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森之宮家の三兄弟

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開斗はアイとミイの肩を抱く。背筋を伸ばして力の入っていたアイとミイは、やっと肩の力を抜いた。
「咲也、本当に嬉しそう」
「…俺も、わかんないんだよなぁ」
華は咲也とアイとミイを見比べて微笑む。華の隣で裕司は伊吹と同じように腕を組み、首を傾げていた。
子供の頃から手のかからず大人びていた咲也だが、そのせいかあまり表情に変化がない。朝陽が絡むとわかりやすいのだが、裕司は時々、咲也が何を考えているのかがわからなかった。華はきちんと咲也の胸の内を汲み取っている。長い年月を共にすごしてもわからないこともある。
難しい顔をした伊吹に、幸四郎は声を掛ける。
「いやぁ…お父様もさることながら、お兄さんも弟さんも、本当にすごい人ですねぇ。この環境では、こう…焦ってしまうのも無理はないです。伊吹君は、負けず嫌いですし」
「焦ってねぇし。それよりさっきのコーティングの…」
「幸ちゃんさぁ、よく伊吹と付き合ったよね。大変でしょ?性格きついしキレやすいから」
伊吹の言葉を遮って、開斗は笑顔で幸四郎に問うた。開斗は悪気があるのかないのか、こうして時々伊吹の琴線に触れてくる。
「開斗、お前がそういうこと言うから…気難しいんだよな、伊吹は。な?」
「うるせぇ…フォローになってねぇぞ、咲也」
開斗と咲也の発言に、伊吹は青筋を立てる。幸四郎は笑顔で返した。
「いえいえ!気難しいところも僕は好きですよ。伊吹君は自身の感覚や感情にとても素直です。その中でも怒りが一番出やすいので、勘違いされがちなんですね。きっとお兄さんや弟さんに負けたくない気持ちが闘争心として出やすいのではないでしょうか」
「…はぇ~」
「あ~…そういうことだったのか…」
幸四郎の話に、開斗と咲也は納得した。伊吹も口を尖らせながら、思い当たる節があった。
咲也は幼い頃からなんでもできて大人びていた。勉強も運動も大した努力なくできて涼しい顔をしている。片や弟の開斗は自分の容姿の良さを理解した上で上手に周りと打ち解けていく。
自分にないものを彼らに見出しては歯噛みしていた。
「私は名前の通り四男坊でして。全員ベータの男なのですが、間近に年も能力も近い相手がいると周りも本人達も比べがちになります。ただそれは、伊吹君だけでなくご兄弟も同じだったのではないでしょうか。私はもう兄弟達とは疎遠ですか、仲の良いご両親とお三方が羨ましい」
「うそ…幸一郎、幸二郎、幸三郎がいるの?ご両親、手抜きすぎん?」
「そこじゃないだろ、ちょっと思ったけど。踏み込んだこと聞くけど、疎遠なのは年齢的なもので?」
「えぇ、開斗さんのおっしゃる通り、上から幸一郎、幸二郎、幸三郎です。年齢もありますが、まぁ、私は恋愛対象が男性なので。両親も兄弟も高齢で、時代の流れほどは理解がないんです。いつまでも結婚をしない私は勘当されたようなものなのです」
咲也の問いに、幸四郎はもう長いこと親兄弟と顔を合わせていないという。伊吹は目を丸めて幸四郎を見た。
「勘当…しかも、ゲイなのか、お前」
「うそ…なんで知らんの、いぶ兄…」
「二人は付き合ってるんだよな?」
驚く伊吹に開斗と咲也が驚いた。まず、恋人が知っているべきことではないのか。
森之宮の家はともかく、二人には幸四郎の家族という大きな壁があるようだ。
「伊吹。幸ちゃんとこ、挨拶に行ってないのか?」
裕司は問う。黙って見守ろうとは思っていたが、さすがに親の話となるとそうはいかない。
幸四郎は少し表情を曇らせた。伊吹は裕司と幸四郎に向き合う。
「行ってねぇし、行かねぇ。幸四郎が俺に親のこと言わなかったのはその事情のせいだろ。行けば俺達の関係を押し付けることになる。幸四郎が行きたいなら、行く。行きたくないなら、行かねぇ」
「伊吹君…それで言うと、僕は、伊吹君のご両親に、おしつけてしまいました…申し訳ありません」
「それは違う。華と裕司は実物見たほうがいいんだろうと思った。お互いに。幸四郎の親が華と裕司とは違うんだったら、今は行かないほうがいい」
言い切る伊吹に、開斗は笑う。
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