34 / 153
34
しおりを挟む
翌日からあの生徒は学校に来なくなり、間もなく自主退学となった。松本家から圧力がかかったのだろう。佳奈多を守ることができた大翔は安堵した。あの時のあの男の名前も顔も、大翔はもう覚えてもいない。
そいつが見せしめとなり、不用意に佳奈多に近づく人間はいなくなった。外部入学生を迎えて落ち着きのなかった頃を過ぎると、周りの目も落ち着いた。
中等部に上がってから、佳奈多からのお願いで二人は放課後に図書館で勉強をするようになった。大翔の横で懸命に学ぶ佳奈多を見ている時間はとても幸せだった。誰にも邪魔されず、二人きりの時間を過ごすことができる。
「ひ、大翔君、ここ、わかんない…」
佳奈多はわからないところはしばらく悩んでから聞いてくる。ちゃんと自分で考えてから答えを導こうとしている。ここは進学校でもあるので授業の進むスピードが早く、一つの授業で覚えることがとても多い。佳奈多は決して勉強ができないわけじゃない。この学校の授業方針が合わないだけだ。おっとりとした佳奈多は詰め込むよりも、基礎をじっくり学んだほうが応用ができる。
「これね。こっちの公式当てはめてやるんだよ」
「…あ!うん、わかった、これ、ここ?」
「そうそう。そしたらあとは、そのまま計算して…」
佳奈多は納得しながら先に進んでいく。佳奈多に伝えることで、大翔も復習になっている。穏やかなこの時間が、大翔にとって何より楽しみな時間だった。
あの頃、まさかあんなことが起きるなんて、大翔は思っても見なかった。佳奈多が深く傷ついた。もっとちゃんと、帰宅したあとの佳奈多を見張っておけば良かったと、大翔は今も、何度も何度も後悔している。
帰宅したあと、勉強をしたり空手の道場に行ったりした後はランニングをしながら佳奈多の家を見上げるのが日課になった。眠るまでの時間をもてあましていた大翔にとって大切でなくてはならない時間だった。
佳奈多の家は他の家に比べて早くにリビングの明かりが消える。1階の明かりが消えてから、2階の、玄関から見える窓に明かりが灯る。そこは毎日21時には明かりが消える。あそこが佳奈多の部屋だ。窓やカーテンを開け締めする佳奈多を何度か見たことがある。今夜も姿を見せてくれないか期待をしながら、大翔は明かりが消えるまで見上げている。
(おやすみ、かなちゃん)
離れていても、佳奈多の存在を感じられる。幸せな一時だった。いつも明かりが消えてしばらくしてから大翔は家路についていた。
あの日は中々部屋の明かりが消えなかった。いつもの就寝時間は過ぎている。どうしたのかと考えていると、誰かが走って近づいてきた。
「かなちゃん?」
家の中にいると思っていた佳奈多だった。佳奈多は涙を流していて、大翔を見るなり崩れ落ちてしまった。一体何があったのか。こんな時間に外に出て、何をしていたのか。問いただしても佳奈多は答えない。
誰かと会っていたのだろうか。大翔の知らない誰かと。その相手と、何をしていたのだろうか。
大翔は頭に血が昇っていった。怯える佳奈多の腕をひいて、佳奈多の家に押し入るようにして入り込んだ。1階の明かりは消えている。こんな時間に佳奈多が外にいるということは、たぶん家の中に誰もいないのだろう。誰かいるとしても、こんな時間に外出を許したならその相手を怒鳴りつけてやろうと思っていた。どうしてきちんと佳奈多を見てくれていなかったのか。
久しぶりに入った佳奈多の部屋で、大翔は佳奈多をベッドに押し倒す。
誰と、何を、してきたのか。まさかとは思うが、こんな時間に、パパ活でもしてきたんじゃないだろうか。
確認するために、抵抗する佳奈多をねじ伏せて、服に手をかけた。突然佳奈多が絶叫した。
そいつが見せしめとなり、不用意に佳奈多に近づく人間はいなくなった。外部入学生を迎えて落ち着きのなかった頃を過ぎると、周りの目も落ち着いた。
中等部に上がってから、佳奈多からのお願いで二人は放課後に図書館で勉強をするようになった。大翔の横で懸命に学ぶ佳奈多を見ている時間はとても幸せだった。誰にも邪魔されず、二人きりの時間を過ごすことができる。
「ひ、大翔君、ここ、わかんない…」
佳奈多はわからないところはしばらく悩んでから聞いてくる。ちゃんと自分で考えてから答えを導こうとしている。ここは進学校でもあるので授業の進むスピードが早く、一つの授業で覚えることがとても多い。佳奈多は決して勉強ができないわけじゃない。この学校の授業方針が合わないだけだ。おっとりとした佳奈多は詰め込むよりも、基礎をじっくり学んだほうが応用ができる。
「これね。こっちの公式当てはめてやるんだよ」
「…あ!うん、わかった、これ、ここ?」
「そうそう。そしたらあとは、そのまま計算して…」
佳奈多は納得しながら先に進んでいく。佳奈多に伝えることで、大翔も復習になっている。穏やかなこの時間が、大翔にとって何より楽しみな時間だった。
あの頃、まさかあんなことが起きるなんて、大翔は思っても見なかった。佳奈多が深く傷ついた。もっとちゃんと、帰宅したあとの佳奈多を見張っておけば良かったと、大翔は今も、何度も何度も後悔している。
帰宅したあと、勉強をしたり空手の道場に行ったりした後はランニングをしながら佳奈多の家を見上げるのが日課になった。眠るまでの時間をもてあましていた大翔にとって大切でなくてはならない時間だった。
佳奈多の家は他の家に比べて早くにリビングの明かりが消える。1階の明かりが消えてから、2階の、玄関から見える窓に明かりが灯る。そこは毎日21時には明かりが消える。あそこが佳奈多の部屋だ。窓やカーテンを開け締めする佳奈多を何度か見たことがある。今夜も姿を見せてくれないか期待をしながら、大翔は明かりが消えるまで見上げている。
(おやすみ、かなちゃん)
離れていても、佳奈多の存在を感じられる。幸せな一時だった。いつも明かりが消えてしばらくしてから大翔は家路についていた。
あの日は中々部屋の明かりが消えなかった。いつもの就寝時間は過ぎている。どうしたのかと考えていると、誰かが走って近づいてきた。
「かなちゃん?」
家の中にいると思っていた佳奈多だった。佳奈多は涙を流していて、大翔を見るなり崩れ落ちてしまった。一体何があったのか。こんな時間に外に出て、何をしていたのか。問いただしても佳奈多は答えない。
誰かと会っていたのだろうか。大翔の知らない誰かと。その相手と、何をしていたのだろうか。
大翔は頭に血が昇っていった。怯える佳奈多の腕をひいて、佳奈多の家に押し入るようにして入り込んだ。1階の明かりは消えている。こんな時間に佳奈多が外にいるということは、たぶん家の中に誰もいないのだろう。誰かいるとしても、こんな時間に外出を許したならその相手を怒鳴りつけてやろうと思っていた。どうしてきちんと佳奈多を見てくれていなかったのか。
久しぶりに入った佳奈多の部屋で、大翔は佳奈多をベッドに押し倒す。
誰と、何を、してきたのか。まさかとは思うが、こんな時間に、パパ活でもしてきたんじゃないだろうか。
確認するために、抵抗する佳奈多をねじ伏せて、服に手をかけた。突然佳奈多が絶叫した。
45
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。


【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる