黒い春 本編完結 (BL)

Oj

文字の大きさ
上 下
8 / 153

8

しおりを挟む
「あぅ、う、わ、わかった、着替え、違うとこで、するから…ひろ君も、僕のこと、み、見ないで」
「着替えを、ってこと?…わかった。かなちゃんの着替え、見ないから」
怖くなった佳奈多は大翔の言葉を遮った。大翔は安堵した様子で頷いた。それから着替えの必要なときは大翔と佳奈多だけ別の教室を使った。教師は何も言わなかった。大翔は毎回佳奈多に背中を向けて着替えていた。何度か大翔を見たが、こちらをみることはなかった。佳奈多の、見ないでほしいという約束をきちんと守ってくれている。
大翔は佳奈多との約束はちゃんと守る。
そんな大翔に、佳奈多はほっとした。見るなと言った自分が疑って大翔の着替えを見るのも申し訳ないので、自然とお互いに背を向けて着替えるようになった。
抱きつかれたり腰を抱かれたり匂いをかがれたり、日に日に接触が激しくなる大翔に慣れたり怯えたりしながら時は過ぎていった。
佳奈多と大翔は中学生になった。


中学生に進級し、外部入学の者も何人か入ってきた。
「松本、君」
進学を機に、佳奈多は大翔の呼び方を変えようと思った。言い慣れない名字で呼ぶと、大翔は鼻に皺を寄せて佳奈多を見た。 
「…かなちゃん。どうしたの?誰かに、何か言われた?」
「あ、違う、違う、けど」
今までのひろ君という呼び方が子供っぽく、必要以上に親しげに感じる。いつも二人でべったりとくっついている佳奈多と大翔に外部入学の生徒は怪訝な目を向けていた。
『あの2人、仲いいっつーか、良すぎない?』
『付き合ってんだよ。小学生の時からアレだし。ずーっと手、繋いでてさ』
『うわ~ラブラブぅ~』
『藤野…あの小さいやつが独占してて』
『みんな、松本君と仲良くなりたいのに』
外部入学生の容赦ない好奇の目と在校生の鬱憤が重なる。小学生の頃に遠巻きにしていた者たちも、進学を機にまた様子が変わってきた。男同士だからと後ろ指指すものもいるが、あからさまに仲の良い佳奈多と大翔を冷やかしたり嫉妬する人間が多かった。
松本頭取の息子である大翔と仲良くしたいのは同級生だけではない。上級生も先生もみな大翔に一目置いていた。その大翔にくっついている佳奈多は悪い意味で同じように注目の的だった。
「いいよ、今まで通りで」
「…じゃあ、大翔君って、呼ぶね」
不機嫌に大翔が言う。佳奈多の提案に、佳奈多の手を握る大翔の力が強くなった。佳奈多は承諾と受け取って息をつく。
中学に上がって、周りの目が変わった。大翔に対する視線は益々強くなった。大翔自身も気が張り詰めているのか、纏う空気が刺々しい。
母が言っていた話で佳奈多自身は詳しくは知らないが、大翔には兄がいて銀行に入行したものの、あまり評判が良くないらしい。悪い人と遊んでいてあまり仕事に来ないそうだ。大翔は勉強も運動も優秀で、松本頭取の後継者は正妻の子の兄ではなく妾の子の大翔ではないかと噂されている。
『大翔君ママと仲良くしてあげてて良かった。これからも末永く大翔君と仲良くするのよ』
母は笑顔で佳奈多に語りかけた。母は春先で肌寒いにも関わらず薄着で、手足の痣が見えている。
佳奈多の方も生活に変化が出ていた。中学生に上がる頃から父親の暴力はますますひどくなっていた。大翔とは比べるまでもないが、周りと比べて佳奈多は成績がよくなかった。運動が得意でないことに加えて勉強もついていくのが精一杯だ。そんな佳奈多の成績に父の怒りは全て母に向いた。
『佳奈多の出来が悪いのはお前のせいだ、お前が全て悪い!』
佳奈多の目の前で行われる暴力に、佳奈多はじっと息を殺していた。
母が暴力を振るわれるのは佳奈多のせいだ。
それを母も、身をもって示しているのだろう。自宅にいるときはいつも腕や足の見える服装だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

僕の部下がかわいくて仕方ない

まつも☆きらら
BL
ある日悠太は上司のPCに自分の画像が大量に保存されているのを見つける。上司の田代は悪びれることなく悠太のことが好きだと告白。突然のことに戸惑う悠太だったが、田代以外にも悠太に想いを寄せる男たちが現れ始め、さらに悠太を戸惑わせることに。悠太が選ぶのは果たして誰なのか?

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

処理中です...