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「…おかえり。テストはどうだったんだ。出しなさい」
父に言われて佳奈多は解答用紙を父に差し出した。父は目を通してから佳奈多に投げつけた。
「なんだ!この、数学と科学の、点数は!」
父がテーブルを叩きつける。音に、佳奈多の体はびくんと揺れる。コンビニの、あのおじさんを思い出した。
「なんで70点台なんだ、恥ずかしくないのか!こんな点数で…」
「ごめん、なさい」
「お前も馬鹿にしてるのか?母さんと一緒で…あの女と!一緒で!!」
「…してないです」
「嘘をつけぇ!!」
父が拳を振り上げる。佳奈多の左の頬を父の手のひらが張り倒した。椅子に座っていた佳奈多は転がり落ちてしまった。椅子が倒れて大きな音を立てる。
お母さんの嘘つき。お父さん、僕のこと殴ったよ。
佳奈多は胸の中で呟いた。こうなることはわかっていた。父は母がいたから佳奈多に手を出さなかっただけだ。床に転がる佳奈多に父は馬乗りになった。きっと母以上に、同性の佳奈多に容赦なく暴力をふるうだろう。この人はそういう人だ。自分より弱い人間を攻撃することで自分を保ってる。コンビニのおじさんと同類だ。そんなことを、ぼんやりと考えた。
佳奈多が体を丸めて身を守ろうとした時、ガラスの割れる音がした。次の瞬間、佳奈多に被さっていた父は吹っ飛んでいた。
「お前っ……かなちゃんの、父親だろ!」
「ひろくん!だめ!!」
怒鳴り声と共に、大翔が拳を振り上げた。佳奈多は叫んで止めた。大翔は拳を父に振り下ろす直前で止まった。佳奈多は大翔と父の間に割って入り、大翔を父から離した。荒い呼吸を繰り返して拳を握りしめる大翔を佳奈多は抱きしめた。背中をさすって大翔を落ち着かせる。
「だめだよ、殴っちゃ、だめ」
食いしばった歯の隙間からふぅふぅと呼吸する大翔は、見たことのない顔をしていた。大翔は本気で怒っている。
佳奈多の父は鼻から血を流して震えていた。ぶつかった時に鼻を打ったのだろうか。怯えた顔で大翔を見ていた。
さっき別れたはずの大翔がなぜ、ここにいるのだろう。もしかしたら佳奈多を心配してついてきていたのかもしれない。大翔は心配性だ。大翔が父を殴らなくて良かった。この人を殴ったら、大翔はこの人と同じところに落ちてしまう。警察沙汰になって大翔が捕まったら、佳奈多の居場所がなくなってしまう。
大翔が来てくれて、丁度良かった。佳奈多は思い描いていた希望を口にした。
「お父さん。僕、大翔君の家に、行く。学校のお金、スマホも、払って、下さい。他に、必要な時は、ここに来るから。…大翔君、いい?」
大翔は驚いていたが、頷いた。佳奈多は感謝の意を込めて、大翔の頭を抱きしめて撫でた。大翔は落ち着いたようだ。とんとんと大翔の背中を叩いてから、佳奈多は大翔の手を引いた。
「ひろくん、荷物、まとめるから、一緒に来て。お父さん、警察とか、児童相談所には、言わないでおいて、あげるから」
佳奈多は大翔を連れて自室に向かう。リビングを出る前に、佳奈多は床にへたり込んだままの父を見下ろした。父は目を合わそうとしなかった。隣に大翔がいるからだ。
よく見ると父は失禁していた。幼い頃、佳奈多はクラスメイトに囲まれて失禁したことがある。クラスメイトよりも、大翔の言葉と暴力が怖かった。大翔への恐怖で下が緩くなるのは遺伝だろうか。佳奈多は小さく笑った。
「…佳奈多君がここに来る時は、俺も来ます。必ず。ガラス、すみませんでした」
父に言われて佳奈多は解答用紙を父に差し出した。父は目を通してから佳奈多に投げつけた。
「なんだ!この、数学と科学の、点数は!」
父がテーブルを叩きつける。音に、佳奈多の体はびくんと揺れる。コンビニの、あのおじさんを思い出した。
「なんで70点台なんだ、恥ずかしくないのか!こんな点数で…」
「ごめん、なさい」
「お前も馬鹿にしてるのか?母さんと一緒で…あの女と!一緒で!!」
「…してないです」
「嘘をつけぇ!!」
父が拳を振り上げる。佳奈多の左の頬を父の手のひらが張り倒した。椅子に座っていた佳奈多は転がり落ちてしまった。椅子が倒れて大きな音を立てる。
お母さんの嘘つき。お父さん、僕のこと殴ったよ。
佳奈多は胸の中で呟いた。こうなることはわかっていた。父は母がいたから佳奈多に手を出さなかっただけだ。床に転がる佳奈多に父は馬乗りになった。きっと母以上に、同性の佳奈多に容赦なく暴力をふるうだろう。この人はそういう人だ。自分より弱い人間を攻撃することで自分を保ってる。コンビニのおじさんと同類だ。そんなことを、ぼんやりと考えた。
佳奈多が体を丸めて身を守ろうとした時、ガラスの割れる音がした。次の瞬間、佳奈多に被さっていた父は吹っ飛んでいた。
「お前っ……かなちゃんの、父親だろ!」
「ひろくん!だめ!!」
怒鳴り声と共に、大翔が拳を振り上げた。佳奈多は叫んで止めた。大翔は拳を父に振り下ろす直前で止まった。佳奈多は大翔と父の間に割って入り、大翔を父から離した。荒い呼吸を繰り返して拳を握りしめる大翔を佳奈多は抱きしめた。背中をさすって大翔を落ち着かせる。
「だめだよ、殴っちゃ、だめ」
食いしばった歯の隙間からふぅふぅと呼吸する大翔は、見たことのない顔をしていた。大翔は本気で怒っている。
佳奈多の父は鼻から血を流して震えていた。ぶつかった時に鼻を打ったのだろうか。怯えた顔で大翔を見ていた。
さっき別れたはずの大翔がなぜ、ここにいるのだろう。もしかしたら佳奈多を心配してついてきていたのかもしれない。大翔は心配性だ。大翔が父を殴らなくて良かった。この人を殴ったら、大翔はこの人と同じところに落ちてしまう。警察沙汰になって大翔が捕まったら、佳奈多の居場所がなくなってしまう。
大翔が来てくれて、丁度良かった。佳奈多は思い描いていた希望を口にした。
「お父さん。僕、大翔君の家に、行く。学校のお金、スマホも、払って、下さい。他に、必要な時は、ここに来るから。…大翔君、いい?」
大翔は驚いていたが、頷いた。佳奈多は感謝の意を込めて、大翔の頭を抱きしめて撫でた。大翔は落ち着いたようだ。とんとんと大翔の背中を叩いてから、佳奈多は大翔の手を引いた。
「ひろくん、荷物、まとめるから、一緒に来て。お父さん、警察とか、児童相談所には、言わないでおいて、あげるから」
佳奈多は大翔を連れて自室に向かう。リビングを出る前に、佳奈多は床にへたり込んだままの父を見下ろした。父は目を合わそうとしなかった。隣に大翔がいるからだ。
よく見ると父は失禁していた。幼い頃、佳奈多はクラスメイトに囲まれて失禁したことがある。クラスメイトよりも、大翔の言葉と暴力が怖かった。大翔への恐怖で下が緩くなるのは遺伝だろうか。佳奈多は小さく笑った。
「…佳奈多君がここに来る時は、俺も来ます。必ず。ガラス、すみませんでした」
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