上 下
64 / 78
森之宮家の三兄弟

25

しおりを挟む
「俺もう子供じゃないですぅ~よろしくね」
華はさっきまでの空気を払拭するかのように笑った。開斗も笑って返す。
咲也は黙って話を聞いていた。朝陽はまだ暗い顔のまま、俯いていた。


それからしばらく時が経ち、今度はアイがアルファに襲われた。今回も怪我はなく未遂だったようだ。開斗はいない撮影で、スポンサーのアルファに別室に連れ込まれたらしい。
このアルファはヒートを起こしたわけではない。明確な性欲でもって、アイを襲った。
メイク直しのためにミイが傍を離れていて、マネージャーもミイの傍にいた。アイを狙ったと言うよりは、手薄になったアイに手を出したようだ。
その事件から二人は仕事をしていない。発情期の、事前に決まっていた休みだそうだ。アルファに襲われたこととは無関係だが、アイが発情期に入ってしまったとマネージャーから聞いた。無関係だが、周りは襲われたことで発情期を誘発されただのアイの発情期がアルファに襲うよう仕向けただの、好き勝手に推測している。


開斗はアイとミイの自宅にお見舞いに来ていた。以前一度訪れたことがある。有名ブランドから声がかかって3人で撮影し、お祝いも兼ねて二人の部屋に招いてもらった。ケーキを1人1ホール買って分け合いながら、チートデイだと盛り上がった。
出迎えてくれたミイから強く甘い匂いが香っている。
「ごめんなさい。今、アイが発情期で…」
「知ってる。聞いた。アイは大丈夫?ミイも」
ミイはその場で泣き出してしまった。玄関に入れてもらい、開斗は落ち着くまでミイを抱きしめて待った。
「顔だけ見れたらと思ったんだけど、嫌かな。きちんと薬も飲んできたけど…やっぱり、怖いかな」
「ううん。きっと、カイトなら平気だと思う…アイに、声かけてくるね」
ミイは室内に消えた。念の為緊急抑制剤も持ってきていた。襲われて怖かっただろう。間もなく発情期が来てしまった。このタイミングでの発情期は、きっとアイにもミイにも深い傷となってしまっているだろう。
「カイト、こっち、来てくれる?今回の発情期、ちょっと、辛そうで…たぶん、襲われたショックで、強く症状がでてるんだと、思う」
ミイに招かれて室内に入る。子どものためと貯金に励む二人の部屋には、物があまりない。この部屋自体、有名ブランドでモデルを務める人間が住んでいるとは思えないほど質素な部屋だ。引き戸を開けるとダブルサイズのベッドがあり、アイが横になっていた。
「アイ、カイトが来たよ。ア…んっ!」
「ん、んん…みい、みいぃ…」
「んっ、んぅ、だめ、アイ、んっ、カイト、来てるってば」
アイは声をかけに来たミイをベッドに引き込んで、水音を立てて口づけを交わした。舌を絡め合う二人は恋人同士でここは彼らの自宅だ。しかし目の前でされると目のやり場に困ってしまう。
部屋の中は甘い匂いが充満していた。さっき出迎えたミイからも香った、初めて会ったときにも感じた匂い。ずっと嗅いでいたいような、頭の中がしびれるような、心が落ち着くような、脳が掻き乱されるような。
「ミイ、もしも俺が飛んじゃうようなら、これ。ぶっ刺して」
カイトはミイに緊急抑制剤を手渡した。注射器で挿入するペンタイプのものだ。ミイは頷いて開斗から受け取り、アイから離れた。
「みぃ…あ……かい、と?」
「うん。発情期、しんどいかなと思って来ちゃった。大丈夫?」
「んぅ…くるしい…」
アイは開斗に抱きついてすがりついてきた。開斗はアイを抱きしめる。ミイから自分が来たことは伝わっているはずだが、わからなくなっているようだ。意識が朦朧としているように見える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

俺にとってはあなたが運命でした

ハル
BL
第2次性が浸透し、αを引き付ける発情期があるΩへの差別が医療の発達により緩和され始めた社会 βの少し人付き合いが苦手で友人がいないだけの平凡な大学生、浅野瑞穂 彼は一人暮らしをしていたが、コンビニ生活を母に知られ実家に戻される。 その隣に引っ越してきたαΩ夫夫、嵯峨彰彦と菜桜、αの子供、理人と香菜と出会い、彼らと交流を深める。 それと同時に、彼ら家族が頼りにする彰彦の幼馴染で同僚である遠月晴哉とも親睦を深め、やがて2人は惹かれ合う。

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

処理中です...