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森之宮家の三兄弟

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「朝陽…子供は作らないって、決めただろ」
咲也が朝陽の手を握る。朝陽は頭を振って叫んだ。
「だって、僕、オメガなのに…アイちゃんも、ミイちゃんも、二人共、産みたいって…やっぱり、僕、変なんだ、きっと。オメガなのに、妊娠も、出産も、怖いって…僕、どこか、おかしい…」
「いいじゃねぇか、お前が産みたくないなら。駄目なのか?」
朝陽の訴えに、伊吹は首を傾げた。産みたくなくなら産まなければいい。なぜ朝陽がこんなに思い悩んだ顔をするのか理解できなかった。
「なんで他のオメガと比べるんだよ。お前はお前だろ。お前がどうしたいか、だろ」
「………そうだよね、伊吹君、その通り。誰かと比べることなんて、ないです。子供の話となると、我々は…どちらも産めません。きっと『産める』という選択肢があるせいで、苦しいのかもしれないですね」
朝陽は目に涙を溜めて二人の話を聞いていた。
「だって………そう、いぶちゃんと、いぶちゃんの…幸ちゃんさんの、言う通り、なんだと思う。僕が、どうしたいか、なんだけど…選択肢があるから、苦しいんだ。産んだほうがいいのか、とか、でも、もしかしたらもう、産むには遅いかも、しれなくて、」
咲也は朝陽の頭を撫でる。子供に関しては高校生の時に決着がついたと思っていた。朝陽の中ではまだ終わっていなかった。あれから10年以上の年月が流れているのに。
裕司があ、と声を上げる。
「あれか…森之宮の、跡取りが云々ってやつだろ?朝陽ちゃんあのな、咲也にも話したけど」
「え?跡取り?森之宮の?そんなこと、いいんだよ。気にしなくていいの!」
裕司は朝陽に語りかける。が、華は裕司の話を遮った。華は身を乗り出して朝陽と向き合った。
「あのね、産みたいなら産んだらいいの。でも、産みたくないなら産まなくていいんだよ。誰かに強制されることじゃないんだから。森之宮はね、この子達のいとこもいるし、どうにかなると思う。ならなくても、仕方ないんだよ。僕と裕司が結婚した時点で、森之宮はもう終わったの。僕が、終わらせたの。終わらせた罪は、僕が背負っていく。朝陽君は…ううん、ここにいるみんな、家のことは考えないで。みんなの未来だけ、見てほしい」
朝陽は涙をためて華の話を聞いていた。その中でも一番驚いていたのは裕司だった。まさか華が、そこまでの覚悟をしていたなんて知らなかった。裕司は華のことを守りたい一心で森之宮の当主になった。森之宮製薬も、今華と咲也を守ることに必死で後先のことなんて考えていなかった。
オメガであろう子供を、華を囲うような真似をした。家を存続させるために華を無理矢理妊娠させた。そんな家は途絶えてしまえばいいと今も思っている。
華は小さく息を吐いて幸四郎とアイとミイに向き合った。
「突然こんな話をしてごめんね。森之宮は歴史あるお家なんだけど、負担に思わないでほしいんだ。みんなの幸せだけ、考えてほしい。幸四郎さんには伊吹の傍にいてあげてほしいし、アイさんやミイさんが産みたい気持ちも尊重したいって、僕は思ってる」
幸四郎もアイもミイも、華に頷いた。幸四郎は俯いて口を開く。
「…挨拶に来た時、不安でした。アルファ男性とベータの男では子供はできません。年齢が離れている上に子供もできない。森之宮家にとって、許されることではないだろうなと、思っていたんです。お許しいただけた時は本当に嬉しかった。今、お母様のお話を聞けて、改めて…嬉しく思います」
幸四郎はありがとうございます、と頭を下げた。
アイとミイは目を合わせ、お互い頷いてから華を見る。
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