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そろそろ夕食にしようと大翔は勉強する手を止めた。もうすぐ19時になる。リビングに入ると窓の外は真っ暗になっていた。キッチンに入ろうとした時にスマホが鳴った。着信音は佳奈多専用のものだ。すぐにスマホを操作して電話に出る。
『と、泊めて、今日、今、お家、向かってるから…』
声が震えている。ゲームがしたいと言っていたがきっと嘘だ。
また佳奈多に何かがあった。佳奈多が何かに傷つけられた。
大翔は自宅を飛び出した。1階のエントランスで、大きな荷物を抱えて涙を流す佳奈多を見つけた。たまらず、大翔は佳奈多を抱きしめる。お父さんと喧嘩したと、佳奈多は笑いながら泣いていた。佳奈多のスマホが鳴り続けている。大翔が手に取ると、画面には『お父さん』と表示されている。電話に出ると、大きな声が耳をつんざいた。
『佳奈多あぁっ!お前っ、勝手に!どこにいるんだ!早く、帰って』
「…すみません、佳奈多君の友人の松本大翔です。佳奈多君の、お父様ですか?」
佳奈多の父親の言葉を遮って大翔は尋ねた。息を呑む音が聞こえた。直接ではなくても今の怒鳴り声は佳奈多にも聞こえたのだろう。佳奈多はひどく体を震わせている。
『あ、あっ、まつ、松本、さん、あのっ、あっ、私は、佳奈多の、父で』
「今佳奈多君と合流しました。今日はうちに泊めます。明日はうちから、一緒に登校します。よろしいですね?」
『は、あっ、はいっ、あの、ご、ご迷惑を、あの…あ、佳奈多と、話を』
怒鳴りつけたかった。大翔は歯を噛み締めて耐えた。口を開けば暴言を吐きそうで、無言で佳奈多にスマホを渡す。佳奈多の顔色は真っ青で、恐る恐るスマホを耳に当てた。佳奈多は小さな声で短く会話を交わしてすぐに電話を切った。佳奈多を促して自宅に向かう。エレベーターで問いただすと、テストの点を叱られたと言う。本当だろうか。それだけで、ここまで怯えるだろうか。抱きしめて頭を撫でるとすがりついて佳奈多は泣いた。
いつも佳奈多は懸命に勉強していた。親が厳しいのだろうと思っていたし、実際お父さんが厳しいと聞いたことがあった。まさかここまでとは思わなかった。
自宅に入り、佳奈多をソファに腰掛けさせる。長い時間、佳奈多は震えて泣いていた。
「かなちゃん、お腹、空いてない?ご飯、食べてきた?」
佳奈多が落ち着くのを見計らって、大翔は声を掛けた。少し気をそらしたほうがいいと大翔は思った。
「あ、た、たべて、ない、…大翔、君は?」
「俺もまだ。一緒に食べよ?でも、俺1人分しかないから、何か買いに行こうよ」
一緒に買い物に行こうと思ったが、佳奈多はまた青ざめて俯いた。
「ご、ごめんね、あの、…僕、夜、怖くて、そ、外、ある、歩け、なくて、…あ、あぅ、でも、ひ、ひろくん、一緒なら、い、行ける、かな、」
佳奈多は無理に笑顔を作って顔を上げた。佳奈多の震える体を抱きしめる。
「いいよ、無理しなくて。かなちゃん、一人でここにいられる?俺が買ってくるから。お菓子も…今日は好きなもの食べよう。何がいい?」
「う…うぅ…ご、ごめんね、ごめんなさい、…」
小さくなって震える佳奈多の体をさする。どうしてこんなに、佳奈多がたくさん傷つくんだろう。どうして、もっと早く気づいてあげられなかったんだろう。もっと早く、なんとかしてあげられなかったんだろう。
大翔は何度も何度も自分を責めた。
風呂から出ると、佳奈多は既に眠っていた。目元が赤く腫れて、濡れている。拭ってやると、びくりと震えて、また小さな寝息が繰り返された。
ここには佳奈多の恐れるものはなにもない。心を休めてほしい。
大翔も佳奈多のそばにより、眠りについた。
『と、泊めて、今日、今、お家、向かってるから…』
声が震えている。ゲームがしたいと言っていたがきっと嘘だ。
また佳奈多に何かがあった。佳奈多が何かに傷つけられた。
大翔は自宅を飛び出した。1階のエントランスで、大きな荷物を抱えて涙を流す佳奈多を見つけた。たまらず、大翔は佳奈多を抱きしめる。お父さんと喧嘩したと、佳奈多は笑いながら泣いていた。佳奈多のスマホが鳴り続けている。大翔が手に取ると、画面には『お父さん』と表示されている。電話に出ると、大きな声が耳をつんざいた。
『佳奈多あぁっ!お前っ、勝手に!どこにいるんだ!早く、帰って』
「…すみません、佳奈多君の友人の松本大翔です。佳奈多君の、お父様ですか?」
佳奈多の父親の言葉を遮って大翔は尋ねた。息を呑む音が聞こえた。直接ではなくても今の怒鳴り声は佳奈多にも聞こえたのだろう。佳奈多はひどく体を震わせている。
『あ、あっ、まつ、松本、さん、あのっ、あっ、私は、佳奈多の、父で』
「今佳奈多君と合流しました。今日はうちに泊めます。明日はうちから、一緒に登校します。よろしいですね?」
『は、あっ、はいっ、あの、ご、ご迷惑を、あの…あ、佳奈多と、話を』
怒鳴りつけたかった。大翔は歯を噛み締めて耐えた。口を開けば暴言を吐きそうで、無言で佳奈多にスマホを渡す。佳奈多の顔色は真っ青で、恐る恐るスマホを耳に当てた。佳奈多は小さな声で短く会話を交わしてすぐに電話を切った。佳奈多を促して自宅に向かう。エレベーターで問いただすと、テストの点を叱られたと言う。本当だろうか。それだけで、ここまで怯えるだろうか。抱きしめて頭を撫でるとすがりついて佳奈多は泣いた。
いつも佳奈多は懸命に勉強していた。親が厳しいのだろうと思っていたし、実際お父さんが厳しいと聞いたことがあった。まさかここまでとは思わなかった。
自宅に入り、佳奈多をソファに腰掛けさせる。長い時間、佳奈多は震えて泣いていた。
「かなちゃん、お腹、空いてない?ご飯、食べてきた?」
佳奈多が落ち着くのを見計らって、大翔は声を掛けた。少し気をそらしたほうがいいと大翔は思った。
「あ、た、たべて、ない、…大翔、君は?」
「俺もまだ。一緒に食べよ?でも、俺1人分しかないから、何か買いに行こうよ」
一緒に買い物に行こうと思ったが、佳奈多はまた青ざめて俯いた。
「ご、ごめんね、あの、…僕、夜、怖くて、そ、外、ある、歩け、なくて、…あ、あぅ、でも、ひ、ひろくん、一緒なら、い、行ける、かな、」
佳奈多は無理に笑顔を作って顔を上げた。佳奈多の震える体を抱きしめる。
「いいよ、無理しなくて。かなちゃん、一人でここにいられる?俺が買ってくるから。お菓子も…今日は好きなもの食べよう。何がいい?」
「う…うぅ…ご、ごめんね、ごめんなさい、…」
小さくなって震える佳奈多の体をさする。どうしてこんなに、佳奈多がたくさん傷つくんだろう。どうして、もっと早く気づいてあげられなかったんだろう。もっと早く、なんとかしてあげられなかったんだろう。
大翔は何度も何度も自分を責めた。
風呂から出ると、佳奈多は既に眠っていた。目元が赤く腫れて、濡れている。拭ってやると、びくりと震えて、また小さな寝息が繰り返された。
ここには佳奈多の恐れるものはなにもない。心を休めてほしい。
大翔も佳奈多のそばにより、眠りについた。
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