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今まではなんとも思わなかったのに、この年齢で手つなぎをして歩くことに、急に羞恥心が湧いてしまった。小学校でも、いつも当たり前のように大翔が手を繋いでいた。クラスメイト達も何も言ってこなかった。噂をしていたのかもしれないが、クラスメイト達と佳奈多との間には距離があったせいで、耳に入って来なかった。
子供でも、恋人同士でもないのに。
その時ふと佳奈多の中で何かが繋がった。恋人同士。手を繋いだり体に触れたり、性に疎い佳奈多でもわかる行為だ。好きな者同士で互いの好意を確かめあう。
今までの大翔の行為が様々な思い出される。
ことあるごとに体に触れて、佳奈多に対してとても距離が近い大翔。大翔とこれだけ距離が近いのは佳奈多の知る限り、自分だけだ。佳奈多は隣を歩く大翔を見た。佳奈多のリュックの紐を握る大翔も、佳奈多を見ていた。大翔が笑う。佳奈多は顔を背けて考えを打ち消した。
その日の夜、早々にベッドに入った佳奈多は大翔に背を向けた。
「かなちゃん、おやすみ」
「お、おやすみ」
昼間のことを思い返して、佳奈多は身を丸めた。早く寝てしまおうと目を閉じるが中々寝付けない。
大翔は手を繋いだり、時には体を密着させてくる。大翔と何の違和感もなく行ってきた行動が、おかしいことだったんじゃないかと思い始めていた。あれは友情ではなく、愛情表現だったのではないか。大翔は佳奈多に恋愛感情を抱いているのではないか。そう考えると、大翔の一連の行動がしっくりくる。しかし、恋愛なんて考えたこともなく、まして同性間というのはまったく頭になかった佳奈多にとって、大翔が向ける感情には戸惑いしかなかった。もしかしたら勘違いかもしれない。そうであってほしい。大翔の想いを、どう受け止めたらいいのかわからない。
背後で大翔が動いた。
佳奈多は思わず体をビクつかせてしまった。何事かと思ったが、トイレに向かったらしい。ほっとして眠ろうと息をひそめる。これ以上考えたらいけない。全ては佳奈多の勘違いだ。
トイレの扉が開き、出てきた大翔はベッドに向かっていき、足音が止まった。
「かなちゃん」
名前を呼ばれて佳奈多は息を呑んだ。寝たふりをしようと返事をしないでいると、佳奈多のベッドが変に軋んだ。背中に体温を感じる。大翔が佳奈多のベッドに入ってきたようだ。振り返ることができず、大翔が何をしたいのかもわからない。
「かなちゃん…」
再び大翔の声がした。佳奈多はじっと固まったまま息を殺した。なぜか大翔も動かない。寝ぼけているのだろうか。大翔の腕が佳奈多を包む。大翔の吐息がすぐ耳元にかかった。大翔は動かず、佳奈多も身を固めて動かなかった。ぴったりと隙間なく密着する大翔の高い体温が、佳奈多に移っていく。
早く自分のベッドに戻って欲しい。
佳奈多の願いも虚しく、大翔は佳奈多を抱きしめて離さなかった。
ほとんど眠れないまま朝を迎えた。大翔は明け方に、自分のベッドに戻っていった。佳奈多は大翔の温もりが残る布団の中で、やっと体の力を抜いた。
次の日も観光だった。グループであれこれ巡っていく。佳奈多は眠さでぼんやり周りを眺めていた。
あれはなんだったのだろうか。
大翔はいつもと変わらず、今日も佳奈多のリュックの紐を握っている。佳奈多は大翔の顔が見られず、うつむいて歩いた。荘厳な建物もその説明も、ほとんど頭に入ってこなかった。
そしてその夜もまた、大翔は佳奈多のベッドに入ってきた。佳奈多はまた息を殺して固まった。今日は最終日で、同じ部屋で眠るのも今日が最後だ。今日をやり過ごせば、この恐怖も終わる。何をするでもなく沈黙の時間が続く。しばらくしてから首に違和感をおぼえた佳奈多は思わず小さな悲鳴を上げた。
「ひっ…」
子供でも、恋人同士でもないのに。
その時ふと佳奈多の中で何かが繋がった。恋人同士。手を繋いだり体に触れたり、性に疎い佳奈多でもわかる行為だ。好きな者同士で互いの好意を確かめあう。
今までの大翔の行為が様々な思い出される。
ことあるごとに体に触れて、佳奈多に対してとても距離が近い大翔。大翔とこれだけ距離が近いのは佳奈多の知る限り、自分だけだ。佳奈多は隣を歩く大翔を見た。佳奈多のリュックの紐を握る大翔も、佳奈多を見ていた。大翔が笑う。佳奈多は顔を背けて考えを打ち消した。
その日の夜、早々にベッドに入った佳奈多は大翔に背を向けた。
「かなちゃん、おやすみ」
「お、おやすみ」
昼間のことを思い返して、佳奈多は身を丸めた。早く寝てしまおうと目を閉じるが中々寝付けない。
大翔は手を繋いだり、時には体を密着させてくる。大翔と何の違和感もなく行ってきた行動が、おかしいことだったんじゃないかと思い始めていた。あれは友情ではなく、愛情表現だったのではないか。大翔は佳奈多に恋愛感情を抱いているのではないか。そう考えると、大翔の一連の行動がしっくりくる。しかし、恋愛なんて考えたこともなく、まして同性間というのはまったく頭になかった佳奈多にとって、大翔が向ける感情には戸惑いしかなかった。もしかしたら勘違いかもしれない。そうであってほしい。大翔の想いを、どう受け止めたらいいのかわからない。
背後で大翔が動いた。
佳奈多は思わず体をビクつかせてしまった。何事かと思ったが、トイレに向かったらしい。ほっとして眠ろうと息をひそめる。これ以上考えたらいけない。全ては佳奈多の勘違いだ。
トイレの扉が開き、出てきた大翔はベッドに向かっていき、足音が止まった。
「かなちゃん」
名前を呼ばれて佳奈多は息を呑んだ。寝たふりをしようと返事をしないでいると、佳奈多のベッドが変に軋んだ。背中に体温を感じる。大翔が佳奈多のベッドに入ってきたようだ。振り返ることができず、大翔が何をしたいのかもわからない。
「かなちゃん…」
再び大翔の声がした。佳奈多はじっと固まったまま息を殺した。なぜか大翔も動かない。寝ぼけているのだろうか。大翔の腕が佳奈多を包む。大翔の吐息がすぐ耳元にかかった。大翔は動かず、佳奈多も身を固めて動かなかった。ぴったりと隙間なく密着する大翔の高い体温が、佳奈多に移っていく。
早く自分のベッドに戻って欲しい。
佳奈多の願いも虚しく、大翔は佳奈多を抱きしめて離さなかった。
ほとんど眠れないまま朝を迎えた。大翔は明け方に、自分のベッドに戻っていった。佳奈多は大翔の温もりが残る布団の中で、やっと体の力を抜いた。
次の日も観光だった。グループであれこれ巡っていく。佳奈多は眠さでぼんやり周りを眺めていた。
あれはなんだったのだろうか。
大翔はいつもと変わらず、今日も佳奈多のリュックの紐を握っている。佳奈多は大翔の顔が見られず、うつむいて歩いた。荘厳な建物もその説明も、ほとんど頭に入ってこなかった。
そしてその夜もまた、大翔は佳奈多のベッドに入ってきた。佳奈多はまた息を殺して固まった。今日は最終日で、同じ部屋で眠るのも今日が最後だ。今日をやり過ごせば、この恐怖も終わる。何をするでもなく沈黙の時間が続く。しばらくしてから首に違和感をおぼえた佳奈多は思わず小さな悲鳴を上げた。
「ひっ…」
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