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森之宮家の三兄弟
37 完
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「珍し~。認めさせる!ってキレるとこじゃないの?」
「認めさせるために俺達の関係を押し付けるのは違うだろ。受け入れられないことだってある。こういうのって、時間かけてやってくもんなんだろ?」
伊吹は誰というわけでもなく問いかける。
伊吹はあまり人間関係のあれこれが得意ではない。要求はゴリ押してしまえば楽だがそういうわけにはいかないだろう。特に幸四郎との関係は簡単に壊したくない。だからこそ慎重に、と、伊吹が出した答えだった。
幸四郎は大きく頷く。
「伊吹君は、本当に…優しくて聡明な方です。ありがとう。ご両親も、私の親のこと、お伝えが遅くなってしまいました。申し訳ありません。時期を見て、少しずつ両親に伝えていけたらと、思っています」
「…わかった」
幸四郎の言葉に、裕司は承諾する。華も頷いた。華は裕司の服の裾を握る。癇癪を起こしやすい性格故に友人も少なかった伊吹が、こうして相手を想いやって行動しようとしている。涙を堪えるので精一杯だった。
「いぶちゃんはね、優しいよね。すぐ怒っちゃうから伝わらないんだけど。いぶちゃんね、僕とママさんが話てたの覚えてて、薬を改良してくれたんだよ。発情期辛いんだろ?って。優しいんだよ、いぶちゃんは」
「そうだったのか」
「あー…そうだけど、優しい、なのか?それ」
「優しいです!」
「お陰で僕達も助かってます」
朝陽の言葉に伊吹は首を傾げる。薬学を学び、製薬会社に勤めている以上、自社製品の向上は責務だと伊吹は思っている。当然のことをしただけだ。
しかしアイとミイが力強く朝陽に賛同する。彼らのお陰で伊吹は、自身の考えと行動は間違いではなく、むしろ褒められることだったのだと知った。
「あとねぇ、猫が好きでねぇ、猫の写真見ると落ち着くんだよね。ママさんも好きだよね。ママさん来るよ!って言うとしゅーんってなっちゃうの。可愛いよね。あとね」
「おい、うるせぇぞ朝陽、黙れ」
「えぇえ…伊吹君にそんな、可愛い一面が…」
朝陽は一つ一つ伊吹の過去を思い出して口に出す。幼い頃から咲也と一緒にいた朝陽は伊吹や開斗のことも幼少期から知っている。
幸四郎は頬を染めてしかめっ面の伊吹を見た。
「いいなぁ、幸ちゃんさん、いいなぁ」
「お義兄さん、開斗の可愛いお話はないですか!?」
「かいちゃんはねぇ、昔から変わんないかな~。さっくん大好きでね、お膝に座るんだよね。あ、あれだ!蛇嫌いだよね!僕ね、お土産に蛇の抜け殻あげたら固まってたの。面白かった~あとね、あとねぇ、」
アイとミイは二人目を潤ませて朝陽におねだりをする。
朝陽は推しからのお願いに全力で答えた。
「「面白そう~っ!」」
アイとミイは両手を合わせて同時に叫んだ。二人は大きな瞳をキラキラと輝かせて開斗を見上げる。
「蛇の抜け殻、買いま~す♡」
「今日はお膝、行かないの?」
「やめて朝陽、俺の弱点簡単にさらさないで。君達も、買わないで。お膝は我慢してるの」
「あとね、いぶちゃんとかいちゃんね、高校生の時に大人ぶってねぇ…」
「やめぇ!咲也!そいつ黙らせろ!」
「お開き!今日はおもうお開きで!」
「…なにしたんだ、お前ら」
伊吹と開斗は立ち上がって朝陽を止めにかかる。咲也は朝陽の口を塞いだ。伊吹と開斗の慌てぶりに笑いが起こる。大人ぶったそれがなにかは結局わからなかったが、和やかな空気は続いていった。
それからしばらくして、会はお開きとなった。咲也と朝陽は二人の自宅へ、伊吹は幸四郎の家へ、開斗はアイとミイを連れて開斗の家へ、それぞれ帰宅していった。
残された裕司と華は静まり返った広い部屋で息をつく。
「賑やかになったなぁ」
「ね。そのぶん、みんないなくなるとすごく静か。ちょっと、寂しいね」
「…華」
「裕司…」
裕司と華は向き合う。二人はガッと、力強く抱き合った。
「「子育て、終わったね!」」
二人は声を揃えた。まるでアイとミイのようだ。
「もういいよな?アイちゃんミイちゃんしっかりしてるし、幸ちゃんもいいヤツだし…」
「いいよね?もう伊吹も開斗も落ち着くよね?ね?」
少し泣きそうになりながら、裕司と華は確認し合う。子供達はそれぞれパートナーを見つけて自分達の道を歩もうとしている。もう今までのような親の役目は終わった。これからは彼らを付かず離れず見守るつもりだ。
「まぁ…まだ、なんかあるんだろうけどなぁ…」
「アイさんとミイさんの出産と、幸四郎さんのご実家のことと。朝陽君の子供についてもまだ続くだろうしね…」
裕司は笑って華の手を握る。
「あいつらと一緒。俺達も、まだまだこれから」
「うん。支え合って、生きていこうね」
華も強く裕司の手を握り返す。
森之宮夫婦と三兄弟、それぞれ支え合って生きていく。
END
「認めさせるために俺達の関係を押し付けるのは違うだろ。受け入れられないことだってある。こういうのって、時間かけてやってくもんなんだろ?」
伊吹は誰というわけでもなく問いかける。
伊吹はあまり人間関係のあれこれが得意ではない。要求はゴリ押してしまえば楽だがそういうわけにはいかないだろう。特に幸四郎との関係は簡単に壊したくない。だからこそ慎重に、と、伊吹が出した答えだった。
幸四郎は大きく頷く。
「伊吹君は、本当に…優しくて聡明な方です。ありがとう。ご両親も、私の親のこと、お伝えが遅くなってしまいました。申し訳ありません。時期を見て、少しずつ両親に伝えていけたらと、思っています」
「…わかった」
幸四郎の言葉に、裕司は承諾する。華も頷いた。華は裕司の服の裾を握る。癇癪を起こしやすい性格故に友人も少なかった伊吹が、こうして相手を想いやって行動しようとしている。涙を堪えるので精一杯だった。
「いぶちゃんはね、優しいよね。すぐ怒っちゃうから伝わらないんだけど。いぶちゃんね、僕とママさんが話てたの覚えてて、薬を改良してくれたんだよ。発情期辛いんだろ?って。優しいんだよ、いぶちゃんは」
「そうだったのか」
「あー…そうだけど、優しい、なのか?それ」
「優しいです!」
「お陰で僕達も助かってます」
朝陽の言葉に伊吹は首を傾げる。薬学を学び、製薬会社に勤めている以上、自社製品の向上は責務だと伊吹は思っている。当然のことをしただけだ。
しかしアイとミイが力強く朝陽に賛同する。彼らのお陰で伊吹は、自身の考えと行動は間違いではなく、むしろ褒められることだったのだと知った。
「あとねぇ、猫が好きでねぇ、猫の写真見ると落ち着くんだよね。ママさんも好きだよね。ママさん来るよ!って言うとしゅーんってなっちゃうの。可愛いよね。あとね」
「おい、うるせぇぞ朝陽、黙れ」
「えぇえ…伊吹君にそんな、可愛い一面が…」
朝陽は一つ一つ伊吹の過去を思い出して口に出す。幼い頃から咲也と一緒にいた朝陽は伊吹や開斗のことも幼少期から知っている。
幸四郎は頬を染めてしかめっ面の伊吹を見た。
「いいなぁ、幸ちゃんさん、いいなぁ」
「お義兄さん、開斗の可愛いお話はないですか!?」
「かいちゃんはねぇ、昔から変わんないかな~。さっくん大好きでね、お膝に座るんだよね。あ、あれだ!蛇嫌いだよね!僕ね、お土産に蛇の抜け殻あげたら固まってたの。面白かった~あとね、あとねぇ、」
アイとミイは二人目を潤ませて朝陽におねだりをする。
朝陽は推しからのお願いに全力で答えた。
「「面白そう~っ!」」
アイとミイは両手を合わせて同時に叫んだ。二人は大きな瞳をキラキラと輝かせて開斗を見上げる。
「蛇の抜け殻、買いま~す♡」
「今日はお膝、行かないの?」
「やめて朝陽、俺の弱点簡単にさらさないで。君達も、買わないで。お膝は我慢してるの」
「あとね、いぶちゃんとかいちゃんね、高校生の時に大人ぶってねぇ…」
「やめぇ!咲也!そいつ黙らせろ!」
「お開き!今日はおもうお開きで!」
「…なにしたんだ、お前ら」
伊吹と開斗は立ち上がって朝陽を止めにかかる。咲也は朝陽の口を塞いだ。伊吹と開斗の慌てぶりに笑いが起こる。大人ぶったそれがなにかは結局わからなかったが、和やかな空気は続いていった。
それからしばらくして、会はお開きとなった。咲也と朝陽は二人の自宅へ、伊吹は幸四郎の家へ、開斗はアイとミイを連れて開斗の家へ、それぞれ帰宅していった。
残された裕司と華は静まり返った広い部屋で息をつく。
「賑やかになったなぁ」
「ね。そのぶん、みんないなくなるとすごく静か。ちょっと、寂しいね」
「…華」
「裕司…」
裕司と華は向き合う。二人はガッと、力強く抱き合った。
「「子育て、終わったね!」」
二人は声を揃えた。まるでアイとミイのようだ。
「もういいよな?アイちゃんミイちゃんしっかりしてるし、幸ちゃんもいいヤツだし…」
「いいよね?もう伊吹も開斗も落ち着くよね?ね?」
少し泣きそうになりながら、裕司と華は確認し合う。子供達はそれぞれパートナーを見つけて自分達の道を歩もうとしている。もう今までのような親の役目は終わった。これからは彼らを付かず離れず見守るつもりだ。
「まぁ…まだ、なんかあるんだろうけどなぁ…」
「アイさんとミイさんの出産と、幸四郎さんのご実家のことと。朝陽君の子供についてもまだ続くだろうしね…」
裕司は笑って華の手を握る。
「あいつらと一緒。俺達も、まだまだこれから」
「うん。支え合って、生きていこうね」
華も強く裕司の手を握り返す。
森之宮夫婦と三兄弟、それぞれ支え合って生きていく。
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