにいる。ただ、スマホを手に取る時は大翔の存在を拒絶した。
ソファに並んで座り、大翔に画面が見えないようにスマホの背を大翔に向けたり体を動かしたりする。
「かなちゃん、何見てるの?」
「気に、なる?」
「そんなふうに隠されたら気になるよ」
「秘密。ふふ。見ない、でね?秘密だから。絶対」
風呂上がりで眠るまでの短い時間。スマホを両手で握って、佳奈多はくすくすと笑う。それからひとつ息をついて、またぼんやりとスマホを眺める。
気にならないわけがない。できるなら今スマホを奪ってでもでも確認したい。しかし、見ないでと言われた以上、見ることは出来ない。佳奈多の嫌がることはしたくない。
佳奈多の頬に触れると、佳奈多はびくっと震えて、それでもスマホは手放さない。顔をこちらに向けることもせず無視を決め込んでいる。
(あぁ、また、無視するんだ)
笑って大翔をばかにするような物言いのあとは大抵、大翔の存在を無視する。黙る佳奈多に、最初は必死に話しかけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

いつか愛してると言える日まで

なの
BL
幼馴染が大好きだった。 いつか愛してると言えると告白できると思ってた… でも彼には大好きな人がいた。 だから僕は君たち2人の幸せを祈ってる。いつまでも… 親に捨てられ施設で育った純平、大好きな彼には思い人がいた。 そんな中、問題が起こり… 2人の両片想い…純平は愛してるとちゃんと言葉で言える日は来るのか? オメガバースの世界観に独自の設定を加えています。 予告なしに暴力表現等があります。R18には※をつけます。ご自身の判断でお読み頂きたいと思います。 お読みいただきありがとうございました。 本編は完結いたしましたが、番外編に突入いたします。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

処理中です...