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大翔は佳奈多に、ここでこのまま自慰を続けていいか確認しようと思っていた。しかし佳奈多は大翔を拒絶している。耳をふさいで、大翔の声が聞こえないようにしている。
大翔はベッドを出てトイレに向かった。佳奈多は怯えている。怖がらせるようなことは、佳奈多が嫌がることはしない。
佳奈多に嫌われたくない。
佳奈多に嫌われたら、心底嫌だと思われたら、大翔は生きていけない。
トイレで佳奈多の温もりと匂いを思い返して精を放つ。寝室に戻ると、びくんと佳奈多の体が跳ねた。ベッドに入ると佳奈多は逃げるように壁に向かって移動していった。
佳奈多は背中を向けて、大翔を拒絶している。
それでも移動は少しずつ、ゆっくりで、大翔に知られないようにしているようだった。それが優しさなのか、心底怯えているのか、大翔にはわからない。しかし気を使わせていることも怖がらせていることもどちらも真実だと思う。
大翔は佳奈多の頭を撫でて、背中を向ける。もう何もしない。だから安心してほしい。長い時間を置いて佳奈多を見ると、佳奈多は寝息を立てていた。頬に触れても動かず、本当に寝ているようだった。
大翔は佳奈多が好きだ。大事に守って優しくしたい。何よりも大切な佳奈多に、いつも心穏やかで幸せに満ち溢れていて欲しい。その上で、大翔を受け入れて欲しい。佳奈多に性的な興奮を覚えてしまう大翔を、受け入れて愛してほしい。
大翔はやるせない想いを抱えて、佳奈多の背中を見つめ続けた。
それから佳奈多との関係は前に進むことなく月日は過ぎた。
佳奈多が実家に帰る日は不安で心配だった。翌朝迎えに行き、怪我なく一緒に登校する佳奈多に毎回安堵していた。
しかしある時から佳奈多の表情がとても少なくなった。元々あまり表情が豊かではなく、怯えた表情の多い佳奈多だが、その怯えた顔さえ少なくなった。無感情に、ぼんやりとどこかを見つめている時間が増えた。
一体どうしたのか不安に思っているうちに、中学部最後の学年末の試験が行われた。佳奈多の結果は良かったと思う。しかし、泣きながら大翔の自宅に来た日、テストの点数で叱られたと言っていた。今回はその時よりも点数が落ちている。
自宅に帰るという佳奈多が心配だった。佳奈多はぼんやりと「平気」「大丈夫」と繰り返していたが、その目は何も写していなくて怖かった。
大翔は大翔の自宅の前で佳奈多と別れて、佳奈多を追った。佳奈多はコンビニの前を通り過ぎてゆっくりと歩いていく。
コンビニはもう、平気になったのだろうか。まだ明るい時間だからだろうか。
ゆっくり歩く佳奈多の背中は帰りたくないというよりも、なんの感情もなくただ足を動かしているだけのように見えた。
佳奈多が自宅に入った。大翔は佳奈多の家に近づいて門の前に立つ。間もなく家の中から何かが倒れるような音が聞こえた。
「なんだ!この、数学と科学の、点数は!」
佳奈多の父親の声だ。大翔は庭に周り込んで窓から室内を見た。佳奈多の父親は佳奈多に馬乗りになっていた。荒れた庭の中に小人の置物を見つけた。大翔は小人で窓を殴りつけ、鍵を開けて室内に入り、佳奈多の父親に飛びかかった。体当たりで吹き飛ばし、馬乗りになる。
「お前っ……かなちゃんの、父親だろ!」
「ひろくん!だめ!!」
佳奈多の声に、振り上げた拳を止めた。佳奈多は大翔と父親の間に入り込んで、大翔にしがみついて父親から引き離した。
大翔はこめかみから鼓動が聞こえた。どくどくと脈打つそれは自分の血液が流れる音だ。大翔は頭に血が上る音を生々しく聞いていた。
佳奈多が止めなければきっと殴り殺していた。
大翔はベッドを出てトイレに向かった。佳奈多は怯えている。怖がらせるようなことは、佳奈多が嫌がることはしない。
佳奈多に嫌われたくない。
佳奈多に嫌われたら、心底嫌だと思われたら、大翔は生きていけない。
トイレで佳奈多の温もりと匂いを思い返して精を放つ。寝室に戻ると、びくんと佳奈多の体が跳ねた。ベッドに入ると佳奈多は逃げるように壁に向かって移動していった。
佳奈多は背中を向けて、大翔を拒絶している。
それでも移動は少しずつ、ゆっくりで、大翔に知られないようにしているようだった。それが優しさなのか、心底怯えているのか、大翔にはわからない。しかし気を使わせていることも怖がらせていることもどちらも真実だと思う。
大翔は佳奈多の頭を撫でて、背中を向ける。もう何もしない。だから安心してほしい。長い時間を置いて佳奈多を見ると、佳奈多は寝息を立てていた。頬に触れても動かず、本当に寝ているようだった。
大翔は佳奈多が好きだ。大事に守って優しくしたい。何よりも大切な佳奈多に、いつも心穏やかで幸せに満ち溢れていて欲しい。その上で、大翔を受け入れて欲しい。佳奈多に性的な興奮を覚えてしまう大翔を、受け入れて愛してほしい。
大翔はやるせない想いを抱えて、佳奈多の背中を見つめ続けた。
それから佳奈多との関係は前に進むことなく月日は過ぎた。
佳奈多が実家に帰る日は不安で心配だった。翌朝迎えに行き、怪我なく一緒に登校する佳奈多に毎回安堵していた。
しかしある時から佳奈多の表情がとても少なくなった。元々あまり表情が豊かではなく、怯えた表情の多い佳奈多だが、その怯えた顔さえ少なくなった。無感情に、ぼんやりとどこかを見つめている時間が増えた。
一体どうしたのか不安に思っているうちに、中学部最後の学年末の試験が行われた。佳奈多の結果は良かったと思う。しかし、泣きながら大翔の自宅に来た日、テストの点数で叱られたと言っていた。今回はその時よりも点数が落ちている。
自宅に帰るという佳奈多が心配だった。佳奈多はぼんやりと「平気」「大丈夫」と繰り返していたが、その目は何も写していなくて怖かった。
大翔は大翔の自宅の前で佳奈多と別れて、佳奈多を追った。佳奈多はコンビニの前を通り過ぎてゆっくりと歩いていく。
コンビニはもう、平気になったのだろうか。まだ明るい時間だからだろうか。
ゆっくり歩く佳奈多の背中は帰りたくないというよりも、なんの感情もなくただ足を動かしているだけのように見えた。
佳奈多が自宅に入った。大翔は佳奈多の家に近づいて門の前に立つ。間もなく家の中から何かが倒れるような音が聞こえた。
「なんだ!この、数学と科学の、点数は!」
佳奈多の父親の声だ。大翔は庭に周り込んで窓から室内を見た。佳奈多の父親は佳奈多に馬乗りになっていた。荒れた庭の中に小人の置物を見つけた。大翔は小人で窓を殴りつけ、鍵を開けて室内に入り、佳奈多の父親に飛びかかった。体当たりで吹き飛ばし、馬乗りになる。
「お前っ……かなちゃんの、父親だろ!」
「ひろくん!だめ!!」
佳奈多の声に、振り上げた拳を止めた。佳奈多は大翔と父親の間に入り込んで、大翔にしがみついて父親から引き離した。
大翔はこめかみから鼓動が聞こえた。どくどくと脈打つそれは自分の血液が流れる音だ。大翔は頭に血が上る音を生々しく聞いていた。
佳奈多が止めなければきっと殴り殺していた。
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