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佳奈多は大翔に『自宅に泊まりに来てほしい』と言われた。それが大翔のご褒美らしい。佳奈多は何度も逡巡して、珍しく自宅にいた母に伝えた。
「大翔君が、お泊りしにおいでって、言ってて」
遊びに行くだけならともかく、泊まりは駄目だと言われるのではないかと佳奈多は少し期待していた。
「まぁ!いいじゃない、粗相のないようにするのよ?手土産は何がいいかしら」
しかし、佳奈多の期待は嬉しそうな母に見事に打ち砕かれた。佳奈多の両親は大翔と仲良くすることを切望している。母だけでなく父もそうだ。わかりきっていたことだが、駄目だと言ってくれない母に佳奈多は落ち込んでしまう。
あの動画を手元に持つ大翔の頼みを、佳奈多は断れない。佳奈多は大翔の自宅に泊まりに行く事が決定事項となってしまった。
翌週の土曜日。自宅から手土産を持参して佳奈多は大翔の自宅マンションにやってきた。佳奈多の自宅から歩いてすぐで、佳奈多の自宅からも見える大きなマンションだ。エントランスの前に、大翔が待っていた。佳奈多を見ると大翔は嬉しそうに笑って迎えてくれた。
「かなちゃん、待ってたよ。迷わなかった?」
「うん。う、うちからも、見えてるから…大きいね、大翔君のおうち」
大翔の家は俗に言うタワーマンションだ。エントランスを抜けてエレベーターに乗り込むと、大翔は上の方にあるボタンを押した。どんどん増えていく階数に怖くなり、佳奈多は無意識に大翔の服の袖を掴む。エレベーターが到着した。その先の廊下の、眼下に見える景色はどれだけの高さなのだろうか。佳奈多は想像しただけで倒れてしまいそうだった。
しかし、開いた扉の先は屋内だった。左右に1つずつドアが並んでいる。佳奈多は大翔に手を引かれて右側の扉の前にやってきた。
「ここが、俺の家。いつでも遊びに来ていいから、ね」
大翔が鍵を開けて中に入ると広い長い廊下が伸びていた。左右にいくつか扉があるその廊下を、大翔は佳奈多の手を引いたまま歩く。土曜日なので、大翔の両親がいるはずだ。しかし人気がなくとても静かだった。一番奥の扉を開くと広い空間が広がっていた。右手に大きなソファセットの前にこれまた大きなモニターがある。左手には広いキッチンがあり、その前に大きなテーブルと椅子が並んでいた。眼の前は一面窓ガラスがはめられている。佳奈多はキョロキョロと辺りを見渡した。
「とりあえずソファ、座る?お茶持ってくるね」
「あ、あの、これ、お母さんから…」
「わ、ありがとう!もう食べちゃう?」
「う…お、お父さんとか、は?」
佳奈多が大翔に手土産を渡す。お菓子の詰め合わせだった。大翔は喜んでくれたが、大翔と佳奈多だけで食べてしまうのは良くないのではないか。
そもそも、家にお邪魔しているので、挨拶しなければならないい。見渡す限り誰もいないが、自室や書斎にいるのかもしれない。両親からくれぐれも粗相のないように、きちんと挨拶をして心象を良くするようにと何度も何度も釘を刺されている佳奈多は大翔を見た。
「言ってなかったっけ。この家、俺以外誰もいないよ?」
大翔は不思議そうに佳奈多を見た。そんなこと佳奈多はきいていない。初耳だった。目を丸くする佳奈多に、大翔は困り顔で話す。
「夕食とかは家政婦さんが作ってくれるけど、家事をしたらいなくなっちゃうし、土日の分は作り置きを温めるだけだから。今日明日家にいるのは俺と、かなちゃんだけ」
笑う大翔に腰を抱かれて佳奈多は固まった。まさか家に誰も、大翔以外の人がいないなんて思いもしなかった。
「大翔君が、お泊りしにおいでって、言ってて」
遊びに行くだけならともかく、泊まりは駄目だと言われるのではないかと佳奈多は少し期待していた。
「まぁ!いいじゃない、粗相のないようにするのよ?手土産は何がいいかしら」
しかし、佳奈多の期待は嬉しそうな母に見事に打ち砕かれた。佳奈多の両親は大翔と仲良くすることを切望している。母だけでなく父もそうだ。わかりきっていたことだが、駄目だと言ってくれない母に佳奈多は落ち込んでしまう。
あの動画を手元に持つ大翔の頼みを、佳奈多は断れない。佳奈多は大翔の自宅に泊まりに行く事が決定事項となってしまった。
翌週の土曜日。自宅から手土産を持参して佳奈多は大翔の自宅マンションにやってきた。佳奈多の自宅から歩いてすぐで、佳奈多の自宅からも見える大きなマンションだ。エントランスの前に、大翔が待っていた。佳奈多を見ると大翔は嬉しそうに笑って迎えてくれた。
「かなちゃん、待ってたよ。迷わなかった?」
「うん。う、うちからも、見えてるから…大きいね、大翔君のおうち」
大翔の家は俗に言うタワーマンションだ。エントランスを抜けてエレベーターに乗り込むと、大翔は上の方にあるボタンを押した。どんどん増えていく階数に怖くなり、佳奈多は無意識に大翔の服の袖を掴む。エレベーターが到着した。その先の廊下の、眼下に見える景色はどれだけの高さなのだろうか。佳奈多は想像しただけで倒れてしまいそうだった。
しかし、開いた扉の先は屋内だった。左右に1つずつドアが並んでいる。佳奈多は大翔に手を引かれて右側の扉の前にやってきた。
「ここが、俺の家。いつでも遊びに来ていいから、ね」
大翔が鍵を開けて中に入ると広い長い廊下が伸びていた。左右にいくつか扉があるその廊下を、大翔は佳奈多の手を引いたまま歩く。土曜日なので、大翔の両親がいるはずだ。しかし人気がなくとても静かだった。一番奥の扉を開くと広い空間が広がっていた。右手に大きなソファセットの前にこれまた大きなモニターがある。左手には広いキッチンがあり、その前に大きなテーブルと椅子が並んでいた。眼の前は一面窓ガラスがはめられている。佳奈多はキョロキョロと辺りを見渡した。
「とりあえずソファ、座る?お茶持ってくるね」
「あ、あの、これ、お母さんから…」
「わ、ありがとう!もう食べちゃう?」
「う…お、お父さんとか、は?」
佳奈多が大翔に手土産を渡す。お菓子の詰め合わせだった。大翔は喜んでくれたが、大翔と佳奈多だけで食べてしまうのは良くないのではないか。
そもそも、家にお邪魔しているので、挨拶しなければならないい。見渡す限り誰もいないが、自室や書斎にいるのかもしれない。両親からくれぐれも粗相のないように、きちんと挨拶をして心象を良くするようにと何度も何度も釘を刺されている佳奈多は大翔を見た。
「言ってなかったっけ。この家、俺以外誰もいないよ?」
大翔は不思議そうに佳奈多を見た。そんなこと佳奈多はきいていない。初耳だった。目を丸くする佳奈多に、大翔は困り顔で話す。
「夕食とかは家政婦さんが作ってくれるけど、家事をしたらいなくなっちゃうし、土日の分は作り置きを温めるだけだから。今日明日家にいるのは俺と、かなちゃんだけ」
笑う大翔に腰を抱かれて佳奈多は固まった。まさか家に誰も、大翔以外の人がいないなんて思いもしなかった。
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