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「そろそろ朝ご飯食べよ。今日はちょっと、勉強しないと」
微笑む大翔に、佳奈多は頷いた。大翔はいつも通りの大翔だった。さっきが嘘のように。さっきの、自慰をしていた大翔は夢だ。そうじゃなければ、佳奈多の気のせいだ。
佳奈多はほっと息をついてベッドから出た。ゴミ箱に、昨日はなかったゴミがあったが見ないふりをした。
朝食を食べて二人で勉強をする。学年が上がるにつれて増々学校の授業は難しくなっている。特に算数や科学といった理系の学問は佳奈多の苦手な分野で、大翔に教えてもらって頭に叩き込んでいった。大翔の説明は丁寧でわかりやすく、頭に入りやすい。問題もスルスルと解けた。学校の授業はついていくのが精一杯なのに。
「ひろくん、ごめんね。僕、ひろ、大翔君の勉強、邪魔してる」
「…大丈夫だよ。かなちゃんと勉強して、俺も復習してるんだから」
大翔は佳奈多の頭を撫でた。佳奈多は頷いて勉強を続ける。大翔は自分の勉強はせず、佳奈多に教えるか、佳奈多をじっと見つめていた。
勉強の後、昼食を食べてゲームをしていたらあっという間に夕方になった。佳奈多が帰り支度をする間、大翔は真横にべったり張り付いて佳奈多を見ていた。
「かなちゃん、今日も泊まっていきなよ。明日、一緒に学校行こ?」
「だ、だめだよ、そんなに、お泊り…迷惑に、なっちゃうから」
佳奈多は荷物をカバンに詰めこんだ。暗くなる前に帰りたい。ぐちゃぐちゃの中身を押し込んで、佳奈多はチャックを閉めた。鞄を持って玄関に向かう。靴を履く前に、佳奈多は大翔に腕を取られた。
「かなちゃん、また、来てね。いつでも来ていいから。ゲーム、たくさん、しよ?動画も。たくさん、見れるよ」
強く腕を握る大翔に、佳奈多は頷く。ゲームも動画も魅力的だが、やはりこれ以上二人きりになるのは良くない。拒否をしたら帰してもらえなくなる気がして、佳奈多はただ頷いた。
大翔は佳奈多の腕を掴んだまま一緒に外に向かう。エントランスについても、大翔は佳奈多の腕を離さなかった。
「ひ、ひろくん、もう、暗くなっちゃうから」
佳奈多は空を見た。オレンジの夕焼けが鮮やかに広がっている。このまま家に帰りたい。暗くなると、あの日を思い出して動けなくなってしまう。
「俺、かなちゃんの家まで…」
「だめだよ、大翔君きたら、お母さんに、怒られちゃうから…お、お願い、ひろくん、」
大翔に家まで送らせたとわかったら、きっと母は佳奈多を叱るだろう。大翔の手を煩わせたと思われたら、きっと父のことも怒らせてしまう。佳奈多は反対の手で大翔の手に触れる。夕闇が迫っている。早く、一刻も早く帰りたい。震える手で少しずつ大翔の手を引き剥がそうと力を込める。
大翔はぐっと眉間に皺を寄せて、やっと佳奈多の腕を離してくれた。
「じゃあ、大翔君、また明日、ね」
「…気をつけてね」
大翔に手を振り、佳奈多は歩き出した。空は少しずつ暗くなっていく。可能な限り早足で、佳奈多は必死に自宅を目指した。
やはり大翔の家は近い。あっという間に佳奈多は自宅に帰ってこれた。空にはまだ夕焼けのオレンジが見える。佳奈多はほっとして家に入った。
なぜか電気のついていないリビングに入ると、部屋の中は荒れていた。椅子はなぎ倒されて、テーブルも元あった場所から大きくズレている。ソファも別の場所に動いていて、壁は何を投げつけたのかへこんでいた。その全てが夕焼けに照らされて、ソファには母が座っていた。
「おかえりなさい、佳奈多」
母の抑揚のない声に、佳奈多はびくんと体を震わせた。母はなにか、怒っているのだろうか。なぜ部屋の明かりがついていないのか。佳奈多は母の言葉を待った。
微笑む大翔に、佳奈多は頷いた。大翔はいつも通りの大翔だった。さっきが嘘のように。さっきの、自慰をしていた大翔は夢だ。そうじゃなければ、佳奈多の気のせいだ。
佳奈多はほっと息をついてベッドから出た。ゴミ箱に、昨日はなかったゴミがあったが見ないふりをした。
朝食を食べて二人で勉強をする。学年が上がるにつれて増々学校の授業は難しくなっている。特に算数や科学といった理系の学問は佳奈多の苦手な分野で、大翔に教えてもらって頭に叩き込んでいった。大翔の説明は丁寧でわかりやすく、頭に入りやすい。問題もスルスルと解けた。学校の授業はついていくのが精一杯なのに。
「ひろくん、ごめんね。僕、ひろ、大翔君の勉強、邪魔してる」
「…大丈夫だよ。かなちゃんと勉強して、俺も復習してるんだから」
大翔は佳奈多の頭を撫でた。佳奈多は頷いて勉強を続ける。大翔は自分の勉強はせず、佳奈多に教えるか、佳奈多をじっと見つめていた。
勉強の後、昼食を食べてゲームをしていたらあっという間に夕方になった。佳奈多が帰り支度をする間、大翔は真横にべったり張り付いて佳奈多を見ていた。
「かなちゃん、今日も泊まっていきなよ。明日、一緒に学校行こ?」
「だ、だめだよ、そんなに、お泊り…迷惑に、なっちゃうから」
佳奈多は荷物をカバンに詰めこんだ。暗くなる前に帰りたい。ぐちゃぐちゃの中身を押し込んで、佳奈多はチャックを閉めた。鞄を持って玄関に向かう。靴を履く前に、佳奈多は大翔に腕を取られた。
「かなちゃん、また、来てね。いつでも来ていいから。ゲーム、たくさん、しよ?動画も。たくさん、見れるよ」
強く腕を握る大翔に、佳奈多は頷く。ゲームも動画も魅力的だが、やはりこれ以上二人きりになるのは良くない。拒否をしたら帰してもらえなくなる気がして、佳奈多はただ頷いた。
大翔は佳奈多の腕を掴んだまま一緒に外に向かう。エントランスについても、大翔は佳奈多の腕を離さなかった。
「ひ、ひろくん、もう、暗くなっちゃうから」
佳奈多は空を見た。オレンジの夕焼けが鮮やかに広がっている。このまま家に帰りたい。暗くなると、あの日を思い出して動けなくなってしまう。
「俺、かなちゃんの家まで…」
「だめだよ、大翔君きたら、お母さんに、怒られちゃうから…お、お願い、ひろくん、」
大翔に家まで送らせたとわかったら、きっと母は佳奈多を叱るだろう。大翔の手を煩わせたと思われたら、きっと父のことも怒らせてしまう。佳奈多は反対の手で大翔の手に触れる。夕闇が迫っている。早く、一刻も早く帰りたい。震える手で少しずつ大翔の手を引き剥がそうと力を込める。
大翔はぐっと眉間に皺を寄せて、やっと佳奈多の腕を離してくれた。
「じゃあ、大翔君、また明日、ね」
「…気をつけてね」
大翔に手を振り、佳奈多は歩き出した。空は少しずつ暗くなっていく。可能な限り早足で、佳奈多は必死に自宅を目指した。
やはり大翔の家は近い。あっという間に佳奈多は自宅に帰ってこれた。空にはまだ夕焼けのオレンジが見える。佳奈多はほっとして家に入った。
なぜか電気のついていないリビングに入ると、部屋の中は荒れていた。椅子はなぎ倒されて、テーブルも元あった場所から大きくズレている。ソファも別の場所に動いていて、壁は何を投げつけたのかへこんでいた。その全てが夕焼けに照らされて、ソファには母が座っていた。
「おかえりなさい、佳奈多」
母の抑揚のない声に、佳奈多はびくんと体を震わせた。母はなにか、怒っているのだろうか。なぜ部屋の明かりがついていないのか。佳奈多は母の言葉を待った。
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