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佳奈多は嫌がって暴れるような真似はしない。たぶん大翔が不快にならないように配慮してくれている。そんないじらしい姿を見て、我が儘を突き通すこともできない。
佳奈多が嫌がることはしたくない。しかし、少しでも繋がっていたい。
リュックの紐を持つことを提案したら佳奈多は頷いてくれた。佳奈多は笑っていた。仕方ないな、と言いたげに。ふにゃっと笑う顔はいつもと同じなのに、いつもより可愛く見えた。
やっぱり佳奈多は可愛い。
大翔は自分の気持ちを改めて思い知った。
その夜、大翔は佳奈多のベッドに入った。もう、今日と明日しか夜一緒にいられない。帰ればまた一人ぼっちの家とベッドが待っている。
昨日、佳奈多はぐっすり眠っていた。見知らぬ環境でもよく眠れるようだ。名前を呼んだが、反応はなかった。やっぱりぐっすり眠っている。
小さな体はすっぽりと腕の中に収まった。佳奈多が少し体を硬くした気がする。大翔は佳奈多の髪に顔を埋めた。
この気持ちをどうしたらいいんだろう。
どうしたいのかもわからず、大翔はただ佳奈多の匂いと体温を感じていた。
次の日も夜、大翔は佳奈多のベッドに忍び込んだ。その日1日、佳奈多はどこかぼんやりと上の空だった。俯いていることが多かった。
まさかまた、誰かに何かされたのだろうか。でもずっと大翔が一緒にいた。大翔以外の誰も、佳奈多に接触していない。
一体どうしたのか。佳奈多が不安に思うことは全て取り除いてあげたい。
昨日よりも強く佳奈多を抱きしめる。目の前には佳奈多の白い首があった。大翔はよく見る猫の動画を思い出した。猫同士の毛づくろい。信頼関係のある猫同士の愛情表現だそうだ。
大丈夫、俺がそばにいるよ。
大翔は佳奈多の首を舐め上げた。
「ひっ…」
佳奈多から声が上がった。佳奈多の体が小刻みに震えている。起きていたのだろうか。
名前を呼んでも返事がないので顔を覗き込んでみる。佳奈多はぎゅっと目を瞑っていた。手を口に当てて震えている。
「かなちゃん。寝てるの?」
佳奈多は何度も頷いた。どう見ても起きている。寝た振りをしていたらしい。眠っているかという問いに頷いてしまう佳奈多の素直さに思わず笑ってしまった。それから大翔は気づいた。
佳奈多が震えているのがどうしてか。
たぶん佳奈多は大翔に怯えている。昨日も、佳奈多は寝た振りをして起きていたのかもしれない。友達が突然布団に入ってきたら、それは確かに怖いだろう。一体どうしてしまったのか不安だし、何をされるのかわからず怖かっただろう。
今日一日どこか影を帯びていたのは自分のせいかもしれない。
大翔は体を横たえて佳奈多を抱きしめる。怖がらないでほしい。大翔はただ佳奈多が大切で守りたいだけで、怯えさせたいわけじゃない。どうか、大翔を受け入れて欲しい。
気づけば大翔は眠っていた。体を起こして佳奈多を見ると、佳奈多も寝息を立てていた。寝た振りじゃない、初日に見た可愛い寝顔だ。大翔は佳奈多の髪を撫でる。佳奈多はむにゃ、と声を上げた。
可愛い。愛おしい。
佳奈多の寝顔を眺めていたら、間もなく朝が来た。もう修学旅行が終わる。待っているのは一人ぼっちの家だ。もう少し、あと少し。スマホの目覚ましが鳴っても佳奈多は起きない。仕方なく大翔は佳奈多を起こした。目覚めた佳奈多は青ざめていた。
怖くないよ、大丈夫だよ。
佳奈多は壁にくっついて俯いて怯えている。もう少し佳奈多に触れたい。そばにいたい。幸せな時間が、もうすぐ終わってしまう。
その日大翔は今まで以上にべったりと佳奈多にくっついて過ごした。もっと触って、匂いをかいでいたい。少しでも佳奈多を感じていたかった。
佳奈多が嫌がることはしたくない。しかし、少しでも繋がっていたい。
リュックの紐を持つことを提案したら佳奈多は頷いてくれた。佳奈多は笑っていた。仕方ないな、と言いたげに。ふにゃっと笑う顔はいつもと同じなのに、いつもより可愛く見えた。
やっぱり佳奈多は可愛い。
大翔は自分の気持ちを改めて思い知った。
その夜、大翔は佳奈多のベッドに入った。もう、今日と明日しか夜一緒にいられない。帰ればまた一人ぼっちの家とベッドが待っている。
昨日、佳奈多はぐっすり眠っていた。見知らぬ環境でもよく眠れるようだ。名前を呼んだが、反応はなかった。やっぱりぐっすり眠っている。
小さな体はすっぽりと腕の中に収まった。佳奈多が少し体を硬くした気がする。大翔は佳奈多の髪に顔を埋めた。
この気持ちをどうしたらいいんだろう。
どうしたいのかもわからず、大翔はただ佳奈多の匂いと体温を感じていた。
次の日も夜、大翔は佳奈多のベッドに忍び込んだ。その日1日、佳奈多はどこかぼんやりと上の空だった。俯いていることが多かった。
まさかまた、誰かに何かされたのだろうか。でもずっと大翔が一緒にいた。大翔以外の誰も、佳奈多に接触していない。
一体どうしたのか。佳奈多が不安に思うことは全て取り除いてあげたい。
昨日よりも強く佳奈多を抱きしめる。目の前には佳奈多の白い首があった。大翔はよく見る猫の動画を思い出した。猫同士の毛づくろい。信頼関係のある猫同士の愛情表現だそうだ。
大丈夫、俺がそばにいるよ。
大翔は佳奈多の首を舐め上げた。
「ひっ…」
佳奈多から声が上がった。佳奈多の体が小刻みに震えている。起きていたのだろうか。
名前を呼んでも返事がないので顔を覗き込んでみる。佳奈多はぎゅっと目を瞑っていた。手を口に当てて震えている。
「かなちゃん。寝てるの?」
佳奈多は何度も頷いた。どう見ても起きている。寝た振りをしていたらしい。眠っているかという問いに頷いてしまう佳奈多の素直さに思わず笑ってしまった。それから大翔は気づいた。
佳奈多が震えているのがどうしてか。
たぶん佳奈多は大翔に怯えている。昨日も、佳奈多は寝た振りをして起きていたのかもしれない。友達が突然布団に入ってきたら、それは確かに怖いだろう。一体どうしてしまったのか不安だし、何をされるのかわからず怖かっただろう。
今日一日どこか影を帯びていたのは自分のせいかもしれない。
大翔は体を横たえて佳奈多を抱きしめる。怖がらないでほしい。大翔はただ佳奈多が大切で守りたいだけで、怯えさせたいわけじゃない。どうか、大翔を受け入れて欲しい。
気づけば大翔は眠っていた。体を起こして佳奈多を見ると、佳奈多も寝息を立てていた。寝た振りじゃない、初日に見た可愛い寝顔だ。大翔は佳奈多の髪を撫でる。佳奈多はむにゃ、と声を上げた。
可愛い。愛おしい。
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怖くないよ、大丈夫だよ。
佳奈多は壁にくっついて俯いて怯えている。もう少し佳奈多に触れたい。そばにいたい。幸せな時間が、もうすぐ終わってしまう。
その日大翔は今まで以上にべったりと佳奈多にくっついて過ごした。もっと触って、匂いをかいでいたい。少しでも佳奈多を感じていたかった。
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