黒い春 本編完結 (BL)

Oj

文字の大きさ
上 下
26 / 153

26

しおりを挟む
怒気を押し殺した声で大翔は佳奈多の父に言って頭を下げた。父は何度も頷いていた。
リビングのガラス窓が割れていた。窓のそばには石でできた小人の人形が転がっていた。母が、佳奈多に似ていると言って買ってきた置物だ。大翔が投げ込んで、鍵と窓を開けて靴のまま入ってきたらしい。
玄関に寄って、大翔は靴を脱いで置いた。階段を登って佳奈多の部屋に向かう。
「大翔君、怪我、ない?」
「大丈夫だよ。かなちゃんこそ…顔、…」
大翔は辛そうな顔をした。まるで自分が殴られたかのように。佳奈多の部屋で、大翔はきつく佳奈多を抱きしめた。佳奈多は窒息しそうになりながら、大翔の胸に頬を寄せる。
「制服とか、勉強、道具とか、持っていっていい?」
「うん。早く帰ろう。帰ったら、話、聞かせて」
持ち出す荷物はそんなにない。元々何度も大翔の家に泊まっていたので、いつものお泊りの荷物に少し追加するだけだ。あとは全てここに置いていく。階段を降りて玄関で靴を履く。父が動いた気配はない。
佳奈多は大翔と手を繋いで、振り返ることなく大翔の家に向かった。




大翔の家で、佳奈多は保冷剤で頬を冷やした。怪我自体は大したことはないと思う。痛みも腫れもほとんどない。しかし大翔は何度も病院に行こうと言い、角度を変えて何枚も佳奈多の頬の写真を撮った。
「気づけなくて、ごめん、かなちゃん…いつから、こんな…」
佳奈多は首を横に振る。
「今までは、お母さんが、殴られてたから。お父さん、よく怒って、お母さん殴ってた。前からよく、お母さん家に、いなかったんだけど、先月から、お母さん、いなくなっちゃって、帰ってこなくて」
だから矛先が佳奈多に向いた。佳奈多は思い出しながら一つ一つ大翔に伝えていく。
どうして、いつからこうなったのか。
幼い頃から父は母を叱りつけることが多かった。結婚前からなのか結婚した後からなのか、佳奈多は知らない。母が出ていくことになった経緯もわからない。母が出ていったのはあの金髪の男性が絡んでいるんだろうけれど、詳しい事情はわからない。わかったところで、きっと母は帰ってこない。
大翔は眉間に皺を寄せて、唇を噛み締めていた。まるで自分のことのように苦しんでいる。
「…辛かった、よね、かなちゃん…かなちゃん、他に、傷は」
辛かったのかどうなのか。今となってはもうわからない。佳奈多はぼんやりと大翔を眺めた。
「お父さんに殴られたの、今日が、初めてだから。体に、傷が、ないの…大翔君、知ってるでしょ」
佳奈多は思わず笑ってしまった。あんなに丁寧に、体中舐め回すように洗っていたのに。気づかないはずがない。なんだか面白くて、笑いが止まらなかった。
「かなちゃん」
「ふふ、へ、へふっ、ははは、あはっ、ふははっ、はぁ……あ、勝手に、ひろくんち行くって、言って、ごめんね…今日から、ご迷惑、おかけします」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...