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「だめだよ、殴っちゃ、だめ」
大翔は必死に自分を落ち着かせた。佳奈多が言うなら、殴ってはいけない。でも、許せない。佳奈多に暴力をふるった。佳奈多を傷つけた。憎くて憎くて、やっぱり、この世から抹消したい。
「お父さん。僕、大翔君の家に行く。学校のお金、スマホも、払っておいて下さい。他に必要な時は、ここに来るから。…大翔君、いい?」
大翔は佳奈多の言葉に驚いた。大翔が頷くと、佳奈多は頭を撫でてくれた。佳奈多に頭を撫でられて、佳奈多の匂いを吸い込んで深呼吸をして、大翔はやっと少し落ち着いた。
まさか、佳奈多の家族がこんなことになっているだなんて、思いもしなかった。荒れた室内が目に入った。小さな棚は倒れて、小物が床にやちらばっている。そういえば佳奈多の母はどこにいるのだろう。
「…佳奈多君がここに、来る時は、俺も来ます。必ず。ガラス、すみませんでした」
佳奈多の父は震えていた。怯えた表情は佳奈多に似ていて、吐きそうになった。
佳奈多の部屋で荷物をまとめて、大翔の自宅に帰ってきた。
佳奈多の頬は少し腫れている。たぶん手のひらで打ちつけられたのだろう。警察には行かないという佳奈多だが、もし行くのであれば証拠が必要だろう。大翔は何枚も写真を撮った。腹が立って、仕方がなかった。佳奈多の父にも、自分にも。
やはり一発殴っておけばよかった。大翔は深く後悔した。
それから佳奈多から、佳奈多の母が失踪したことを教えられた。今までは佳奈多の母が暴力を受けていたそうだ。どうして言ってくれなかったのか。どうして教えてくれなかったんだろう。
佳奈多の母はあんな家に、暴力を振るう父のいる家に佳奈多を置いていなくなってしまった。
どうして佳奈多の両親は、佳奈多を大切にできないんだろう。二人とも今、この世に生きていられているのに。佳奈多も、明日も生きていくれているとは限らないのに。
佳奈多に他に傷はないか確認すると、佳奈多は笑い出した。
「お父さんに殴られたの、今日が初めてだから。体に、傷が、ないの…大翔君、知ってるでしょ」
佳奈多は笑う。こんな笑い方、こんな姿は見たことがない。
「ふふ、へ、へふっ、ははは、あはっ、ふははっ、はぁ……あ、勝手に、ひろくんち行くって、言って、ごめんね…今日から、ご迷惑、おかけします」
笑っていた佳奈多は突然ぴたりと笑いを止めて表情を無くし、深々と頭を下げた。大翔は血の気が引いた。こんな佳奈多は見たことがない。こんな佳奈多は知らない。
大翔は強く佳奈多を抱きしめた。佳奈多を胸に掻き抱いて、大翔は泣いた。涙が止まらなかった。佳奈多が変わってしまった。佳奈多の、大切な何かが壊れてしまった。純粋で無垢な佳奈多を大切に守ってきた、つもりだったのに。どうしてもっと早く気付けなかったのか。どうしてこうなってしまったのか。佳奈多を守ってあげられなかった。
大切な人が、明日もそこにいるとは限らない。わかっていたはずなのに。
これ以上佳奈多が壊れてしまわないよう、佳奈多を守って大切にしよう。今まで以上に大切に、誰の手も届かないように、大事に守ってあげなければならない。
大翔と佳奈多は高等部に進学した。大翔は今まで以上に佳奈多に気を配り、佳奈多が気を揉むことのないように注意を払った。
高校ではまた外部からの新入生が増えた。中学の頃とは違った視線を投げかけてくる生徒も多くいた。興味と好奇心と好意と。その全てが大翔には煩わしく思えた。そんな輩は、大抵佳奈多を敵視する。こいつら如きが、なぜ佳奈多と対等だと思えるのか、大翔は理解に苦しんだ。
大翔は必死に自分を落ち着かせた。佳奈多が言うなら、殴ってはいけない。でも、許せない。佳奈多に暴力をふるった。佳奈多を傷つけた。憎くて憎くて、やっぱり、この世から抹消したい。
「お父さん。僕、大翔君の家に行く。学校のお金、スマホも、払っておいて下さい。他に必要な時は、ここに来るから。…大翔君、いい?」
大翔は佳奈多の言葉に驚いた。大翔が頷くと、佳奈多は頭を撫でてくれた。佳奈多に頭を撫でられて、佳奈多の匂いを吸い込んで深呼吸をして、大翔はやっと少し落ち着いた。
まさか、佳奈多の家族がこんなことになっているだなんて、思いもしなかった。荒れた室内が目に入った。小さな棚は倒れて、小物が床にやちらばっている。そういえば佳奈多の母はどこにいるのだろう。
「…佳奈多君がここに、来る時は、俺も来ます。必ず。ガラス、すみませんでした」
佳奈多の父は震えていた。怯えた表情は佳奈多に似ていて、吐きそうになった。
佳奈多の部屋で荷物をまとめて、大翔の自宅に帰ってきた。
佳奈多の頬は少し腫れている。たぶん手のひらで打ちつけられたのだろう。警察には行かないという佳奈多だが、もし行くのであれば証拠が必要だろう。大翔は何枚も写真を撮った。腹が立って、仕方がなかった。佳奈多の父にも、自分にも。
やはり一発殴っておけばよかった。大翔は深く後悔した。
それから佳奈多から、佳奈多の母が失踪したことを教えられた。今までは佳奈多の母が暴力を受けていたそうだ。どうして言ってくれなかったのか。どうして教えてくれなかったんだろう。
佳奈多の母はあんな家に、暴力を振るう父のいる家に佳奈多を置いていなくなってしまった。
どうして佳奈多の両親は、佳奈多を大切にできないんだろう。二人とも今、この世に生きていられているのに。佳奈多も、明日も生きていくれているとは限らないのに。
佳奈多に他に傷はないか確認すると、佳奈多は笑い出した。
「お父さんに殴られたの、今日が初めてだから。体に、傷が、ないの…大翔君、知ってるでしょ」
佳奈多は笑う。こんな笑い方、こんな姿は見たことがない。
「ふふ、へ、へふっ、ははは、あはっ、ふははっ、はぁ……あ、勝手に、ひろくんち行くって、言って、ごめんね…今日から、ご迷惑、おかけします」
笑っていた佳奈多は突然ぴたりと笑いを止めて表情を無くし、深々と頭を下げた。大翔は血の気が引いた。こんな佳奈多は見たことがない。こんな佳奈多は知らない。
大翔は強く佳奈多を抱きしめた。佳奈多を胸に掻き抱いて、大翔は泣いた。涙が止まらなかった。佳奈多が変わってしまった。佳奈多の、大切な何かが壊れてしまった。純粋で無垢な佳奈多を大切に守ってきた、つもりだったのに。どうしてもっと早く気付けなかったのか。どうしてこうなってしまったのか。佳奈多を守ってあげられなかった。
大切な人が、明日もそこにいるとは限らない。わかっていたはずなのに。
これ以上佳奈多が壊れてしまわないよう、佳奈多を守って大切にしよう。今まで以上に大切に、誰の手も届かないように、大事に守ってあげなければならない。
大翔と佳奈多は高等部に進学した。大翔は今まで以上に佳奈多に気を配り、佳奈多が気を揉むことのないように注意を払った。
高校ではまた外部からの新入生が増えた。中学の頃とは違った視線を投げかけてくる生徒も多くいた。興味と好奇心と好意と。その全てが大翔には煩わしく思えた。そんな輩は、大抵佳奈多を敵視する。こいつら如きが、なぜ佳奈多と対等だと思えるのか、大翔は理解に苦しんだ。
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