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「…ご飯、まだなの。待てる?」
「あ、…ぅ、うん。待てる。あの、大翔君のお家、楽しかった。迷惑も、かけてな」
「そう」
母はゆっくり立ち上がってキッチンに向かっていった。佳奈多の話を遮り、それ以上聞く気はないと言わんばかりの姿に、佳奈多はリビングを出た。父は書斎にいるのだろうか。静かな家の中を自室に向けて歩く。
大翔の話を聞きたがるだろうと思っていた母の反応。荒れたリビング。いるはずなのに見当たらない父の姿。
大翔の家に泊まっていたたった2日で、自宅の様子が大きく変わってしまった。荷物の片付けをしながら、佳奈多は言いしれぬ不安に包まれた。その日の夕食に、父の姿はなかった。父の姿か見えないまま、佳奈多は朝を迎えた。
父の姿のない朝食を終えて登校の支度をし、玄関を出る。外には大翔がいた。
「おはよう、かなちゃん」
「お、おはよう」
いつも通り、学校へ向けて歩き出す。結局昨夜から今朝まで、父の姿をみることはなかった。今まで、こんなことはなかった。いつもとは違う自宅に、佳奈多は不安だった。一体何があったのか。母はいつもよりも感情をなくしてしまったかのように見えた。夕食も朝食も必要最低限の言葉しか発さなかった。あんなに抑揚のない母は見たことがない。
何かが起きている。それがなんなのか、佳奈多にはわからない。
「どうしたの?かなちゃん。具合、悪い?」
大翔が佳奈多の頬に触れる。心配そうな大翔に首を振った。相談したくても、何を相談したら良いのかわからない。
「な、なんでも、なんにもないよ。また、ゲーム、したいね」
佳奈多の言葉に、大翔は嬉しそうに笑う。佳奈多はしまった、と思った。まるで次の約束かのような言葉に、大翔は喜んでいる。もう大翔の家には行けないのに。変に期待をさせてしまった。大翔に申し訳ないし、良くないことをしてしまった。
しかし大翔の笑顔に、佳奈多はほっとした。大翔の笑顔はとても無邪気だった。柔和な空気の、昔の大翔がいてくれている気がして心強かった。
その日も学校で勉強をしてから帰宅した。帰宅早々、リビングから怒鳴り声と叫び声が聞こえた。
「このっクソ女が!どうしてあの男がこの家にっ!!」
「やめて、あなた、やめてぇ!彼は、彼は私の、大切な…キャーッ!!」
ガシャンと何かが割れる音がした。佳奈多は階段を駆け上がって自室に飛び込んだ。毛布に包まって、嵐が過ぎるのを待つ。通報するべきか迷っているうちに、階下は静かになった。突然のシンとした空気に、佳奈多は余計に、怖くなった。もしかしたら、父が母のことを。
佳奈多は恐る恐る階段を降りた。今日、リビングには明かりが灯っている、中を覗くと、父がソファに座っていた。母は床に座って俯いている。中に入れず、扉の縁を握ったまま固まる佳奈多に父が気づいた。父は佳奈多に笑いかける。
「お帰り、佳奈多。いつ帰ってきたんだ?気づかなかったよ」
父は両手を広げている。母はのっそりと立ち上がると、キッチンに消えた。佳奈多は荒れた室内に入り、父の傍に寄る。佳奈多は父に抱きしめられて、膝に座らされた。こんなことは幼稚園児の頃以来だと思う。
「佳奈多は、パパの味方だよな。なぁー?」
父は笑っている。父の目が何を見ているのかわからない。小学校の受験を前に、パパと呼ぶなと叱られてから、佳奈多は父をお父さんと呼ぶようにしていた。父自身も自分を父さんと呼称していた。
佳奈多は父に、曖昧に笑う。意図がわからず、どう返したら良いのかわからない。
「可愛いなぁ、佳奈多。あの女とは、大違いだ」
「あ、…ぅ、うん。待てる。あの、大翔君のお家、楽しかった。迷惑も、かけてな」
「そう」
母はゆっくり立ち上がってキッチンに向かっていった。佳奈多の話を遮り、それ以上聞く気はないと言わんばかりの姿に、佳奈多はリビングを出た。父は書斎にいるのだろうか。静かな家の中を自室に向けて歩く。
大翔の話を聞きたがるだろうと思っていた母の反応。荒れたリビング。いるはずなのに見当たらない父の姿。
大翔の家に泊まっていたたった2日で、自宅の様子が大きく変わってしまった。荷物の片付けをしながら、佳奈多は言いしれぬ不安に包まれた。その日の夕食に、父の姿はなかった。父の姿か見えないまま、佳奈多は朝を迎えた。
父の姿のない朝食を終えて登校の支度をし、玄関を出る。外には大翔がいた。
「おはよう、かなちゃん」
「お、おはよう」
いつも通り、学校へ向けて歩き出す。結局昨夜から今朝まで、父の姿をみることはなかった。今まで、こんなことはなかった。いつもとは違う自宅に、佳奈多は不安だった。一体何があったのか。母はいつもよりも感情をなくしてしまったかのように見えた。夕食も朝食も必要最低限の言葉しか発さなかった。あんなに抑揚のない母は見たことがない。
何かが起きている。それがなんなのか、佳奈多にはわからない。
「どうしたの?かなちゃん。具合、悪い?」
大翔が佳奈多の頬に触れる。心配そうな大翔に首を振った。相談したくても、何を相談したら良いのかわからない。
「な、なんでも、なんにもないよ。また、ゲーム、したいね」
佳奈多の言葉に、大翔は嬉しそうに笑う。佳奈多はしまった、と思った。まるで次の約束かのような言葉に、大翔は喜んでいる。もう大翔の家には行けないのに。変に期待をさせてしまった。大翔に申し訳ないし、良くないことをしてしまった。
しかし大翔の笑顔に、佳奈多はほっとした。大翔の笑顔はとても無邪気だった。柔和な空気の、昔の大翔がいてくれている気がして心強かった。
その日も学校で勉強をしてから帰宅した。帰宅早々、リビングから怒鳴り声と叫び声が聞こえた。
「このっクソ女が!どうしてあの男がこの家にっ!!」
「やめて、あなた、やめてぇ!彼は、彼は私の、大切な…キャーッ!!」
ガシャンと何かが割れる音がした。佳奈多は階段を駆け上がって自室に飛び込んだ。毛布に包まって、嵐が過ぎるのを待つ。通報するべきか迷っているうちに、階下は静かになった。突然のシンとした空気に、佳奈多は余計に、怖くなった。もしかしたら、父が母のことを。
佳奈多は恐る恐る階段を降りた。今日、リビングには明かりが灯っている、中を覗くと、父がソファに座っていた。母は床に座って俯いている。中に入れず、扉の縁を握ったまま固まる佳奈多に父が気づいた。父は佳奈多に笑いかける。
「お帰り、佳奈多。いつ帰ってきたんだ?気づかなかったよ」
父は両手を広げている。母はのっそりと立ち上がると、キッチンに消えた。佳奈多は荒れた室内に入り、父の傍に寄る。佳奈多は父に抱きしめられて、膝に座らされた。こんなことは幼稚園児の頃以来だと思う。
「佳奈多は、パパの味方だよな。なぁー?」
父は笑っている。父の目が何を見ているのかわからない。小学校の受験を前に、パパと呼ぶなと叱られてから、佳奈多は父をお父さんと呼ぶようにしていた。父自身も自分を父さんと呼称していた。
佳奈多は父に、曖昧に笑う。意図がわからず、どう返したら良いのかわからない。
「可愛いなぁ、佳奈多。あの女とは、大違いだ」
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