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森之宮家の三兄弟

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幼い頃から開斗の面倒は咲也が見てくれていた。癇癪を起こしやすい次男の伊吹は母の華でないと落ち着かず、手に追えない。華は懸命に育児をしていたがどうしても伊吹の方へ行かざるを得なくなる。指をくわえて華を見つめる開斗を、いつも咲也が抱っこしてくれた。シッターさんもいたが、咲也が家にいる時、開斗は咲也にべったりはりついた。咲也も細々と開斗の面倒を見てくれた。着替えも、トイレも、いつも咲也が面倒を見てくれた。
開斗の中で、咲也は第二の母と言っても過言ではない。そんな咲也の匂いに包まれるととても落ち着く。それは子供の頃からかわっていない。
「こら、開斗。お兄ちゃん重いでしょ。どきなさい」
「大丈夫だよ。俺、体重管理してるし。重くないでしょ?」
「重いわ」
文句を言いながらも咲也は開斗を降ろさない。なんだかんだこの兄は甘くて優しい。
裕司と件のもう一人の兄、伊吹は仕事でまだ帰っていないらしい。裕司がいればパパのところにおいでと嘆かれるし、伊吹がいればまた甘えてると文句を言われる。今日は邪魔が入らないので存分に咲也を独占できる。
「そういえばかいちゃん、アイとミイの写真、すごいね!この前大きな広告見たよ!」
「あ、オメガのモデルさん?男性オメガなんだよね、すごいよね」
華と朝陽は可愛い、すごい、すごいとアイとミイの話で盛り上っている。同じ男性オメガの二人の目にも耳にも届いていたようだ。しかし。
「アイとミイが可愛いはわかるけど、すごいってなんで?確かにあの子達、頑張ってるけどさ。なんか、そんなに盛り上がるとこ?」
開斗は首を傾げて華と朝陽を見た。確かに二人は頑張っていてすごいと思う。アルファに襲われても負けずにめげずにモデル業を続けている。しかしアルファに襲われたことは表沙汰にはなっていない。どんなところが二人をすごいと思うのだろう。華と朝陽は顔を合わせて困り顔で笑った。
「そっか。すごいって言ったら、差別になっちゃうかな。僕は…オメガ男性なのに人前でお仕事をして、すごいなって、思ったんだ」
「そうですね…無意識に、『同じオメガ男性なのに、すごい』って、思っちゃいました…肌を見せたり…怖く、ないのかなって」
まるで性の象徴化のような扱いを受けるオメガのことを、母を見て知っていたつもりだった。しかしオメガである華と朝陽の口ぶりから、開斗の思っている以上にオメガに対する扱いや差別、闇は深いようだ。きっとオメガ本人達にしかわからない苦しみの数は数え切れない。アイとミイも、そんな闇の中で二人手を取り合って踏ん張っている。
少し、リビングに暗い沈黙が降りる。
「ん~…二人にさ、すごいって言ってたって、伝えとくね。差別じゃないよ。喜ぶと思う。あの子達、素直だから」
開斗の言葉に華は笑顔を見せる。咲也が手を伸ばして、隣に座る朝陽の頭を撫でた。
開斗は話題を変えようと華に向き合う。
「あとさ、華ママと華パパってさ、オメガ同士だったじゃん?華ができるまで、時間かかったの?」
「んっ!?何、急に…」
華は目を丸くして開斗を見た。少し赤くなりつつ目を泳がせている。『できる』は少し直接的過ぎただろうか。
「知り合いのオメガカップルがさ、子供、できないんだって。オメガ同士ってあんまできにくいって言うじゃん。どうだったか聞きたいって言ってたな~って」
「あ、そ、そうなんだ、…両親も、僕ができるまで時間がかかったみたいだよ。結婚してだいぶ経ってから産まれたみたいだし。今度、おばあちゃんに聞いてみるね…開斗もお知り合いと、そんな話をする年頃なんだねぇ」
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