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動かない大翔に、佳奈多は小さく息をついて目を閉じた。
さすがに毎日大翔の家にはいられないので佳奈多は自宅にも帰宅していた。大翔は心配していたが、近頃は自宅に母の姿も父の姿もないことのほうが多かった。時々は顔を合わせるが、その時間はとても短かい。自宅の中は物が散乱して荒れているが、怒鳴り声や悲鳴が響くことはなかった。誰もいない自宅を戸締まりして一人自室で眠りにつく。時々聞こえる家の軋む音に怯えながら、佳奈多は夜を過ごす。大翔の家なら大翔が必ずいる。週に何度か空手で夜にいなくなることはあったが、必ず帰ってきた。同い年の少年が習い事が終わり次第帰って来るのは当然といえば当然だが、帰ってきてくれる大翔に安堵していた。
大翔には佳奈多の自宅で何があったのかを伝えてはいない。そもそも何があってここまで荒れ果てたのか、佳奈多は知らないからだ。佳奈多のことで余計な心配をかければ、大翔はどんな行動に出るかわからない。佳奈多は大翔に対して家庭のことは『わからない』を貫き通した。
そして高校に進学する直前。母が家から出ていった。
佳奈多はその日、自宅にいた。母が帰宅したと思ったら見知らぬ男性も室内に入ってきた。男性は若く、頭を金色に染めた派手な男性だった。母の貴重品やら私物やらを次々に持ち出していく。佳奈多は邪魔にならない場所に立って、眺めていた。久しぶりに見た母は痣や傷は目立たなくなっていて、お化粧をして華やかな服を着ていた。普段と比べたら派手な出で立ちの母に、佳奈多は母もこんな格好をするんだな、と思った。もうすぐ日が暮れる。台所を漁る母に、佳奈多は声をかけた。
「お母さん、今日の、ご飯…僕、ハンバーグ食べたい」
振り返った母は驚いたあと、笑った。母は手にした封筒からお札を数枚抜いて、佳奈多に手渡した。
「好きなもの買って、食べなさい。体に、気を付けて。大丈夫よ。もう、高校生になるんだし…あなたはお父さんに、殴られないから」
母は泣き笑いの表情を浮かべて佳奈多の頭を撫でた。男が母を促す。母は外に止めてあった車に乗り込んで、それっきりになった。
数日後父が帰宅した。佳奈多は母からもらった現金と大翔のお手伝いさんのお陰で食事は取れていた。
「あいつは、…お母さんは、どこだ」
「わからない。知らない」
父の問いに、佳奈多は答えた。あの男が誰なのか、母がどこにいったのか、佳奈多は本当に知らなかった。父はソファで項垂れていた。
母が出ていってから2週間が経った。佳奈多は高校へ進学が目前に迫っていた。学内の進学なので受験はなく、学年末のテストがその変わりだ。佳奈多は70~80点台を取ることができた。苦手な数学と科学は80点台に届かなかった。
「大丈夫?かなちゃん。今日、帰って…」
「うん、大丈夫」
大翔は自宅に帰ると言った佳奈多を心配していた。苦手な科目はともかく他が80点台なので父も怒りはしないだろう。そう考えて思い出した。佳奈多が泣きながら大翔の家に行った日、父にテストの点数が低くて叱られたと伝えた。だから大翔は佳奈多の帰宅を心配しているのだろう。そういえばそんなこともあった。たった数ヶ月前のことを、忘れていた。母がいなくなってから、なんだかいつも頭がぼんやりしている。
「かなちゃん、気をつけてね」
「うん。またあした」
大翔の家の近くで別れる。佳奈多は自宅に向けて歩き出した。大翔の家から佳奈多の家は歩いてすぐだ。気づけばあっという間に、自宅についていた。佳奈多は鍵を開けて自宅に入る。家の中には父がいた。
さすがに毎日大翔の家にはいられないので佳奈多は自宅にも帰宅していた。大翔は心配していたが、近頃は自宅に母の姿も父の姿もないことのほうが多かった。時々は顔を合わせるが、その時間はとても短かい。自宅の中は物が散乱して荒れているが、怒鳴り声や悲鳴が響くことはなかった。誰もいない自宅を戸締まりして一人自室で眠りにつく。時々聞こえる家の軋む音に怯えながら、佳奈多は夜を過ごす。大翔の家なら大翔が必ずいる。週に何度か空手で夜にいなくなることはあったが、必ず帰ってきた。同い年の少年が習い事が終わり次第帰って来るのは当然といえば当然だが、帰ってきてくれる大翔に安堵していた。
大翔には佳奈多の自宅で何があったのかを伝えてはいない。そもそも何があってここまで荒れ果てたのか、佳奈多は知らないからだ。佳奈多のことで余計な心配をかければ、大翔はどんな行動に出るかわからない。佳奈多は大翔に対して家庭のことは『わからない』を貫き通した。
そして高校に進学する直前。母が家から出ていった。
佳奈多はその日、自宅にいた。母が帰宅したと思ったら見知らぬ男性も室内に入ってきた。男性は若く、頭を金色に染めた派手な男性だった。母の貴重品やら私物やらを次々に持ち出していく。佳奈多は邪魔にならない場所に立って、眺めていた。久しぶりに見た母は痣や傷は目立たなくなっていて、お化粧をして華やかな服を着ていた。普段と比べたら派手な出で立ちの母に、佳奈多は母もこんな格好をするんだな、と思った。もうすぐ日が暮れる。台所を漁る母に、佳奈多は声をかけた。
「お母さん、今日の、ご飯…僕、ハンバーグ食べたい」
振り返った母は驚いたあと、笑った。母は手にした封筒からお札を数枚抜いて、佳奈多に手渡した。
「好きなもの買って、食べなさい。体に、気を付けて。大丈夫よ。もう、高校生になるんだし…あなたはお父さんに、殴られないから」
母は泣き笑いの表情を浮かべて佳奈多の頭を撫でた。男が母を促す。母は外に止めてあった車に乗り込んで、それっきりになった。
数日後父が帰宅した。佳奈多は母からもらった現金と大翔のお手伝いさんのお陰で食事は取れていた。
「あいつは、…お母さんは、どこだ」
「わからない。知らない」
父の問いに、佳奈多は答えた。あの男が誰なのか、母がどこにいったのか、佳奈多は本当に知らなかった。父はソファで項垂れていた。
母が出ていってから2週間が経った。佳奈多は高校へ進学が目前に迫っていた。学内の進学なので受験はなく、学年末のテストがその変わりだ。佳奈多は70~80点台を取ることができた。苦手な数学と科学は80点台に届かなかった。
「大丈夫?かなちゃん。今日、帰って…」
「うん、大丈夫」
大翔は自宅に帰ると言った佳奈多を心配していた。苦手な科目はともかく他が80点台なので父も怒りはしないだろう。そう考えて思い出した。佳奈多が泣きながら大翔の家に行った日、父にテストの点数が低くて叱られたと伝えた。だから大翔は佳奈多の帰宅を心配しているのだろう。そういえばそんなこともあった。たった数ヶ月前のことを、忘れていた。母がいなくなってから、なんだかいつも頭がぼんやりしている。
「かなちゃん、気をつけてね」
「うん。またあした」
大翔の家の近くで別れる。佳奈多は自宅に向けて歩き出した。大翔の家から佳奈多の家は歩いてすぐだ。気づけばあっという間に、自宅についていた。佳奈多は鍵を開けて自宅に入る。家の中には父がいた。
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