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母に対する裏切りのような行為。佳奈多は喜んでいる。怖がりで泣き虫で、いつも自分を頼ってくれる可愛い佳奈多。大翔の苦しみを知らず、無邪気に微笑む佳奈多。佳奈多にはきっと、決して他意はない。その微笑みはとても幼くて一切汚れていない。無邪気で真っ白で、あまりにも残酷な笑顔だった。こんなに綺麗に笑える佳奈多を、佳奈多だけは、自分が守ってあげなくてはいけない。
大切な人が、明日もそこにいるとは限らないから。
小学校に入学する際にまずしたことは、秘書を通しての父へのお願いだった。佳奈多とずっと同じクラスにしてほしい。同じ幼稚園の、一番仲の良い友達だからと付け加えたら、願いは簡単に叶った。ずっと同じクラスでいられた。寄付金を注ぎ込んでいる父にとって、造作もない願いだったようだ。
父親と言われてもまったくピンとこないあの男を、使ってやろうと思った。学校を卒業したら父とは決別する。それまでに、少し使ってやるくらいはいいだろうと大翔は思っていた。
学園に入学して、周りの大翔を見る目が変わった。今までは母が隠して守ってくれていたのだろうと思う。名字が変わり、学園内では大翔が松本頭取の息子であるということを、皆が知っていた。生徒も教師も、だ。大翔を松本頭取の息子として崇め奉った。
後で知ったことだが松本家はこの銀行の創始者というだけではなく、いくつかの土地を所有する地主でもあった。その土地の規模たるや、いわゆる大地主で、旧家だった。
この地域では大きな権限を持つ松本家に取り入りたいものは沢山いた。逆に目をつけられるとこの地では生活がしていかれなくなる。真偽の程はわからず、大翔はくだらないと思うが、大人達は信じていた。その大人達の子供である同級生達も、信じて疑わなかった。
大翔が庇護している佳奈多を同級生達は良く思っていなかった。大翔は佳奈多を守りたいだけで、同級生がどう思っていようが関係なかった。
しかしある時、少し目を離した隙に佳奈多は同級生達に囲まれてしまっていた。怖がりで臆病な佳奈多は声も出せずに震えている。大翔は頭が真っ白になった。
何があった?どうしてこいつらは、かなちゃんを傷つける?
考えると同時に足が出ていた。幼稚園の頃から空手を習っている。『強い男であれ、大切な者と自身を守れるように』という母の言葉を、今も大翔は胸に刻んでいる。佳奈多に足を振り上げた男子生徒は吹っ飛んでいった。
何をしていたのか問うても男子生徒は答えない。大翔はこの男子生徒の名前を知らない。覚えていない。大翔にとって名もない、意識に残らない人間だ。しかし佳奈多を傷つけた。これは許されない行為だ。どうしてやろうか。
同級生の上げた小さな声に振り返ると、佳奈多の足元が濡れていた。声も出さず立ち尽くして、泣いて失禁する佳奈多に気づくのが遅れてしまった。保健室に連れていくと、佳奈多は赤くなって震えていた。
佳奈多の濡れた股間に触れる。幼稚園児のころ、佳奈多はよくトイレを失敗して泣いていた。トイレトレニーングが上手くいかないと、佳奈多の母が幼稚園の先生にこぼしていたのをきいたことがある。佳奈多が失禁をして泣く度に、大翔が慰めて励ましていた。
佳奈多はあの頃と変わらない。母がいて、幸せだったあの頃と。
佳奈多はこのまま、あの頃のまま、変わらないでいてほしい。佳奈多は、松本姓を名乗るようになった大翔に対して態度を急変させた周りの人間とは違う。そのためにも、大翔が佳奈多を守ってやらなければならない。
大切な、昔のままのかなちゃん。もうこんなことが起きないように、もっとちゃんと、守ってあげなきゃ。
そんな気持ちが次第に変化していった。佳奈多を見ているとそわそわと落ち着かない気持ちになる。温かな幸せな気持ちになるときもあれば、腹の中に冷たい鉄を流し込まれたような気分になる時もあった。そばにいるだけで幸せ。でも周りの人間の佳奈多に対する悪意はもちろん、好意すら腹立たしい時がある。
大切な人が、明日もそこにいるとは限らないから。
小学校に入学する際にまずしたことは、秘書を通しての父へのお願いだった。佳奈多とずっと同じクラスにしてほしい。同じ幼稚園の、一番仲の良い友達だからと付け加えたら、願いは簡単に叶った。ずっと同じクラスでいられた。寄付金を注ぎ込んでいる父にとって、造作もない願いだったようだ。
父親と言われてもまったくピンとこないあの男を、使ってやろうと思った。学校を卒業したら父とは決別する。それまでに、少し使ってやるくらいはいいだろうと大翔は思っていた。
学園に入学して、周りの大翔を見る目が変わった。今までは母が隠して守ってくれていたのだろうと思う。名字が変わり、学園内では大翔が松本頭取の息子であるということを、皆が知っていた。生徒も教師も、だ。大翔を松本頭取の息子として崇め奉った。
後で知ったことだが松本家はこの銀行の創始者というだけではなく、いくつかの土地を所有する地主でもあった。その土地の規模たるや、いわゆる大地主で、旧家だった。
この地域では大きな権限を持つ松本家に取り入りたいものは沢山いた。逆に目をつけられるとこの地では生活がしていかれなくなる。真偽の程はわからず、大翔はくだらないと思うが、大人達は信じていた。その大人達の子供である同級生達も、信じて疑わなかった。
大翔が庇護している佳奈多を同級生達は良く思っていなかった。大翔は佳奈多を守りたいだけで、同級生がどう思っていようが関係なかった。
しかしある時、少し目を離した隙に佳奈多は同級生達に囲まれてしまっていた。怖がりで臆病な佳奈多は声も出せずに震えている。大翔は頭が真っ白になった。
何があった?どうしてこいつらは、かなちゃんを傷つける?
考えると同時に足が出ていた。幼稚園の頃から空手を習っている。『強い男であれ、大切な者と自身を守れるように』という母の言葉を、今も大翔は胸に刻んでいる。佳奈多に足を振り上げた男子生徒は吹っ飛んでいった。
何をしていたのか問うても男子生徒は答えない。大翔はこの男子生徒の名前を知らない。覚えていない。大翔にとって名もない、意識に残らない人間だ。しかし佳奈多を傷つけた。これは許されない行為だ。どうしてやろうか。
同級生の上げた小さな声に振り返ると、佳奈多の足元が濡れていた。声も出さず立ち尽くして、泣いて失禁する佳奈多に気づくのが遅れてしまった。保健室に連れていくと、佳奈多は赤くなって震えていた。
佳奈多の濡れた股間に触れる。幼稚園児のころ、佳奈多はよくトイレを失敗して泣いていた。トイレトレニーングが上手くいかないと、佳奈多の母が幼稚園の先生にこぼしていたのをきいたことがある。佳奈多が失禁をして泣く度に、大翔が慰めて励ましていた。
佳奈多はあの頃と変わらない。母がいて、幸せだったあの頃と。
佳奈多はこのまま、あの頃のまま、変わらないでいてほしい。佳奈多は、松本姓を名乗るようになった大翔に対して態度を急変させた周りの人間とは違う。そのためにも、大翔が佳奈多を守ってやらなければならない。
大切な、昔のままのかなちゃん。もうこんなことが起きないように、もっとちゃんと、守ってあげなきゃ。
そんな気持ちが次第に変化していった。佳奈多を見ているとそわそわと落ち着かない気持ちになる。温かな幸せな気持ちになるときもあれば、腹の中に冷たい鉄を流し込まれたような気分になる時もあった。そばにいるだけで幸せ。でも周りの人間の佳奈多に対する悪意はもちろん、好意すら腹立たしい時がある。
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