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「夜もずっと、かなちゃんと一緒だ…すげぇ、嬉しい。泊まりの行事。ほんと、好き」
幼稚園児だった頃と変わらない笑顔を、佳奈多は本当に久しぶりに見た。まるで大翔の母が亡くなる前の大翔のようだった。
いつもより幼い顔で、大翔は佳奈多の手を離さずにいた。初日は軽く観光地を回ってホテルについた。部屋は2人部屋だった。2人だけの部屋に、事前に決められた時から恐怖を覚えていた佳奈多だったが、今日一日終始柔らかい雰囲気の大翔に、肩の力はすっかり抜けていた。
「かなちゃん、どっちがいい?」
「こっち、廊下の方…いい?」
「いいよ。じゃあ俺、窓際ね」
佳奈多はトイレに近く、廊下の明かりがさす場所を寝床に決めた。消灯の時間になり、それぞれ自分のベッドに潜った。
「かなちゃん。こっち来る?」
声をかけられて大翔を見ると、大翔は自分の布団をまくって佳奈多を手招く。
「それ、いつもする」
「だって、夜、怖いでしょ?」
大翔が笑う。屈託のない笑顔だった。佳奈多も思わず笑ってしまった。
「ふふ…ひろ君、しつこい」
佳奈多は初めての宿泊学習を思い出す。大翔は今と同じように布団を捲って佳奈多を呼んだ。
『かなちゃん、来ていいよ』
真剣な大翔に、佳奈多は首を傾げる。
『夜、怖いでしょ?』
佳奈多は気づいた。
幼稚園児の頃、初めてのお泊り会で佳奈多はめそめそと泣き出してしまったことがあった。いつも通っている場所なのに、夜の幼稚園は雰囲気が違っていて怖かった。佳奈多は大翔の布団に潜り込んだ。
『ひろくん、ようちえん、よる、こわい。こわい…』
『だいじょうぶだよ、かなちゃん、おれが、いるよ』
もう眠りかかっていた大翔は佳奈多を迎え入れ、ずっと背中を叩いてくれた。もう、何年前のことだと思っているのか。以前の宿泊学習では、佳奈多は布団を頭まで被って大翔を無視した。それから宿泊学習の度に、大翔は佳奈多に同じことをした。
「ずーっと言うよ。あの時俺、寝てたのに起こされたんだから」
「ふふふ、そっか。くふっ…ごめんね、ひろ君。もう、平気、だから」
大翔が幼稚園の頃のようで、佳奈多もあの頃のように笑った。大翔に臆することなく、ただの仲良しの親友として。佳奈多は体から力が抜けていくのを感じた。慣れない飛行機での移動で疲れてしまったようだ。意識がゆっくり溶けていく。怯えていたのが嘘のように、佳奈多はぐっすり眠った。
翌日はグループに分かれて各地を観光しながらレポートを書く課題がだされていた。事前に決められたグループで決められた場所を観光していく。観光地なので他の観光客も何組も見かけた。何人かが大翔と佳奈多を見て笑っていた。
「可愛い~恋人同士かな?」
指を指して笑っている人もいた。大翔は相変わらず佳奈多の手を握って歩いている。グループの他のメンバーは手など繋いでいない。子供のように手を引かれることに、佳奈多は急に恥ずかしくなった。
「ひ、ひろくん…手、」
「ん?」
「離して。見てる人、いる」
佳奈多が目を向ける先、女性のグループがクスクス笑いながらこちらを見ている。
「気のせいだよ。迷子になったらどうするの」
「他の人も、見てた。僕、迷子に、ならない。赤ちゃんじゃないよ」
佳奈多は立ち止まった。大翔の手を離そうと、握られた手に反対の手を添える。恐る恐る大翔を見ると、大翔は少し拗ねたような顔をしていた。
「恥ずかしがらなくていいのに」
佳奈多は首を横に振る。
「じゃあ、かなちゃんの、リュックの紐握ってていい?知らないとこだし、かなちゃんと繋がってないと、不安になる」
佳奈多は頷いた。少し笑ってしまった。迷子になるだなんて言って、不安なのは大翔のほうだったようだ。大翔は顔を赤らめて、佳奈多のリュックの紐を握って隣を歩く。
幼稚園児だった頃と変わらない笑顔を、佳奈多は本当に久しぶりに見た。まるで大翔の母が亡くなる前の大翔のようだった。
いつもより幼い顔で、大翔は佳奈多の手を離さずにいた。初日は軽く観光地を回ってホテルについた。部屋は2人部屋だった。2人だけの部屋に、事前に決められた時から恐怖を覚えていた佳奈多だったが、今日一日終始柔らかい雰囲気の大翔に、肩の力はすっかり抜けていた。
「かなちゃん、どっちがいい?」
「こっち、廊下の方…いい?」
「いいよ。じゃあ俺、窓際ね」
佳奈多はトイレに近く、廊下の明かりがさす場所を寝床に決めた。消灯の時間になり、それぞれ自分のベッドに潜った。
「かなちゃん。こっち来る?」
声をかけられて大翔を見ると、大翔は自分の布団をまくって佳奈多を手招く。
「それ、いつもする」
「だって、夜、怖いでしょ?」
大翔が笑う。屈託のない笑顔だった。佳奈多も思わず笑ってしまった。
「ふふ…ひろ君、しつこい」
佳奈多は初めての宿泊学習を思い出す。大翔は今と同じように布団を捲って佳奈多を呼んだ。
『かなちゃん、来ていいよ』
真剣な大翔に、佳奈多は首を傾げる。
『夜、怖いでしょ?』
佳奈多は気づいた。
幼稚園児の頃、初めてのお泊り会で佳奈多はめそめそと泣き出してしまったことがあった。いつも通っている場所なのに、夜の幼稚園は雰囲気が違っていて怖かった。佳奈多は大翔の布団に潜り込んだ。
『ひろくん、ようちえん、よる、こわい。こわい…』
『だいじょうぶだよ、かなちゃん、おれが、いるよ』
もう眠りかかっていた大翔は佳奈多を迎え入れ、ずっと背中を叩いてくれた。もう、何年前のことだと思っているのか。以前の宿泊学習では、佳奈多は布団を頭まで被って大翔を無視した。それから宿泊学習の度に、大翔は佳奈多に同じことをした。
「ずーっと言うよ。あの時俺、寝てたのに起こされたんだから」
「ふふふ、そっか。くふっ…ごめんね、ひろ君。もう、平気、だから」
大翔が幼稚園の頃のようで、佳奈多もあの頃のように笑った。大翔に臆することなく、ただの仲良しの親友として。佳奈多は体から力が抜けていくのを感じた。慣れない飛行機での移動で疲れてしまったようだ。意識がゆっくり溶けていく。怯えていたのが嘘のように、佳奈多はぐっすり眠った。
翌日はグループに分かれて各地を観光しながらレポートを書く課題がだされていた。事前に決められたグループで決められた場所を観光していく。観光地なので他の観光客も何組も見かけた。何人かが大翔と佳奈多を見て笑っていた。
「可愛い~恋人同士かな?」
指を指して笑っている人もいた。大翔は相変わらず佳奈多の手を握って歩いている。グループの他のメンバーは手など繋いでいない。子供のように手を引かれることに、佳奈多は急に恥ずかしくなった。
「ひ、ひろくん…手、」
「ん?」
「離して。見てる人、いる」
佳奈多が目を向ける先、女性のグループがクスクス笑いながらこちらを見ている。
「気のせいだよ。迷子になったらどうするの」
「他の人も、見てた。僕、迷子に、ならない。赤ちゃんじゃないよ」
佳奈多は立ち止まった。大翔の手を離そうと、握られた手に反対の手を添える。恐る恐る大翔を見ると、大翔は少し拗ねたような顔をしていた。
「恥ずかしがらなくていいのに」
佳奈多は首を横に振る。
「じゃあ、かなちゃんの、リュックの紐握ってていい?知らないとこだし、かなちゃんと繋がってないと、不安になる」
佳奈多は頷いた。少し笑ってしまった。迷子になるだなんて言って、不安なのは大翔のほうだったようだ。大翔は顔を赤らめて、佳奈多のリュックの紐を握って隣を歩く。
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