黒い春 本編完結 (BL)

Oj

文字の大きさ
上 下
22 / 152

22

しおりを挟む
父の、怯えたような媚びるような声に佳奈多はすこし安堵した。このまま父が落ち着いて、母に何事もなくいてくれたらいい。佳奈多は通話を切った。
「…かなちゃん、おいで。うちに行こう」
大翔に促されてエレベーターに乗り込む。大翔は間髪入れずに佳奈多をと向き合った。
「お父さん、すごく怒ってたね…どうしたの?何があったの?」
「ぼっ…僕の、成績が、悪かったから…この前の、テスト、の」
「でも、80点超えてたよね…かなちゃん、頑張ったのに…」
大翔は佳奈多の頭を撫でる。大翔の胸に抱きしめられて、佳奈多はしゃくりあげて泣いた。
本当は違う。違うけれど、じゃあなぜ泣いているのか、佳奈多はにうまく説明が思いつかなかった。
お父さんが怖い。お母さんも。家の中が、壊れている。
口に出すのが怖くて、佳奈多は大翔にしがみついて泣いた。


大翔の自宅で、佳奈多はソファに座ってぼんやりと外を眺めていた。キラキラと街の灯りが見える。
大翔はコンビニへ夕食を買いに行ってくれている。大翔の自宅に夕食は1人分しかない。二人で食べるには足りないので、コンビニのご飯と半分ずつ食べようと提案してくれた。本当は佳奈多も行くべきだったが、やはり夜のコンビニに行くのは怖い。大翔に正直に伝えて謝ると、大翔はまた佳奈多を強く抱きしめた。
『かなちゃんはなにも、悪くないよ。俺が買ってくるから。待っててね』
頭を撫でられて、また涙が溢れた。ゲームをして待っているように言われたが、佳奈多はゲームは起動せず、じっとソファに座っていた。
相変わらず広くて人気のない大翔の家。もう来ることはないと思っていたのに、また来てしまった。大翔が怖いのに、佳奈多はすぐ大翔に甘えてしまう。それでもあの家にいるのはもう限界だった。元々父は怒りやすく、母が叱られることも少なくなかった。しかし今父は常軌を逸していると思う。どうして両親があそこまで不仲になってしまったのか。佳奈多は立てた膝を強く抱え込んだ。
これからどうなってしまうのだろう。佳奈多はどうしたら良いのだろう。
リビングの扉から音がして顔を向けると、大翔が帰ってきたところだった。
「ただいま。良かった…かなちゃん、いた」
佳奈多はソファから立ち上がって大翔を迎えた。コンビニの袋を見ていたら、佳奈多のお腹が鳴った。お腹が空いた。今日の晩ごはんは何だったのだろう。 
大翔の家の家政婦さんのご飯とコンビニの弁当と、半分にして大翔と食べた。
お風呂に入り、佳奈多は大翔のベッドに横になる。明日は学校がある。大翔にタブレットを渡されたが、とても動画を見る気分にはならなかった。大翔は風呂に入っている。佳奈多は疲れのせいか、うとうとと眠りに落ちていった。


また、背後で大翔が動いていている。佳奈多は目を覚ましてしまった。やっぱり夢じゃなく、これは現実だ。大翔は自慰をしている。
しかし、大翔が自宅のベッドで自慰をしていることを責める権利は佳奈多にない。特に今日は無理矢理おしかけて泊まりに来ている。佳奈多はもう一度寝てしまおうと目を閉じた。佳奈多自身になにかされるわけでもない。2回目ということもあって、佳奈多は力を抜いて眠りに戻ろうとした。
「かなちゃ、ん、…かなちゃん。好き、好きだ、かなちゃん…」
佳奈多は閉じた目を見開いた。今の大翔は何と言ったのか。考えている間も大翔はうわ言のようにつぶやく。
「好き、好きだよ、かなちゃん、かなちゃん、っ、」
どんどん大翔の動きが早まって、大翔は止まった。荒い呼吸が背後で聞こえる。少しして、紙の擦れる音がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

処理中です...